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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 五線譜の軌跡
237/711

オスク過去編・闇の中の異端者-後編 2/2(5)


 ……あの後どうやって逃げてきたのかわからない。

 気づいたら鏡の前に立っていた。世界を繋ぐ、やたら煌びやかな鏡の前に。

 ズタボロで、へろへろで。今ある力を使い果たした身体は、どうして走って来れたのかすら分からなくて。足止めしてくれた部下と光の精霊達を逃して……その後、どうなったのか。それすらも思い出せない。


「ホントに……クソみたいだな。この世界は」


 自分を照らす夕日は眩しく、その空は毒々しいまでに鮮やかなオレンジと紫に染まっていて。クソみたいに空は綺麗で、憎たらしい。やがて夜の色に閉じられるのだろう……そんなことを考えた。


 逃げ出したら、部下と光の精霊はどうなるだろう。「大罪人」というレッテルを貼り付けられた今、あと何年したらここに戻ってこれるのかもわからないのに、あいつらは僕を逃がすために必死になってくれた。

 背負っていた責任から解放されたからか、足首まで伸びた後ろ髪が重たい。力を使い果たした今は、こいつはただの飾りにしかならない。


 ……これを切ったら、力は半分くらい削がれる。だが、それでも。今、僕に持つべき力の量じゃない。

 僕が、僕自身を認めるまで。だからこいつは……


 ────スパンッ。


「……ははっ、案外呆気なく切れんじゃん」


 大剣を添えてから、一気に横へと切り裂くと後ろ髪は思った以上に呆気なく僕の元から離れた。

 力を半分失ったというのに、身体は軽い。今飛ぼうと思えば、いつも以上に高く飛べる予感すらした。最も、今はとてもする気になれないが。


「……ん?」


 まだ長いままの髪が一房分残っていた。右肩から流れる少量の黒髪。どうやらさっき切り損ねた部分があったようだ。

 これも、切ってしまおうか。……そう思った時。


「────あ」


 懐から、ポロリと何かが落ちた。それを見た瞬間、時が止まったような気がした。

 紅く輝く、縦長で綺麗に磨かれた石。いつかティアが僕の髪に飾ろうとして、そのまま貰った石。あったことも忘れかけていたのに、この石だけは今までしっかり持っていたなんて。


 ……しゃがみこみ、落ちた石を拾い上げる。いつかティアが言っていたようにその石は今も変わらず僕の目と同じ色を写し、夕日を反射して眩しいくらいに輝いた。

 形見、なんてそんな縁起でもないものにする気はさらさらないけど……せめて、今日のことを忘れないために。全ての発端となった今日という日のことを色褪せないようにするために。僕は石を強く握りしめる。そして、


「これで、よしと……」


 僕は僅かに残った後ろ髪にその石の通して止める。しっかり固定し、落ちないことを確認してから立ち上がった。

 もう二度と、ここには戻れなくても。今日に、ようやく成し遂げられたことがまた無くなったとしても。僕は必ず……


「────お前を、引きずり落とす」


 その声が誰にも届かなかくても。その決意を表す言葉は確かにここに響き渡る。

 僕は鏡に飛び込み、決して投げ出すまいという気持ちを抱きながらその場から離れた。軽くなった背にある、少しだけ残った後ろ髪を揺らしながら。



 ────闇はまた、広がった。

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