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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
番外編 五線譜の軌跡
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オスク過去編・闇の中の異端者-中編(2)


 足首まで届く後ろ髪をなびかせ、魔力をたぎらせていく。

 たとえ異端者と呼ばれていても、必死こいて努力して身につけたものを、今ここでぶつけてやる。


「『サモン・アビス』‼︎」


 地の底から深淵の闇を呼び出し、あの女に向かって放つ。

 闇は僕の命によって這い出し、女ににじり寄っていく。やがてそれは刃を形成し、女に襲いかかろうと迫る。

 ……が、女だって黙って受けてくれる筈がない。女はニヤッと笑うと鎌を振り上げる。


「『ディスピアーレイ』!」


 鎌から放たれるのは漆黒の光。それが闇の刃とぶつかり合い、ドカン! と派手な音を立てる。

 ……相殺されたか。まだ全力を出していないし、これも想定の内だったけれど。それでも決着を着けるには一筋縄ではいかないのは予想がつく。


 まあ、いいや。久々に骨のある奴だ、少しは暴れても構わないっしょ?

 そうこじつけて僕は大剣を振り上げる。女もまた、鎌を構え直して刃をそれぞれの敵に向けて、同時に振り下ろす。


「『カオスレクイエム』!」


「『グリムリーパー』!」


 魔力が込められた刃がぶつかり会い、金属音に、火花と、衝撃波と、様々なものを撒き散らす。周りの部下は衝撃に耐えきれず吹っ飛ばされ、その場に這いつくばるのが精一杯。

 それでも、僕も女も止まらない。お互いに負けを認めたくないという一心から退くという考えは微塵も持たず、脇目も振らずに各々の武器を振るう。


「どうだよ、大精霊様。降参するか⁉︎」


「はん、誰が。そっちこそ退いたらどうなのさ!」


「ほざけ。ここで投げ出してたまるかよ」


「あっそ。ならとっととカタをつけるまでだ!」


 お互いに煽るような言葉を投げかけて挑発する。それと同時に、この女とは似ているのかもしれないという考えが嫌でも浮かんでくる。戦法も、言動も、僕のやり方と同じに思えて。

 ……いや、今はどうでもいい。さっさと決着を着けて女が何者なのかを聞き出してやる。


「『ゲーティア』‼︎」


「デスディザ────」


「こらーーーっ!」


 ……っ!

 突如として、僕と女の間に別の甲高い声が割り込んでくる。僕は突然のことに驚き、女もその声にビクッとして身体が固まる。


「もう、見に来てみれば! あれほどトラブルは起こしちゃ駄目って言ったのに」


「チッ、いいところだってのに……」


 突然、ずんずんと歩いてきたまた別の女精霊。そいつの姿を目にした途端、目の前の女は気まずそうに鎌を下ろす。

 今来た女精霊は腰まで届く桃色がかった髪を揺らしながら、目の前の女とは正反対の白いドレスに身を包んでいる。瞳も真逆のルビーのような紅い色を写しているが……それ以外は目の前の女とほぼ瓜二つ。

 もしかしてこいつら、双子なのか?


「えっと、オスクさん……ですよね? 闇の大精霊の」


「そうだけど。お前は何なのさ」


「私はルジェリアといいます。用事があるのはこっちの、私の妹であるルヴェルザの方だったんですが、様子が気になったので見にきてみたんですけど……」


 ルジェリアと名乗った女は目の前の女……ルヴェルザだったか、そいつをじとーっとした目で睨む。ルヴェルザも、そんな眼差しを向けられて気まずそうに顔を逸らす。

 ……どうやらルジェリアは、ルヴェルザが何かトラブルを起こしてないか気になって見に来たというわけか。僕と武器を交えている時点でその心配は的中だったということだろうけど。


