オスク過去編・闇の中の異端者-後編 1/2(2)
「────は? いなくなったって……どういうことなんだよ」
それから数日後。その知らせは突然ルジェリアから知らされた。
────ティアが突如として行方をくらませてしまったと。僕は理解が追いつかず、思わず聞き返していた。
いなくなった。あいつが……ティアが。あんなお気楽で平和ボケで、いつも笑っていて、そんな笑みで僕を支えてくれていた対の存在が。なんで……そんな。
何故。どうして。そんな言葉ばかりが僕の頭の中を埋め尽くしてぐるぐるする。息が、呼吸が、早くなって荒くなって……訳が分からなくなって。
「私が迂闊だったんです……少し遠いところへ行くと聞いて、私も付いて行くべきでした……なのに!」
ルジェリアが言うには3日前、ティアが仕事のために出かけると一人で持ち場を離れたそうだ。
大精霊の仕事は内容にもよるが、一日かかるのは別に珍しいことじゃない。出かけてから一日目はルジェリアも特に気に留めなかったようだが……ティアは3日経っても帰ってこなかった。
ルジェリアも流石におかしいと思い、数人の光の精霊と共にティアが仕事に行く場所をくまなく調べたそうだが、一向に見つからなかったらしい。
なんで……あいつが。今まで光と闇との確執を無くすって張り切っていたのに。そしてやっと、今になって改善の兆しが見えてきたというのに。
「あの時、私が付いて行っていれば……。何度やっても、何処に行っても、ティアさんの生命の気配が掴めないんです……!」
「お、落ち着け。まだそこまで遠くに行ったわけじゃないだろ」
「……っ」
そんな声もよく聞こえない。
────いなくなった。ただそれだけが僕の頭の中でぐわんぐわん響いている。
「……っ、今すぐ探す! 訓練場にいる奴らを総動員して探し出せ!」
「あ、ああ」
「ルジェリアも! 光の精霊を呼べるだけ呼び出して探すように命じろ!」
「は、はい!」
この場にいる全員が首を振ったり断ったりしなかった。僕の荒げた声に誰一人として拒否することなく、急いで捜索に取り掛かった。
ようやく部下も言うことを聞くようになって来た頃だった。勢いのまま、怒りなのか戸惑いなのか、ごちゃごちゃになった感情から成る剣幕に部下も拒否する者はなく、思い当たる場所を徹底的に調べさせた。
────あいつが、いなくなった。
────あいつが、消えてしまった。
────あいつが、この世界から……。
……僕の中で、そんな感情ばかりがぐるぐるする。
何日も何日も、まるで親を見失った迷子のようにふらふらと、おぼつかない足取りで一日中彷徨うように探し回っていた。
休むこともなく、食事も取らず、身体がボロボロになろうとも。ルヴェルザとルジェリアが止めるまで、崩れ落ちる寸前まで、僕はただ一人の幼馴染の影を求めていた。
身体ももう言うことを聞かず、足を引きずってでもと、僕は2人の手を振り切って……。
「お、オスクさん、もうこれ以上は無茶ですよ! もう体力の回復もできないです!」
「おい、悪いことは言わねえから戻れ。このままだと見つかる前にお前がくたばるぞ!」
「そんな、訳にはいかないだろうが……。はや、く、探さない……と……!」
心はそう思っても、いくら身体に鞭打っても、僕の足は動きはしない。探したいという思いに反して、身体のパーツ全てが言うことを一つだって聞き届けはしない。
そんなことをしてももう無駄だと、嘲笑われた。蔑んでいた部下の目もようやく慕う眼差しに変えられたというのに。なんで……あいつがいなくならなくちゃいけないんだ。
今までルジェリアに傷を治させ、ルヴェルザに力を無理やり引き出させて探し回り続けた。
……それでどれだけの時間が過ぎただろうか。そんな誤魔化しが通じないくらいにまで、身体が形を保っていることが不思議なくらいに壊れかけのまま彷徨っていた。
「あいつが、いなくちゃ……ならない。なんで……なんで消えなきゃならない、んだよっ……」
「お前……」
「オスクさん……」
支えを無くし、ぐらぐらと足元が崩れていく。あの笑顔が、お気楽と思っていても暖かかった声が今は遠い。
地から這い出した手が、『ティア』という存在を覆い隠し、遮断して、この世界から無かったものにされているような気がした。闇とも違う、得体の知れない何かがティアを包み込んで、消し去っているようで。
僕の中に後悔がドロドロと押し寄せる。どうしようもない現状に、情け無い僕に、ティアを連れ去った現実に……全てに。
そんな僕に、追い打ちをかけるように雨がしとしとと降り始める。冷たい雫は僕のローブを、髪を、額を濡らして滴り落ちる。
ぽたぽた、ぽたぽた……流れて、こぼれ落ちて。僕の手の中のもの全てを流してしまうようで。雨に紛れて、僕の目からも雫が一つ。
────消えた。消えた。きえてしまった。
なんであの時もっと話さなかったのか、なんであの時もっと一緒にいなかったのか、なんであの時……僕は嫌な顔をして手を振り払ったのか!
「くっそおおおぉぉォオオオーーーーーッ‼︎‼︎」
────僕はただ叫ぶ。ただひたすら声を上げる。
悲鳴に近いそれは空気を引き裂き、震わせた。まだ残っていた魔力は長い後ろ髪を触媒にして、暴発していく。闇の塊で成された鎖は、その叫びで力尽きた僕の身体を地面と縛り付けて。
そして僕は、意識も闇に沈ませた……。




