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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第8章 起点に立つ刻-Restart-
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第82話 いつか来たるべき日へ(2)


 みんなとのおしゃべりも終えて、魔法書をカバンに詰め込んだ後。みんなも帰り始めて、カバンを持ち上げて私も帰ろう、としたその時。


「あの、ちょっといいですか。ルジェリアさん……でしたっけ」


「あ、はい。なんですか?」


 タイミングを見計らってか、そう声をかけてきたのはルーザ達のクラス担任である女の教師妖精。私は名を呼ばれたことで、反射的にそう聞き返した。


「授業に使った教材を数人で手分けして資料室に戻しておいてくださらないかしら。教室の配置を覚えるついでに」


「わかりました。いいですよ」


 ついで、とはあるけれど教室の配置を覚えるために用意してくれた機会だ。断る理由もないし、別に帰るのを急いでいるわけでもない。私は先生の頼みを聞いて、頼まれた教材の確認をする。

 およそ数十冊程度の魔法書。厚さは2センチあるかないかくらいのなかなかのものだったり、薄い副教材だったり。確かにこれは数人での協力が必要だ。案内はルーザに、手伝いはエメラとイアに頼もうかな。


「ではよろしくお願いしますね。……それにしても姉がいたとは……不思議ですね」


「あ、はは……」


 私がルーザの実の姉だとこの教室で発表した時に、教室中がどよめいたのは私の記憶にも新しい。

 それも当然か。異世界に双子の姉がいました……なんて、誰だって普通は驚く。私なんて狂気に取り憑かれる程に。

 ……いや、これ以上は止めよう。冗談でも笑えないから。


「ルーザ、この魔法書の置き場所の案内頼めないかな?」


「いいぜ。付いて来いよ」


 ルーザは快く承諾してくれた。私とエメラとイア、ルーザの4人で分配した魔法書を持ち上げる。あと、興味本位で付いてきたオスクもおまけに。


「資料室は東館……ここと丁度反対側だな。見て回るならぴったりなもんだ」


「うへぇ、東と西で分かれてんのかよ。オレ達のとこなんて校舎ひとつだってのに」


「教室だって4つしかないもんね〜」


 まさに必要最低限という言葉がぴったりな学校だ。でも古いからといって、その暖かみが私や影の世界の妖精を受け入れてくれたんだ。床はたまに抜けるけれど。

 ……やっぱり危険だ。今度城に帰ったら姉さんに相談して全体は無理にしても、床の補強工事くらいは頼んでおこう。


 とにかく、魔法書を運ぶのと学校内の見学だ。配置は覚えるに越したことはないし、早く覚えて施設を有効活用しなきゃ。

 ルーザが早速先頭に立ってくれて、私達はその後ろについていく。スピードは遅くなるけれど、学校内を早く覚えるためにキョロキョロしながら進んでいく。


「……ここが薬草園、その隣が魔法薬の実験室。この辺りは研究好きな奴が入り浸る場所だな。邪魔したら怒鳴られるから精々注意しろ」


「う、うん」


 ルーザの冗談かもわからない忠告におっかなびっくりで頷く。

 薬草園まであるのか……。規模も、綺麗さも、私達の学校とは大違い。設備も整っているし、少し羨ましいくらいだ。


「ふぅん、随分と色々揃えてんな。覚えんの面倒臭くない?」


「まあ、使えるものなら使わないと。色々試すのも面白いかもよ?」


「てか、なんでまたお前はついて来てんだよ」


「別にぃ。妖精が何してんのかちょっと興味があるってだけ」


 オスクは宙に浮きながら気だるそうに返す。本当に休暇気分で学校を見に来ているらしく、私達は苦笑い。ルーザもそんなオスクの態度に呆れてため息を漏らす。


 でも、オスクには私達の気づかないところで色々と気遣ってくれていたのも事実。レシスに頼まれていたこともようやくひと段落ついたところだし、少しはオスクも私達と同じようにゆっくりしていいだろう。