「もう、ルヴェルザったら喧嘩っ早いんだから……。ティアさんのところにまで闇の精霊達が逃げ出してきたんだよ!」


「そいつらなら知らないぞ。そっちが勝手に飛びかかってくるから振り払っただけだ」


「だけどオスクさんのことは別でしょう? 闇の大精霊がどんな精霊(ひと)なのか気になるって言ってたし」


「ぐ……」


 言い訳出来ないらしく、ルヴェルザは言葉を詰まらせる。ルジェリアはそんなルヴェルザに呆れたようなため息をつくと僕に向き直った。


「ええと……ルヴェルザがすみません。でも、用事があるのは本当なんです。失礼なことをしておいて差し出がましいことは承知ですけど、聞いてもらえませんか?」


「ま、いいけど。すっごくどうでもいい内容じゃなけりゃ話を聞くぐらいはしてやるさ。さっきのもまあまあ楽しかったし」


「え? あ、はい……じゃあ」


 まさか楽しかったと言われるとは思っていなかったのだろう、ルジェリアは一瞬戸惑った。

 でもまあ、それは本心だ。口ばかりで手応えのない部下よりは明らかに実力はあったし、何より何処か楽しんでいる自分がいた。生意気な女だけど……力があるのは認めていた。


 それで少しはホッとしたのだろう。ルジェリアは少し肩の力を抜いて、僕にその用事を話し始めた……。





「で、戻ってきたわけだけど……」


 ルジェリアから用事の件について聞き終わり、逃げ出した部下達を落ち着かせ、今日の仕事もあらかた片付いたことで僕は家でもある神殿に戻ってきたところだった。

 いつもは当然、大精霊である僕しかいない。だけど今ここにいる影は2人。


「なんでお前がいるんだよっ⁉︎」


 僕の視線の先、そこにはのうのうと神殿内に居座っているルヴェルザに怒声を上げる。それでもルヴェルザは動じることなく、涼しい顔をするばかりで。


「だから言っただろ? 匿ってくれって」


「僕は頷いた覚えはないんだけど……」


 ルヴェルザの言葉を聞き流し、僕は再び盛大なため息をつく。


 ……話をまとめるとこうだ。

 僕の予想通り、女……ルヴェルザは死の大精霊だった。肩書きの通り、生けるものに死を与え、転生させることが主な役割らしい。しかし、この世界は表裏一体が理────命の大精霊であるルジェリアにこそ劣るものの、『死』の力を逆流させて傷の回復も多少は出来るらしい。

 今、主要世界である光の世界も、影の世界も争いに明け暮れている。そのために2人の力にすがる奴らは多くて……落ち着くまで身分と姿を隠していたいのだそうで。

 ルジェリアはティアの神殿に。そしてルヴェルザはというと……なんでだか僕の神殿に。『滅び』に対抗出来る鍵という理由から僕に拒否権など無に等しく。理解する暇もないまま、押し付けられるように今の状況に至った。


 なんで、僕の周りには話を聞かない奴ばかりなんだか。少しは僕に言い訳する時間でもくれてやってもいいだろ⁉︎


「そんなに嫌かよ。オレが何かしたか?」


「ああ、したよ。事前連絡も無しに勝手にひとんちに上がりこんでくる奴がいるか!」


「そりゃ失敬だったな。礼になんでもやってもいいんだぜ、オレは。お前が手を焼いてるっていう部下の指導くらいなら軽いが?」


「……っ」


 それを聞いて僕は固まった。何故って、僕はルヴェルザに部下の指導をしていることは一度も口にしていないから。

 部下に手を焼いてることは僕が異端者なんて呼ばれている時点で明らかだ。それなのに、どうして指導までしていることを知っている。


「なに驚いてんだよ。変なこと言ったか?」


「……別に驚いたつもりはないけど」


「嘘つくなよ。大分動揺してるし……それに、今『なんで分かった?』って思っただろ?」


 ギクリと肩が震える。動揺していたことも、その気持ちも、全てこいつにドンピシャで当てられてしまったから。戸惑いで頰が強張っていることなんて確かめるまでもなく。

 こいつ……まさか心が読めるのか? だとしたら厄介なことこの上ないのだが。


「オレは『死』だぞ? 魂の揺らぎ方を見て考えていることもわかる。魂が本質の精霊なら尚更、あんたが大精霊だということもそれで理解した」


「……こんなことしておいて、黙ってるとでも? 心を読むってことはそれ相応の制裁があるってこと理解してるんだろうな」


 言うが早いか、僕は魔力を張り上げる。闇の塊が地の底から這い出し、ジワジワとルヴェルザににじり寄って神殿内に暗い影を落とす。

 だが、そんな僕の殺気にもルヴェルザは動じることなく、フッと不敵な笑みを浮かべる。


「悪意を持ってやったわけじゃねえよ。言っただろ、あんたのことが気になってたって」


「……なにが言いたいのさ」


「あんたが異端者なんて呼ばれていること。……オレにはそれでいいと思うけどな」


 ……。


「……は?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。僕の身体は固まり、周りに這い出していた闇も引っ込んでしまった。

 戸惑う僕にルヴェルザは気にせず、言葉を紡ぐ。


「闇の精霊にしては真面目すぎてそんな風に呼ばれているんだろ? それはオレから見れば褒め言葉だと思うんだが」


「何処が褒め言葉なのさ。散々馬鹿にされてるってのに」


「あんたが何をしたいかなんて心を読まずとも分かる。そうやって嫌われ者を装ってまで部下を掻っ攫ってるのは、この世界に降りかかろうとしている『滅び』で死なせないためだろ?」


 図星を突かれ、言葉が詰まる。会ったばかりの奴にこうもあっさりと自分の本心が見抜かれてしまったことに、今までないくらいに戸惑っている。

 心が読めたにしても、そこまで理解するのには難しい筈。なのに……どうして分かったのか。


「オレがあんたのところを志願したのは気まぐれじゃない。それが分かったから興味を持った。だから見せてくれないか、ってな」


「見せるって何をさ」


「異端でも捻じ曲がったこの世界を正してくれる様子を、だよ」


 そう言って……ルヴェルザはまたニヤッと笑う。

 そうして出会い方も良いとは言えず、寧ろ第一印象は最悪と言ってもいいくらいのものだったが……こうして僕は死の大精霊・ルヴェルザと出会った。



 ────まだその頃はこいつと、今向かわんとしている運命に共に歯向かおうとすることも知らぬまま。

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