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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第7章 そして旅は「原点」に
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第78話 掴んだ明日は(2)


 次はどう出るか────頭を悩ませていたその時、ルージュが身体に纏う瘴気がより一層強く波打つ。


「……ッ⁉︎」


 そして背筋に走る悪寒。ゾワリと肌をつたい、さっきまでとは明らかに違うその気配。ルージュの瞳が鈍く光り、より多くの瘴気を振り上げた腕に集めていく。そして、さっきの悪寒の原因がはっきりとわかる。

 ……間違いない。いつまで経っても壊れないことに痺れを切らして、次の一撃で仕留めようとしてやがる……!


「くそっ!」


 もう構っていられなかった。瘴気が身体に浸入してこようが、今瘴気を斬っておかなければどのみち倒されてしまう。

 仮に第二の武器が見つかっていたにしても、当たってしまえばゲームオーバーだ。そうなる前に……!


 オレは鎌を力一杯握りしめ、目の前の狂気に再び立ち向かっていく。


「そらっ‼︎」


 精一杯の力で鎌を振るい、ルージュが纏う瘴気に向かって振り下ろす。

 瘴気は刃によって呆気なくルージュの身体から切り離され、鎌の刃に纏わりつく。そして……瘴気はしめたとばかりにうごめき、オレに入ってこようとにじり寄って来る。ルージュもにぃ……と冷たい笑みを深めて、振り上げていた腕を頭に添える。

 ふん、何度も同じ手を食らってたまるものか。


「……らあっ!」


 ありったけの力を込めて、鎌を振るう手を柄から手放す。


「────⁉︎」


 狂気に満ちたルージュの表情に、初めて動揺の色が浮かぶ。

 オレの手から離れた鎌は、勢いにされるがままに円を描くように宙を舞う。やがて地面に近づくと、瘴気を纏わり付かせた刃を地面に突き刺して、飛び散る石と共に鎌は動きを停止させた。


 ……これで、オレは攻撃手段を失った。瘴気に浸入されることはなくなったが、オレは完全に丸腰となったんだ。

 それでルージュも無防備なオレを手にかけられると思ったのだろう。より一層邪悪な笑みを深めると、オレの急所に瘴気を食らわせようと腕を振るう。


 ……かかった!


「くっ!」


 オレは身をよじり、地面を転がる形で衝撃波を避ける。

 地面がえぐられたことで埋まっていた石が剥き出しになり、それが身体を容赦無く突き刺してきたことで滅茶苦茶背中が痛い。それでも、そのおかげで衝撃波と共にオレの魂が吹っ飛ばされるなんてことはなかった。


「────ッ」


「はん、狂気に呑まれても驚きはするんだな」


 まさか丸腰の相手に避けられるとは思っていなかったのだろう、ルージュの表情が歪む。

 おそらく、それが裏の人格の感情だ。オレらが知っているルージュは内側に押し込められ、絶望のままに裏の人格に身を委ねてしまっているのが現状なのだろう。


 だが、それも一瞬。ルージュは血のような色を写す瞳を鈍く光らせ、その顔から表情が消える。そしてそのまま、腰の鞘から剣を引き抜くと乱暴にオレに向かって切っ先を突き刺してきた。


「ッ⁉︎」


 もはや、剣の使い方ではない。オレがかわしたことで剣は地面を容赦無く突き刺して穴を開ける。それがさっきまでオレが立っていた場所に。……咄嗟に動かなければ、オレは確実に串刺しにされていた。


「このっ……どんだけオレを、周りを壊せば気が済むんだよ‼︎」


「ウセ、ロ」


 ルージュはまたしても剣を突き刺す。その口から漏れるのは、ルージュらしからぬもので、敵を、世界をも呪うような言葉ばかり。

 オスクも援護してくれてはいるが、オレとルージュの間合いが近いせいであまり手が出せない状況だ。魔法を放つか迷っては顔をしかめて手を下ろす。オレも巻き添え覚悟で放ってもらうというのも一つの手だが……ただでさえギリギリなこの状況で余計な被弾は避けたい。


 あいつはどれほどの絶望を味わったのだろう。それは誰にも気づいてもらえず、理解されずに遠ざけられていたものだとしたら。


「ぐっ……!」


 それを誰にも言うことが叶わぬまま、内側に押し込められらばかりで口を開くことさえ叶わなかったら。

 ……ルージュは言おうとしていたのだろうか。それをオレは何処かで気づくことがあったのではないだろうか。

 ルージュが本当に欲しているのは一体なんだ……?


 ずっと考えてはいられなかった。ルージュの突き刺してきた剣が、銀に輝く鋭い凶器が、オレの肩をかすめた。


「ぐ、あっ……⁉︎」


 かすめただけなのに、尋常じゃない痛み。しかもそれが全身に響くようにジクジクと身体を締め付ける。

 瘴気が剣を通して入り込んだのだろうか。まるで何かの呪いのようだ。


 瘴気を斬りつけなくてもこの状況はやばい。時間は充分稼いだ、今なら鎌を引き抜けるんじゃないか⁉︎

 オレは少々の被弾を覚悟してルージュに背を向ける。オレの背後に突き刺さる、鎌に向かって手を一心不乱に伸ばす。……が、


「キ、エロ────」


 背後から響き渡る、おぞましい叫び。それと同時にオレの頰にかすめる邪気と風圧。しかしそれはオレを素通りして、オレの手を伸ばす先を吹き飛ばす。


「……ッ⁉︎ しま……」


 ルージュが放った衝撃波は鎌の柄を直撃。その途端、地面に突き刺さる刃は反動で宙を舞う。そして、そのまま勢いのままに鎌はオレから離れていき、手が届かない場所まで吹っ飛んでしまった。


 ────完全に武器を失った。ルージュはオレの行動を読んでいた。ルージュが、裏の人格が、一枚上手だったというのか……?

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