 ルーザも少なからずオスクのことを気にしているのか、ため息をつきつつもそれ以上は文句を言わなかった。


「お前がふらふらしようが勝手だが、騒ぎは起こすんじゃないぞ」


「ハイハイ、わかってますよ〜っと」


 オスクが軽い返事を返すのを合図に、ルーザは学校の案内を再開した。

 今いる西館と東館を繋ぐ通路を目指し、所々の設備を紹介してもらう。


「こっちが職員室。で、この先にある通路の突き当たりに図書館がある」


「あっ……!」


 図書館と聞いてパァッと表情がほころぶ。

 だけど、次の瞬間にハッとして振り向くとエメラにクスクス笑われていた。


「もう、ほんとルージュって本好きだよね〜」


「だ、だってそれ以外にやることなかったし……」


「後で好きに覗いてくればいいだろ。別に趣味を否定したりなんかしねえよ」


「う、うん」


 いつものことだとからかわれているようでちょっとムッとするけど、それ以上に興味が勝る。

 大精霊についての本があるかもしれないし、これから会う予定の風の大精霊のことについて少し調べもつけておこう。


 でも、ここの辺りは職員室があるからか妖精や精霊達の出入りも多い。私達が光の世界からの生徒というのは学年問わず知れ渡っているようだし、用事もあるから早く離れた方がいいかな。


「……ここの案内は後にするか。また質問攻めくらってもな?」


「そうだな」


 頼られるのは嬉しいけど、それが続くと身体が持たない。私達は周りに気づかれる前に、いそいそと人混みを掻き分けて東館へと向かった。


 そして目的の資料室へと到着。私達は持ってきた教材をルーザの指示で元に戻していく。


「その厚い辞典が手前の棚。その薄めのやつは右から三つめだ」


「うん、分かった」


 ルーザに指示してもらいながら、3人で手分けして教材を元の場所の棚に戻していく。徐々に腕に抱え込んでいた魔法書も減っていき……やがて、全てをしまうことが出来た。


「ふいぃ。これで全部だな」


「うん! おかげで色々覚えられたし」


 イアもエメラも、重い教材を運んだことでこった腕と肩をぐるんと回してほぐす。まだ曖昧ではあるけれど、学校の色々な場所を見れたし、使っていくうちに自然と覚えるだろう。今回の成果としては満足だ。


「ここで一旦解散にするから後は好きなとこ行けよ。今ので大雑把でも少しは覚えただろ」


「あんなの一発で覚えられるわけないじゃん。しばらくはお前らについていくか」


「……大精霊は老人ボケで物覚えが悪い、と」


「だから変なメモするな! あと、誰が老人だ!」


「というか、なんなのそのメモ?」


 またしてもルーザが『オスクの弱味メモ』に何やらしたためているのが気になって、思わず口から疑問が漏れる。


「これか? レシスに頼まれてな、オスクのことなんでもいいから弱味になりそうなこと書いてくれと」


「あいつ……」


 悪びれもせず、開き直ったように言うルーザの言葉にオスクはさらに機嫌が悪くなる。そのままルーザからメモをひったくると、書いたばかりのメモをビリビリに破り捨てた。


 それにしてもレシスの頼みだったのか……。これを材料に、またオスクに用事を言いつけるつもりだったのかな。

 でもこんなメモなんか無くても、何かしらでレシスはオスクの力を借りようとするだろう。2人は以前からお互いを信用している様子だったし。……方法は褒められたものじゃないけど。

 まだオスクの苦労は絶えない様子。そんな近いうちにまたこき使われるオスクに同情して、私は苦笑するばかり。


「あんの鬼畜精霊、今に見てろ……!」


「ま、オレも共犯だし少しは責任取ってやるよ。昼食の時のポテト奢るから、それでチャラでいいだろ?」


「一つで足りるか! せめてなんか付けろ!」


「あ、わたしもクレープ食べるー!」


「まだ食う気なのか⁉︎」


 なんて、ワイワイしながらみんなはカフェテリアに行ってしまった。

 ……あの様子じゃ、裏切られる心配どころか、裏切ることすら知らない感じだ。じゃあ私は今まで一体何に怯えていたというのやら。


 暖かいのか、それともただ素の状態なのか。よくわからないけど、それはそれでいいかなと思える自分がいる。以前までは考えられなかったことだ。

 何が正解で、何が間違いとかじゃないから。私達は私達、私達なりのやり方がある。型に縛られず、周りに流されず、自分なりのやり方で『普通』に楽しめばいいんだ。

 まだわからないことだらけで、色々教わりながらだけど……少しずつ前に進めている気がした。


「さてと、私は調べ物かな」


 目の前で騒がしいみんなを見て、笑みをこぼしながら元来た道を引き返した。

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