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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第83話 あなたも私(2)


「オレの予想が正しければ……」


 私が何か聞こうとする前に、ルーザは私を他所にパラパラとページをめくっていく。

 何と指定されたわけでもないのにしっかりと。元々決まっていたかのように、何かを目指して迷うことなく。


「あった……」


 やがて目的のページを見つけたらしいルーザは、ページをめくる手をやっと手を止めた。そしてそのページを大きく開き、ルーザは私とオスクに見せつけてきた。


「これって……」


 そこにはフェリアス王国の、正確に言えばフェリアスの王座についている者の項目だった。そしてそこに刻まれている名は、


「ベアトリクス……!」


 ────風の大精霊と同じ名前。そしてさっきの資料と同一人物だと裏付ける決定的な証拠である、その肖像画。これもさっきの本のものと全く差異がない。

 もっとも、こっちのは新しい資料ということもあって色がついてより正確なものだけど。白黒でわからなかった緑と白で彩られた鎧も、風になびくように滑らかな曲線を描いて伸ばされた金髪も、翡翠ひすいのような色を宿す瞳もはっきり描かれていた。


「もしかして、精霊王って」


「そう。風の大精霊が精霊の王国、フェリアス王国の国王ってわけ。ま、肩書きが肩書きだし、大精霊が精霊の国一つ統治したっておかしくないじゃん」


「まあ、そうだが。それにしてもこんな大っぴらにいるとはな……」


 今までとは全く違うパターンに呆気に取られるルーザ。

 ……それは私も同じ。大精霊は今までも、洞穴や氷山の頂上、ジャングルの孤島や竹やぶの御殿など、わかりにくい場所がほとんどだった。まるで何かから身を隠すように。実際、そうだったのかもしれないけれど……。

 だからこうして大精霊がこんな堂々と、しかも国王という色んな意味で目立つ地位に立っているのが驚きだった。


「ま、大精霊がそういった場所にいるのは存在自体目立つから、『滅び』の目から逃れるためにわざと人里離れた場所に籠っているってのは間違ってないけど。その逆もいることも確か」


「逆って、こんな堂々と国王やることがか?」


「元々大精霊がやってんだし、実力はあることは証明されてる。大精霊が国を守るなら、周りも不埒(ふらち)な輩に狙われないよう王を防衛する。一見目立つけど賢いやり方っしょ?」


「……成る程な」


 大精霊が国と民を、民や兵は王の威厳と立場をそれぞれ対価と報酬にして支え合っている……か。確かに理にかなっている。

 国としてまとまっているからいさかいの象徴である『滅び』もシノノメであったような、直接手出しすることを難しくさせている。形は『滅び』に対抗するに理想的な国の在り方だ。


「ま、問題点を上げるとしたら妖精がいないから、変な目で見られる可能性があることだな。お前ら2人はなんとかなるかもしれないけど、他はそうにもいかないし」


「ええと。元は大精霊でも今は妖精だから、私達も無理なんじゃ」


「そう? 割と気配で察せるけど。だけど行方不明だと思われてた救世主がいきなり現れたら、他もなんとかなるかもな」


 なんて、どよめく精霊達の光景を想像したのか、オスクは愉快そうにケラケラ笑い飛ばす。

 きゅ、救世主って……そんな大それた存在じゃないのに。オスクの言葉に、私もルーザも苦笑いするしかなかった。


 とにかく、知りたいことはこれで全てわかった。後はフェリアス王国へ行くための経路探しを3人で相談することに。

 私達はその本に記されてある地図を頼りに、フェリアスまでの道のりを指で辿って行く。


「フェリアス王国は……アンブラ公国の丁度南にあるんだ」


「ああ。これならアンブラまでオスクがゲートを開いて、そこから船で行った方が早いんじゃないか?」


「そうだね。オスク、頼める?」


「別に構わないけど。拒否権とかないし」


 ……と、割とあっさり経路も決まって、目的を達成して肩の荷が下りる。

 アンブラ公国も途中で寄ることになる。もしかしたらまたカーミラさんとレオンにも会えることになるかもしれない。

 何かと助けてもらったり、私達にご馳走など振舞ってくれた、今は近くにいなくとも大切な仲間である2人。その2人の元気そうな様子を思い浮かべると、思わず笑みがこぼれる。

 2人とも、元気にしてるかな。そう思いながら私は本を元の位置に戻した。


 これで調べたかったことも完了。設置されている時計の針をチラッと確認すると、まだ時間にも余裕があった。

 後は……そうだ。一応知りたいと思っていたことを確認しよう。

 2人にも事情を説明して、私はまた別の本棚へと向かう。私が探しているのは医学について書かれた本だ。それも、精神的なものを。

 理由はもちろん、二重人格について知るため。私の場合、病気ではないにしても多少なりとは知識を身につけておきたいと思って。裏の人格と仲良くするなら理解を深めることは尚更必要だ。


