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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第7章 そして旅は「原点」に
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第78話 掴んだ明日は(1)

 

 オレの叫びが中庭に木霊する。

 本気で願った、オレの意思。情けなくてもいい、ルージュを救い出せるのならそれでいい。どんなに泥臭くとも、最後までみっともなく食らいついてやる。────それがオレの呪いだ。

 それが目の前にいる狂気に嗤われようが関係ない。オレはオレの意思を最後まで貫くまでだ。


「……ふーん。それがお前の腹の底からの願いってわけだ」


「ああそうだよ。笑いたきゃ笑えばいいだろ?」


「何言ってんだよ。それを教えたのは僕だし、笑ったら僕を笑うも同然だろ」


「……そうかよ」


 ぷいっと顔を背けるオスクにふっと笑ってみせる。オスクもそんなオレにつられたように大剣を構えなおした。


「力も記憶も抜けてるし、今のお前なんざ文字通り半人前もいいとこだ。お前は僕の後ろで隠れていたら、鬼畜妖精?」


「バカヤロ、横に並んで歩いていくんだよ。その方がお前を盾にしやすいからな、ニート大精霊」


 お互い、わざと挑発するような言葉を並べる。

 煽って、苛つかせ、それでも直接摑みかからないのは……オレもオスクもそれが励まし合いだとわかっているから。何処か似ているところがあり、通じ合うものがあるから。それに気づかなくていがみ合っていた前とは違う。似ているからそこに込められた本心が、今はわかる。

 それを気づかせてくれた相手は、今は自分を見失ってしまった。苦しんで、抱え込んで、狂い果てて。だから……今度はオレらが気づかせてやるんだ。


「僕はお前が嫌いだったよ、鬼畜妖精。女の癖に可愛げ無いし、口だけは達者だし」


「……そうかよ。それでも『だった』なんだな?」


 オスクが過去形で告げたということ。つまり、今ではそうでない……。


「ま、好きでもないけど。記憶があってもなくても面倒ごと押し付けるし。どれだけ僕の肩を凝らせれば気が済むんだか」


「……はん。答えなんざわかっている癖に」


 面倒ごとを押し付ける。それは決して嫌がらせなんかじゃない。それはオスクの力量を信じて。オレが盲点の場所をカバーしてくれるとわかっていて。

 だから、オレは預けられる。オスクに背中を、オレの大事な相手と向き合える時間を。


 ……そして、オレとオスクは再び踏み出す。


「────お前を、頼りにしてるってことだよッ‼︎」


 そう言いながら、オレはルージュの元へと走っていく。

 それは、オレの揺らがぬ本心。

 実力を認めて。それを信じて。そうでなくてはどうやって背中を預けられると言えるだろう。

 嫌いだったが……信じていた。余裕をかまして、見下して、どこか締まらなくても根は誰よりも真面目な大精霊を。

 そしてオスクも、オレの本心にニヤッと笑う。


「あっそ。なら……とことんまで付き合ってやるさ!」


 オスクも大剣をルージュにかざし、オレと並んで敵に距離を詰めていく。ルージュもオレらが向かってきたことに反応し、再び腕を振り上げた。


 またルージュは瘴気を使って攻撃を食らわせるつもりだ。

 だからと言って、瘴気を断ち切れば身体の隙間に入り込んで、ルージュが唱える呪詛で内側から壊しにかかってくる。

 相手は狡猾で、かつ掴み所のない敵だ。それはもう『ルージュ』とは別の、ルージュのカタチを取り繕った何か別のモノでしかない。……そう考えないと、とてもじゃないが立ち向かえなかった。


 あの瘴気は斬ると、持っている武器をつたって身体に浸入してくる。

 武器を捨てれば早い話だが、そうすると攻撃手段を失うというとんでもないリスクが伴う。レシスにルージュの絶命の力を食らっても魂が断ち切られない加護を貰っていてもそれは危険すぎる。

 鎌を一度手放しても他に武器があればいいのだが、オレの手元には鎌しかない。

 何か、何か他にないのか……?


「アハ、ハハッ────!」


「……っ!」


 狂った笑いと共に放たれる刃と化した瘴気の塊。咄嗟にかわしたことで被弾は免れたものの、紅く邪気を孕んだ刃は容赦無く足元に咲いていた小さな花を潰した。


「テメエッ……!」


 普段なら、気にも留めない花だろう。足元に僅かに色をつける小さな飾りでしかない。

 それでもたくましく花弁を広げる花を、強く生きる小さな花を、潰してなんとも思わずに嘲笑う裏の人格が許せなかった。

 ……それをそんな小さな命でも、いつも気にかけるルージュに無理やりさせていることが。

 裏の人格だって苦しんでいるにしても、やり方が間違っている。ルージュの影に潜み、表に心底から相手を信じないように仕向けて、境界が曖昧になった途端にそそのかして。そんなの八つ当たりだ。


 助けてやりたいといえばそうしたい。でも、今はそいつを許すわけにはいかなかった。


「いい加減にしろっ!」


 鎌を振り上げ、ルージュから放たれる衝撃波を相殺していく。

 直接斬らない分には瘴気は纏わり付いてこない。だが、引き剝がさないと瘴気を無限に沸き続ける。いつかは斬らなければならない時が来るかもしれない。

 だが……そうなるとやはり武器を手放さなければならなくなる。別の武器が見つかってない今、瘴気を斬ることは自殺行為だ。


「くそっ。オスク、なんとか縛れないのか⁉︎」


「やろうとしているけど駄目。あいつが仰け反りでもしないと上手く拘束出来ないんだよ」


 オスクの言葉通り、オスクは何度もルージュの腕や足に魔力の鎖を放っているが、ルージュが暴れることですぐに振りほどいてしまう。


 多少傷つけることを覚悟で魔法も放っているが、ルージュは大したリアクションを見せない。捨て身でやっているのか知らないが、余程の重い一撃でない限りは仰け反らないだろう。

 手加減することが余儀なくされる上に、戦況は防戦一方。はっきり言って最悪だ。


 くそっ、どうしたら……⁉︎

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