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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第83話 あなたも私(1)

 

 みんなと別れてから、私は迷わず図書館へと向かった。

 質問攻めにうのを避けるため、遠目から見ていただけだったのに図書館の場所はきっちり覚えていた。それはエメラが指摘した通り、自分が好きなことの覚えは早いことが不本意ながら証明されてしまったということにもなり。

 本好きだと決めつけられるのはちょっとムッとしてしまうけれど、図書館に興味があるのは変わらない。だけどまだ来たばかりの場所、初めて入る施設ということだけあって少々緊張する。図書館の扉は開かれているけど、身体が少し強張るのを感じた。


「失礼しまーす……」


 必要はないけれど、確認の言葉が自然と溢れる。

 当然だけど、しんと静寂せいじゃくに包まれている館内。所狭しとばかりに天井まで届きそうな本棚がズラリと並んで、本棚の中にはびっしりと本が詰め込まれている。

 本独特の紙の匂いが鼻をつき、つややかな床の石タイルに灯りが反射している光景を見ているだけでホッと落ち着く。こういった光景が慣れているせいか、私にはより馴染む気がした。


「えっと、目的の本は……と」


 ここには初めて来る私には分類分けされてある本の場所がわからない。私はすぐさまカウンター付近の図書館の見取り図へと駆け寄る。……あまり利用する生徒や教師がいないのか、目的の本は図書館の一番奥の棚にしまわれているようだった。

 大精霊の存在自体は大きなものでも妖精とは関わりが浅いせいなのか、何処の図書館や資料室でも目立った場所に大精霊についての本が置かれていない。『滅び』に対抗するなら、そこも課題になるのかな……と思いながら、私はその奥の棚へと向かった。


「……っと。あった、あった」


 一番奥にある上に、本棚の最上段にあるという最早嫌がらせにすら思えてくる位置に苦笑いしながら、脚立を使って本を手に取る。

 その本もいつか見た本の例に漏れず、革表紙、黄ばんだ紙と、見るからに古びて骨董品のようなもの。古い文献しかないのは少し心許ないけど……資料の数も限られているし、ワガママは言えないか。


 私は早速、本を開いて目次を開く。風の大精霊の項目を見つけて、目当てのページへと紙をパラパラめくっていく。

 こうして紙をめくる感覚も、先日まで色々あったせいか落ち着くものだ。久々に読書を楽しめることに、自然と気分が明るくなる。

 そして、目的のところに辿り着いた。


「『精霊王・ベアトリクス』……?」


 風の大精霊の項目には、そう記されてあった。

 風の大精霊という肩書きではなく、精霊王という文字。その言葉からして只者ではない雰囲気があるけれど、私は純粋に疑問に思う。

 どうして風の大精霊ではなくて精霊王なんだろう。何か理由があるのだろうか。


 そしてその容姿。鎧を身につけ、槍と盾を構えた勇ましい雰囲気の人間体の女性。風になびくような髪と切れ長な目。見るからに戦士のような風貌だけど、上で二つ結びにしている髪型が何処か女の子らしさを感じさせる。

 それでも挿絵は色こそ付いてないものの、ベアトリクスの佇まいは他の大精霊と変わらない、確かな威厳を感じさせるものだった。


「うーん……」


 容姿はわかったけど、この『精霊王』という肩書きが何を示すのかがまだわからない。

 闇の大精霊であるオスクなら、過去に交流があったとかで何か知ってるかもしれない。でも今、オスクはルーザのお詫びのポテトを食べている頃だろうし。呼んでくるべきかな。


 今呼んできた方がいいか、あとでもいいか。迷っているなら資料を増やそうと本棚に手を伸ばそうとしたその時、


「よお。何か見つかったか?」


「……え? う、うわわっ⁉︎」


 急に背後から声をかけられて足元がふらつく。脚立がぐらりと傾き、ガタッと大きく音を響かせながら。

 お、落ちる……⁉︎


「何やってんのさ、っと!」


 ……が、私の身体が床に激突する前に、聞き覚えのある何処か見下した声と共に何者かに首の根っこを掴まれた。


「あ、オスク……」


「あ、とはなんだよ。折角助けてやったのに」


「……悪い、タイミングが悪かった。これで二度目だな……」


 と、オスクに摘まれたまま、後ろを振り返ると気まずそうに頭をかくルーザが。


「ルーザも。えと、二度目って?」


「お前の半身に似たようなことしでかしたことがあってな」


「へ、へえ……」


 どうやらライヤに同じことにしてしまったようだけど、それは本人達にしか知る由がない。

 それに、いつまでもこの体勢では首が服の襟に圧迫されて息苦しくなってくる。オスクにそれを伝えてすぐに下ろしてもらい、資料を机に置いてホッと息をついて一安心。


「まったく、まだ身体だって万全じゃないんだからあまり危なっかしいことしないでくれる? お前らに余計な怪我されたらレシスにドヤされるのはこっちなんだ」


「ご、ごめんなさい。それで、食事は終わったの?」


「ま、元々付け合わせみたいなポテトだからな。そこまで時間はかからないさ。それでお前の様子を見に来たんだが……今何してるところなんだ?」


「そうだったんだ、ありがとう。ええと、風の大精霊について調べているところで、名前と容姿はわかったんだけど、ちょっと気になることがあって」


 私はさっきの本を広げながら、今わかっていることを2人に説明する。

 ベアトリクスという名、どんな見た目をしているのか、そして、謎の『精霊王』という肩書き。表面的には知れたものの、まだ情報の量が今ひとつでオスクに聞きに行こうとしていたところまで経緯を話した。


「ふぅん。そこまでいってんなら余計な説明の手間が省けるな」


「あ、やっぱり何か知ってるの? この肩書きの意味」


「そりゃあね。何年も顔合わせてないにしても、大精霊間の多少の交流はあるし。何処かに影の世界の国について詳しく書かれたものってない?」


「そりゃ図書館だし、探せばあるにはあるだろうが、それをどうする気なんだよ?」


「口で言うより見た方が早いっしょ」


 そんなオスクの言葉に私達2人は首を傾げながら、ルーザは自分の記憶を頼りに影の世界にある国々についての本を持ってきた。

 その本の目次にはシャドーラルやアンブラなどの見知った国、まだ名前も知らない国など様々な国が記されてあった。多分、オスクの言葉からこの国々のどれかに風の大精霊の手がかりがあるんだろうけど……。


「で、この中のどれを見ろって?」


「フェリアス王国ってとこだよ」


「フェリアス……ああ、精霊の王国か。あ、それってまさか……!」


「そう、そのまさか」


「えっ、えっ?」


 フェリアス、と国の名前を聞いただけでルーザは何か察したらしい。オスクもオスクで、何かに気づいたルーザにニヤッと笑ってみせるばかり。


 完全に置いてけぼりの私は、そんな2人の様子に戸惑うことしかできず。ルーザは持ってきたばかりの本を素早く開いて、何かを調べ始めた。

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