第84話 二つの「命」(1)
図書館からの帰り道。騒ぎを起こしたことで追い出されてしまった私達は肩を落としてトボトボと帰っていた。
正確にはそれは私だけで、ルーザとオスクは別に構わないという様子で歩いているのだけど。そんな反省の色を一切見せない2人に私は絶賛説教中だ。
「もう。出禁で済んだから良かったけど、言い争いするならもうちょっと場所を考えてよ……」
「ハイハイ、わかりましたよ〜っと」
「次から気をつけりゃいいんだろ」
「……」
軽い返事を返すだけで、全く反省の兆しを見せない2人にため息をつく。
仲間として、友人として頼りになる2人ではある。だけど、反省しているのかしてないのかはっきりしない態度ばかり見せられては流石に呆れるものだ。
私はといえば、出禁こそ食らわなかったけど、当然というべきか調べ物は強制終了。おかげで二重人格のことについてもさっきのことまでしか知ることができなかった。あれ以上、進展はなかったとしてもやっぱり心残りがある。
「大体こいつがちんちくりんとか言い出すからだろ。発端はオスク」
「はあ? お前だってデカブツ呼ばわりした癖に」
「はいはい、そこまで。2人の責任でしょ」
また言い争いになりそうな2人の間に入って止める。さっきのこともあって、2人は口ごもりながらも引き下がった。
……これじゃ、なんだか2人の保護者になった気分だ。私は再びため息をつく。
「とにかく、これに懲りて少しは大人しくしてなきゃ駄目」
「「はーい」」
……そんなやっぱり軽い返事を返されて、私の説教は一旦終了することに。
まだまだ言いたいことはあるけど、折角の『普通』の日だ。いつまでもギスギスしているのは気分も悪いし、こうして3人で話しながら帰る時間を台無しにしたくはない。
「じゃ、お小言は終わり? こっちも話しておきたいことあるんだけど」
「もう……。それで、話しておきたいことって?」
やっぱり反省する気は微塵もないらしい、ケロッとして話し始めるオスクにまたため息をつきそうになるところをぐっと我慢し、聞き返す。
オスクがわざわざそうまで言ってくることだ。きっと大事な話の筈だから。
「お前の裏の人格と、絶命の力の処置についてどうするか決まったからな。報告しておく」
「え。いつの間に?」
「ちょっと細工は使ったけど。これ返す」
そう言って、オスクは私の腕に何かを押し付けた。
……細かい彫刻が施された銀の杯。ニニアンさんから譲り受けた、遠写の水鏡だ。
あ、そういうことか……と、私はオスクの細工の意味を理解する。これを使って、オスクは処置について光の世界で待機しているレシスと連絡していたのだろう。
それにしても最近、私のカバンがみんなに便利に使われるまではいいけど、扱いが雑で好き勝手されることが多い気がするような……。
「つか、処置って。手術するみたいに聞こえるんだが?」
「ま、魔術でのモンだし、表現としては間違ってないっしょ。とにかくだ。レシスに相談はしたけど、押し付けられているものである以上、完全に切り離すのは無理だってさ。それで何かに封じ込めておくってことで決まった」
「封じ込めるって……一体、何に?」
「さあね。それは後で決めるとしても、なんでもいいと思うけど。媒体に閉じ込めてさえすれば、またあんな自分の意思に反して乗っ取られて、お前が狂気に囚われるなんてこともなくなるだろうし。でもまあ、無理矢理ではあるから絶対安全とは言えないけどさ」
オスクが言うには、なんらかのものに私の絶命の力と裏の人格を閉じ込める……ということなのだろう。
以前にレシスにやってもらったような封じ方では通用しない。レシスの力は確かに働いていたにも関わらず、あの後すぐに術が解けて乗っ取られてしまったから……。だから今度はちゃんとした媒体に封じ込めておくという手を考えたんだろう。