「ええっと……」


 と、意気込んだはいいものの、やっぱり病気についての本だ。いつも本を読んでいる私でも、専門的なものは医学用語でびっしり。文字は確かに刻まれているのに、私にとっては支離滅裂も同然で半分も理解出来ない。


「ど、どうしよう。予想以上にちんぷんかんぷんなんだけど……」


「お前でそれじゃ、オレらは力になれねぇな」


 ルーザも困り顔。オスクといえば最初から諦めているようで、ぼけーっとして本を眺めるばかり。


 ここは変な見栄張ってないで、もう少し簡単な本を見よう……。そう考えを改めて、私達一般妖精に近い著者が記した二重人格の原因について考える本を手に取ってみる。

 この本も多少は難しい単語はあるけれど、さっき程じゃない。なんとか理解しようと、かじりつくように本を文字を目で追っていく。


「で。何かわかったわけ?」


「えっと。要約するとこうかな」


 オスクにそう聞かれて、私は読んだことを簡単にまとめてみる。


 二重人格────正確には解離性同一性障害と呼ばれるものになるのは、大抵は辛い経験があった時になってしまうことが多い。

 そして、その辛い経験を『自分のこと』として認めるのはあまりにも酷なこと。当然、生きているなら自分を守ろうとするのが生き物の本能。だから、その辛い経験を「これは自分に起きているものじゃない」と防衛本能が働くのだそうで。


「それで精神が自分でない自分をつくって、起こっている不幸を自分のものではないと思い込む……それが二重人格の正体みたいだね」


「成る程な。お前にはそのパターンは当てはまらないにしても、経験の問題は変わらないんじゃないか?」


「うん……」


 私も、今までぼんやりしていた記憶が、先日の狂気騒動で僅かながらに蘇ってきた。

 だけど、プラエステンティア学園でのことはあまり覚えていないというか思い出せない。あの後、ルーザに寄り添ってもらいながら新聞記事と睨めっこしてみたけれど、はっきり言って進展なし。

 だから私も……学園のことについては無意識にシャットアウトしてしまっていたのかもしれない。


「目の前のことから目を逸らすな、とは簡単に言えたもんだが、それを聞くとそれがかえって逆効果に思えてくるな」


「ま、それがある意味っちゃ正しいっしょ。それに無理して向き合い続けていれば、誰でも壊れるって」


「うーん……あまり解決にはならないかなぁ」


 私のが特異なパターンということを抜きにしても、この問題については奥が深すぎる。数分でどうこう出来る代物じゃない。

 裏の人格と仲良くしたい。私は私にかわりない。そうは思っているけど、やっぱり簡単な話じゃないことを思い知らされた。


「でもまあ、お前が仲良くしたいって望むなら出来る限り協力してやるよ。あんま交流はオススメしないけどな」


「うん。ありがとう、ルーザ」


 難しい問題だ。裏の人格のことも、今の私には何一つわからない。

 だから裏の人格が何を憎んで、何に苦しんでいるのかさえも……。それをいつか分かち合えて、その苦しみから解放してあげたいから。


 ────私は私で、あなたも私。それには変わらないのだから。


「ま、僕もやることはやってやるよ。なにせこのちんちくりんどもだけに世界の命運背負わせるとかできるわけないじゃん!」


「誰がちんちくりんだ、誰が!」


「ま、まあ、オスクから見れば私達って実際チビって呼ばれる部類だし……」


 身長差を見せつけられるかのように、オスクにケラケラ笑い飛ばされながら脳天をポカポカと叩かれる私達。オスクと私達2人の身長差はおおよそ1メートル。二倍以上ある体格差に、ちんちくりんと言われても仕方ない。


「大体お前こそデカブツだろうが。無駄に身長伸ばしやがって!」


「はあ⁉︎ 無駄はないだろ! 気がついたらこうだったんだよ!」


「ふ、2人とも、ここ図書館だから……」


 そう注意しても2人は聞く耳持たず。さらに口喧嘩はヒートアップ。その内に図書館中にいる視線という視線が私達に集まる。

 うわあ。これはかなり……いや、すっごく恥ずかしい!


 そして、その内に騒ぎを聞きつけたらしい職員妖精が駆けつけて、2人を仲裁。その後、こってり叱られてルーザも、オスクもルーザに頭を押さえつけられながら頭を下げて謝罪し、その場は収まった。

 騒いだ罰に、2人は一週間図書館に出禁を食らってしまったけれど……。

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