オスク過去編・闇の中の異端者-前編(2)
……結論から言えば、一瞬で決着した。
やはりこの二人組は口先ばかりで、実力は言う程のものではなく。僕が見ていないとでも思っていたのだろう、一発斬りつけただけで敗北を認めた。
「僕が大精霊の地位を得たのなんて百歳あたりだけどさ、それを短いと思うのなら心外なんだよ」
「ひ……」
「そこそこ長かったよ、百年て。お前らがくだらないとか言ってる目標のためにひたすら足掻いてたんだからさ。お前らが文句垂れるのなんて勝手だけど、それに付き合わされるこっちの身にもなってよ」
武器を手放し、恐怖で歯をかちかちと鳴らす二人組を見下ろし、一方的に言葉を浴びせる。
怯えようが、嫌悪を抱かれようが知ったことじゃない。一の大精霊として、上に立つ者として、実力を示して恐れさせてなんぼの闇の大精霊だ。それで折れるというのなら僕は容赦無く切り捨てる。
こんな戯れ程度で折れるのなら『滅び』にすぐ呑まれるだろう。そのためにも部下だって強くなくては困る。
「笑いたければ笑えば? 笑う余裕があるなら拍手してやるよ。いつもやってるように馬鹿にしてればいいじゃん」
「あ、あ、ああ……」
もう言葉も紡ぐ余裕もない二人組を今度は僕が嗤ってみせる。
こんなのばかりだ。大口を叩く癖に、結局は実力が伴わない。言わせっぱなしというわけにもいかず、直接制裁を加えてはすぐに倒れ伏してばかりで手応えゼロ。口は達者なのに、努力を怠っているせいなのは明白だ。
「『異端者』なんだろ、僕は。やればいいじゃん。いつものようにほら、」
さあ、嗤えと煽ってもそいつらは反応を示さない。ガタガタと身体を震わせ、口は開いたままで情けない醜態を晒している。
……こういう奴はせめて『滅び』が来るときまでには自分を守れる程度の実力をつけてなくては困る。部下の被害があれば、責任を押し付けられるのはこっちなのだ。今ならまだ間に合うからと、大剣を振り上げて狙いを定める。
「じゃあ、お前らは特別コース行き決定ね。精々楽しみなよ」
大剣の柄で二人組の鳩尾を打ち、気絶させる。あとは転移術で特訓場に移し……仕事は完了だ。
「はーあ、まったくダラけた奴らが多いんだよな」
これで何人目かと、数えるのも面倒になってきた。
ああいった輩を見つけては気絶させ、特訓場に送るというのが最近の仕事だった。これであとはそいつらの指導もしてやらなくてはいけないというオマケ付きで、さらに肩の負荷がかかる。
どれだけ嫌悪感を抱かれようが、蔑まれようが構わない。面倒だからと放っておいて、来るべき時が来た時に抵抗も出来ずに命を投げ出すものならば……それこそ笑えない。そうならないためにも今のうちに捕まえておこうと思って始めたことだった。
実際にやってみればそれはもう凄い数で。一日の数は2、3人はザラ、時には十数人という数の精霊が移される。それだけ、今まで闇の精霊が怠惰だったことを思い知らされた。
このままではいけないからと。ムカつくことがあろうとも部下には変わりない。誰も災いで死んでほしくないから……その一心でやってこれている。
「おーい、オスク様ー!」
「……っ!」
不意に名を呼ばれ、振り向いた。視線の先には両面を黒い目隠しで覆い隠し、ツンツンとした短い暗い赤紫の髪ををなびかせながら飛んでくる男の精霊が一人。
「……マフィか」
「3人、対象を見つけたんで送っときましたよー。これで合計329人ですねー」
「そりゃご苦労様。もうそんなにいったか」
マフィは僕の直属の部下と言ってもいいくらいの側近だった。昔からの腐れ縁のような関係で、大精霊になると決めた時にも応援してくれた相手だ。マフィもまた、光と闇での確執に嫌気がさしていた。
マフィは夜空のように黒い装束と、首に下げている装飾である鎖をジャラジャラと音を立てさせて、呆れたように首を振った。
「送った3人もオスク様を馬鹿にしてる輩ばかりでしたよー。そんなのだらけで嫌になっちゃいますねー」
「言わせておきなって。周りの評価ばかり気にしてたらキリがないし。僕はこれから行くところがあるから戻るまで指導の仕事任されてよ」
「それは全然構わないスけど、どこに行くおつもりでー? あ、そっか、また愛しいあの人の所ッスねー!」
「誤解される言い方やめてくんない⁉︎ あいつとはそんな関係じゃないっての!」
あいつというのは光の大精霊のことだ。何やら用があるからとのことで呼び出され、出歩いていたのはその目的のためでもあった。
さっきのことで予定がズレたが、充分間に合う時間だ。今から行っても遅れることはないだろう。マフィのからかいを無視して僕は飛び上がる。
「余計なこと言ってないで早く戻れよ! あいつら目を離すとすぐに逃げるんだから」
「了解ですよー。お気をつけてー」
マフィの言葉を軽く受け流し、僕は目的地へと向かう。
マフィが言うような変な関係ではなくとも、目標を持たせてくれた大事な幼馴染の元へと。




