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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第9話 交わりし時(1)

 

 ルーザがこの『光の世界』に来てから15日目。今日はとうとう満月の日。……ルーザが元いた世界である、『影の世界』に帰る日だ。

 私の屋敷でルーザは荷物をまとめている。でも旅行目的で来た訳でもないから、ここでお土産代わりにいくつか買ったものだけをルーザはカバンに詰めた。

 

「……これで最後だな」


 そうして荷物を整理し終えたルーザはカバンを持ち上げ、部屋を見渡した後に私に向き直った。

 ……いよいよルーザが帰る。そんな事実を目の前に突きつけられて、今更になって寂しい気持ちが押し寄せてきた。

 でも、ルーザだって急にこの世界に飛ばされてきてしまったんだ。家で待っているらしい執事さんにも心配かけているだろうし、早く帰ってその顔を見せて安心させてあげて欲しい。我儘なんて言えた立場じゃないんだ。


「その……世話になったな、ルージュ」


「いいよ。帰るための手伝いをしただけだし」


 私は思わず首を振る。

 謙遜でもなんでもない。私がしたことなんて泊まらせたり、一緒に調べ物したくらいだし。お世辞にも大したことなんて言えないことばかりだ。

 それに、私がしてあげたばかりじゃない。ルーザと一緒にいれて楽しかったし、お礼としてスカーレットベリーも貰った。2人で食べたからかスカーレットベリーは今まで食べたことないくらいに美味しかったから。


「そういや、あいつらも来るのか?」

 

「うん、2人も見送りたいからって」


 イアとエメラにもルーザの見送りをしようと提案したら、もちろんと言ってくれた。2人もルーザを友達って思ってるから当然、なのかな。

 あとは鏡の扉が開くのを待つだけだ。満月が出てこないと扉が開かないから夜まで時間がある。大抵のことはしたし……最後になにか出来ることあったかな。


「……あ、そうだ」


 色々アイデアを練っていたら、城にペガサスがいることも思い出した。ペガサスはまだルーザにも紹介していなかったし、空から街を見下ろしてみるのもまた違った景色が見られるし、この機会に丁度いい。

 今までは動いてばかりだったから、こうした気分をリフレッシュさせるようなことをしてみるのもいい筈だ。


「ルーザ、城に行かない? ペガサスで街を一望してみるのもいいんじゃないかと思って」


「……それ、揺れ激しくないのか?」


「え? あ、確かに気性が荒いと振り落とされそうになるけど空中遊覧ぐらいだったら大人しいやつで大丈夫だよ」


「そうか」


「そういうの、気になったりするの?」


「……いや、ペガサスとかオレの居たところじゃ馴染みないからな。決めたならさっさと行くぞ」


「あっ。う、うん」


 確かに、ペガサスもこの国では城に沢山いるけど、周辺の国にはあまり置いていないから珍しいのかもしれない。

 でも……気のせいかな。ルーザが一瞬、嫌そうに顔をしかめたのが見えたような。

 でもルーザは行こうとしてくれているし、きっと私の見間違いだったのかもしれない。


 そうと決めたら姉さんにも許可取らなければいけない。ペガサスは国の所有物だし、大切な城の仲間。もし万が一に無断で怪我させてしまったら大変だ。

 ルーザの荷物は一旦屋敷に置いて、早速2人で城に行くことに。調べ物に行ったきりで案内もちゃんとしてなかったから、中の案内も兼ねて。





 城に到着して、私達は中に入って見学する。もう前みたいにこそこそする必要はないから、今度は正面から堂々と入る。

 城のエントランスと王座の間、地下にある資料室など様々な場所を見てまわる。やはり城は広いもの、全て見て回るだけでかなりの時間がかかった。


 でもそうしている内に程よく時間も潰せることが出来たし、王座に行った時に丁度良く姉さんに会えたから許可もちゃんと貰えて、準備完了。

 私達は城の見学の後中庭に出て、私はペガサスの厩舎からルーザが気にしていたために、大人しいのを選んで一頭連れ出してきた。


「あれ、ルーザ?」


 ペガサスを連れ出してくるために一旦ルーザと離れた場所。そこにはルーザが見当たらない。

 ここで待ってて、って言ったのに。どこに行ったんだろう。


「……っ、悪い。待たせた」


 しばらくすると、城の裏手からルーザが戻ってきた。ルーザは何故だか口を拭っている。


「あっ。どこへ行ってたの?」


「い、いやちょっとな」


「そう。迷ったのか心配しちゃった。ここ結構広いからさ」


 裏手に行ってたとしてもこの短時間だ。特に気になることでもないし、ルーザも何か用事があったのかもしれない。

 とにかく用意も出来たし、時間も限りがある。日が暮れる前に済ませてしまおう。


 2人でペガサスにまたがり、飛び立つ準備をする。

 ペガサスに乗るのも久しぶりだ。衛兵に無理を言って乗り方は伝授してもらったものの、期間が空いていたこともあって手綱を握る手に緊張で力が入る。

 空でヘマをしたら危険だ。ここは慎重にいかなければと思い、手順をしっかり確認しながらペガサスに合図を送る。


「よし、飛んで!」


 ペガサスに命じるとペガサスは頭と前足を大きく上に上げる。そして翼を力強くはためかせた。抜けた羽毛が風と共に飛び散っていく。

 そして数回羽ばたくと……いよいよ空へ舞い上がった。


 舞い上がった拍子に、ブワッと風が強く顔に吹き付ける。そしてしばらくすると、足元にあった地面がみるみるうちに離れていってしまった。やはり自分で飛ぶのとは違って、この大きな翼だとそれなりに迫力がある。

 体勢も安定できてるし、ひとまず安心だ。私は手綱でペガサスに合図を送り続けながら、王都上空までペガサスを飛ばしていく。


「あっ、ここがこの前みんなで来た通りだよ」


「一回自分で飛んだこともあるが、また違ったように見えるな」


「うん。モノが違うだけでなんか新鮮な感じがするんだ」

 

 そう説明しながら私は手綱を手前に引いてペガサスをさらに上昇させる。そのままある程度の高度まで昇り、その高さで安定させた。

 地上にいる時はあんなに広い王都がここからだと視界に収まる程に小さい。それにこの高さだと端にある海まで見えるし……自分だけの展望台にいるような気分だ。なんだか贅沢なことをしているようで、自然と気分が明るくなる。

 ルーザは羽織っている法衣のマントを風になびかせながら、北の方角を見据えた。その先には見慣れた屋敷の屋根が木々から覗いている。


「ふーん、ここからでもお前の屋敷が見れるんだな」


「正確には姉さんの別荘を間借りさせてもらってるだけなんだけど。だからそこそこ大きいし、あの森の中で建物なんて一つしかないから目立つんだろうね」


「かもな。まあ、ここで見てると小さいもんだが」


「森の木とかに囲まれてるせいかもね」


 森の規模が大きいから、その中にある建物は確かに小さく見える。近くで見ると見上げる程大きいのに。


 ────ふと、街の外れにある大きな山に目が溜まった。二日前に行った廃坑がある山だ。

 そうだ。あのドラゴンがいた廃鉱山にも行ってみよう。怪我のことも気になっているから、ルーザが帰る前に丁度いい機会だ。

 私は今度はペガサスを北東に旋回させて、山の方へ向かう。ペガサスの大きな翼がヒュウッと風を切る音と共に私達は空中を駆け抜けた。

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