「強引かもしれないけど、こればっかりはな。裏が改心してくれなきゃ、お前と人格を統一することなんざ無理なわけだし」
「そっか……」
……仕方ない。そんな言葉で片付けるのは簡単だ。
だけど、この問題はそう簡単にいくものじゃない。私がいくら仲良くしたいと願っても、『裏』はそうではないから。『裏』は憎み、破滅させたいと思い詰める程にまで強い復讐心と狂気に囚われている。
なんとかしたい。『裏』も助けてあげたい。でも、今のままでは不可能なんだ。
「ま、お前は封じ込めるのに良さそうなもの探してきなよ。身につけるものならなんでもいいってさ」
「う、うん」
「じゃあ、王都でそれっぽいものを探してくるか」
ルーザもすぐそう言ってくれた。
オスクとは処置のための下準備に取り掛かるらしいために一旦別れることに。私とルーザはぐるりと王都に向けて方向転換し、元来た道を引き返す形で歩き出す。
「うーん……」
行き着いた雑貨屋の棚で、その封印に使えそうなものを探す。
なんでもいい、とは言われたけど、それが一番困るお題な気がした。当然だけどやった試しも知識もないこと。どんなものがいいかなんて見当がつかないし、来たはいいけど私もルーザも品物が並べてある棚で睨めっこするばかり。
「ったく、オスクもどうせならもっと明確に提示してくれりゃあいいのに。これじゃ良し悪しがさっぱりじゃねえか」
「ま、まあ身につけるものって言ってたし、何か装飾品ならいいんだろうけど」
この雑貨屋にも、様々な装飾品が並べられてある。赤や青といった色がひしめき合い、木製の台をカラフルに彩られているその棚。
リボンで作られた髪飾りと、おそらく作り物であろう安っぽい宝石がはめ込まれた指輪にブローチ。上品なチョーカーやブレスレットといった、エメラ辺りが好きそうなアクセサリーが沢山並べられてある。
もっとも、流行はさっぱりという私にはどれが一番なのかは全然わからないのだけど。
どちらにせよ、髪飾りは却下だ。私には姉さんから貰った金の月の髪飾りがあるから。
「手頃なのは指輪か? だが、封じ込めるのには小さすぎるか……?」
「あ……大きさも聞いてなかったね」
オスクから言われたのは『良さそうなもの』ということだけ。大きさもどんなものなのかも特に指示は無し。ここに来て、オスクの提示がどんなに大雑把なものだったか、ということを今更ながらに思い知らされる。
もう、大切なことなんだからオスクもちゃんと指示してくれればいいのに……。でも別れてからしばらく経つし、今更呼び出すのも難しい。こうなったら自分の勘でそれらしいものを探すしかない。
そこそこの大きさもあって、尚且ついつも身につけていても生活や戦いに支障がないものを。棚を舐めるように見ていき、その条件に当てはまるものをとにかく探す。
「あ、これ……」
不意に目に留まった。僅かな光を反射し、小さく輝いたもの。他の色に埋もれそうでも、確かに私の目に飛び込んできたそれを持ち上げる。
金のチェーンに、5センチくらいの透明なクリスタルが通されているペンダント。クリスタルのしっかりした重みがチェーンを通して伝わり、綺麗にカットされていることで揺れ動く度にキラキラと光り輝いた。
「ペンダントか。確かにそれなら良さそうだな」
「うん。これならずっと身につけていても問題ないよね」
それに……なんだかこれを見ていると姉さんを彷彿とさせるから。
水晶の妖精である姉さんを思い浮かばせてくれるこのペンダントが、私にはぴったりだと思って。身につけると姉さんが寄り添ってくれるようで……ひんやりとしたクリスタルでも、私には暖かく感じた。
私はこのペンダントを力と人格を閉じ込めるものに決めて、早速購入。若者に向けた雑貨屋故かそこまで値段も張らず、スムーズに目的を達成。後はレシスに封印を頼むだけとなる。
無事に処置が終わるまでは不安があるけれど……私とルーザは今は雑貨屋を後にした。




