オスク過去編・闇の中の異端者-前編(3)
「オスク! 来てくれたのね!」
光の大精霊────『ティア』のいる神殿に着いた途端、眩しいくらいの金髪を揺らし、その顔と青い瞳を光の如く輝かせて大袈裟なくらいに喜ぶ。
最近仕事のこともあり顔を合わせていなかったとはいえ、ここまでオーバーな反応をされるとその喜びように少々呆れる。
「大袈裟っしょ。昔から知り合いで何度も会ってるってのに」
「あら。だって最近、オスクったら全然来てくれないんですもの。やっと今日来てくれるって聞いて私、すっごく嬉しかったのよ?」
「ぐ……」
そう言われると言い返せない。
確かにここ最近仕事続きで連絡すらまともに取れなかった。ティアからの心配する手紙がひっきりなしに送られてきていたし、今日になってようやく顔を出せる時間も取れたんだ。
遅刻ギリギリだったというのに全く気にしていないらしいティアは、嬉しそうに僕の髪をいじり始める。
「ふふっ、この綺麗な髪をいじるのも久しぶりだわ」
「おいこら、僕の髪で勝手に遊ぶな!」
「いいじゃない、こんなにツヤツヤしてて綺麗な髪なのに。紫が混じっているのも素敵だし、こんな綺麗な髪を何もしないで結んで垂らしたままだなんて勿体無いわ」
「纏めるだけで充分っしょ……って、こら! 三つ編みを作るな!」
纏めてあった後ろ髪の結びをほどき、勝手に三つ編みを作り始めるティア。抵抗も虚しく、すぐに数本の三つ編みを完成させられてしまい、オマケにリボンまで付けられる始末だ。
髪をいじり終えたティアは嬉しそうに僕の前に手鏡を向けてくる。
「出来たわ! ほら、可愛いでしょう?」
「可愛いとか訳わかんないし……。もうほどくぞ」
「あ、駄目よ! せっかく作ったのに」
「僕の髪をどうしようが僕の勝手。いじられるもの好きじゃないし」
僕はぶつくさ言いながら、リボンをほどいて三つ編みされた髪も直していく。三つ編みのせいで髪が波立って最悪だ……。
ティアはそんな僕の行動にむう〜っと頰を膨らませる。
「じゃあどうして伸ばしているの? 男の子だったら普通は切るでしょう?」
「魔法の媒介に使うことがあるの。切ったりしたら弱まったり、使えなくなる術もあるんだ」
そういう理由で多少うっとおしくても切ったりはしなかった。
魔法というより呪術のようなものや攻撃に使うものばかりだから、戦い以外ではあまり使うこともないのだが。
「そうなの? じゃあ、それなら余計に飾らなくちゃいけないじゃない。……そうだわ! オスクに渡そうと思っていた綺麗な石があったの。これを飾りましょう!」
「髪をいじることから離れろ!」
どれだけ拒絶しても全く懲りないティアに声を張り上げる。
このままだと髪全体を飾り立てられるハメになる。部下にからかわれないためにもここで止めておかなければ。
「もう、せっかく綺麗な黒髪だから飾った方がいいのに……」
「僕は闇だぞ? 飾らなくて結構。だいたいその石、何?」
「あ、これは……その、出かけた時にたまたま見つけたものなの。オスクの瞳と同じ色よ」
差し出されたティアの手の中には、確かに僕の目と似たような紅く縦長の石が乗っていた。その表面は磨かれたようにつるんとしていて、外からの光を反射して控えめに輝く。
飾るためなのか、ティアが開けたらしい穴もあったけど……こんな石一つでは大した飾りにはならない気がするのだが。
「ハイハイ、石は貰っとくよ。これでいいっしょ?」
「え! あ、はい……わかったわ」
「それで? 他に用件があるんじゃないの?」
これで終わりだったらそれこそ笑い話だが。
当然、ティアも本来の目的があったらしい。察したことが嬉しかったのか、微笑みながら話を始める。
「オスクも知ってるでしょう? 新たな二人の大精霊が現れたこと」
「……ああ、それ」
突如として現れた、『命』と『死』の大精霊。まるで『滅び』のことを察知したかのようにふらりと現れて、かつその災厄に対抗出来るとされる王笏の力を限界まで引き出せるときたのは僕の記憶にも新しい。
大精霊同士ということと、その才能のこともあって知ってはいたが、仕事に追われていたこともあってまだ顔を合わせてはいなかった。
「それで、そいつらがなんなの? 問題でもあったわけ?」
「ううん、その心配は無かったわ。つい最近に命の大精霊に会ったのだけど、明るい女の子だったわ。話が弾んじゃってすぐに仲良くなってしまったの」
「へえ……。どうせ僕には到底理解できない話題で盛り上がったんだろうけど」
お気楽なティアのことだ、服とかリボンみたいな装飾品のことで盛り上がったに違いない。ローブがあれば充分という僕には理解が不可能な話だ。
「それでここからが用件なのだけど……オスクに死の大精霊に会ってほしいの」
「……はあ?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
理解が追いつかず、僕は思わずティアに聞き返す。
「なんで僕が。その死の大精霊に何か問題でも?」
「ええと、ちょっと気難しい子らしいの。それでオスクが任されてくれないかな、って」
「いや、だからなんで僕なんだよ?」
「オスクならなんとか出来るんじゃないかって。大精霊間の大抜擢よ」
「本人のいないところで勝手に話を進めるな‼︎」
またこれか、と僕は頭を抱える。
今までも何回かあった。何故だか知らないが、根拠のない信頼を預けられて面倒ごとを任されるのが。
だから、そこでなんで僕なんだよ! 他にもマシなのがいるだろ、歳が千年単位のカグヤとか。なんで僕に任されなきゃいけないわけ⁉︎
「オスクだって百歳代で大精霊の座を譲り受けた天才でしょう? もっと胸を張ってもいいことだわ」
「それとこれとは話が別! 歳だけで言えばお前も同じだろ、同い年なんだから!」
「わ、私はその……向こうに拒否されてしまって」
まさかのお試し済みだった。どう足掻こうが、僕が行くしかないということがあっさり突きつけられる。
どうせ遅かれ早かれ、会うことになるとはわかっているものの、どうしてこんなことになるんだか。僕が何をしたってのさ……!
仕方なく僕は頷き、渋々ながら指定された場所へと向かう。
その間、僕は大きなため息が止まらなかった……。




