第8話 星の降りし夜(1)
廃鉱の山から帰った翌日の夕方。私とルーザはエメラにまた用事があるからと呼び出された。でも今度はやけに興奮した様子で、急かされたから何事かと私達も急いでカフェに向かった。
話を聞いた限りでは、昨日採掘したルビーを売って稼いだお小遣いで何か買ったらしい。昨日のどうしても買いたいものだといっていたこともあって、何を買ったのかは気になるところだけれど。
ずっと考えこんでも仕方ない。エメラを待たせないよう、ルーザと一緒にカフェへと急いだ。
「あっ。2人とも、こっちこっち!」
そしてカフェの前に到着すると、入り口で待っていたらしいエメラがブンブンと手を振っている。やっぱりまだ興奮している様子で、エメラの大袈裟な動きに合わせていつも身につけているエプロンも激しく揺れている。
やっぱり目的を達成できたからか、エメラの昨日の疲労はどこへやら。まだ疲れが抜けきっておらずに歩いただけでも少し息が荒くなる私とルーザを差し置いて、すっかり満足したようににこにこしている。
「今日もまた何かするの?」
「うん。っていっても、今日はカフェでやるの。しばらくは昨日みたいなことは懲り懲りだし」
「じゃあ何か作ったから食べるのかよ?」
「そういうこと。とにかく入って!」
私達が何か質問する前にエメラに無理矢理手を引かれ、カフェの奥の部屋に連れて行かれる。
エメラに理由を聞こうにも「いいから、いいから」とまるで取り合ってくれないまま。私とルーザはエメラにされるがまま、首を傾げながら目的の部屋へと連行された。
その部屋は黒いカーテンが引かれ、まだ夕日の光がある今の時間帯でも夜のように真っ暗な部屋だった。灯りの一つもないし……ますます何をするのかわからなくなってきた。
その後、私達と同じように連れてこられたイアも入って来た。とりあえず3人で椅子に腰掛け、喋りながらエメラを待つことに。
「こんなに暗くして何するつもりだろう?」
「昨日は今日がヒントとか言ってたが」
「ああ、それなんだけどよ。今日は星祭りだったことついさっき思い出してさ」
「「星祭り?」」
「ああ、なんだ。ルージュも知らないのか」
同時に首を傾げた私とルーザに、イアは早速説明してくれた。
星祭りというのは星の精霊が集まる日に、『星の粉』という星からこぼれ落ちた粉を夜空が映る水辺に流して願い事をする……という秋恒例のイベントらしい。
「それで祭りだけしか出てこない星関連の魔法具とかが色々売り出されるから、エメラもそれの中から買いたいものがあったんじゃねえかってな」
「それはわかったが、実際叶うのか?」
「さあな。言っちまえば願掛けイベントだし、星の精霊は気まぐれだからあんまりアテにできないし。珍しいグッズとかが売り出されるから、みんなほとんどそれ目当てだぜ」
確かに願い事は結局、自分次第だからな。それに、星の精霊は気まぐれなことで有名だ。そんな気分屋で願いを伝えても聞いてくれているかさえ怪しい星の精霊が、素直に願い事を叶えてくれるのも考えにくい。
でも、どんなものが売ってるのかは興味あるかも。祭りだけしか売り出されない魔法具となると、店ではほぼ並べられない珍しいものだから。私は祭りに参加した経験もないことも相まって、余計に興味が掻き立てられる。
「みんなおまたせ!」
話こんでいると、いきなりエメラ暗幕をめくってが部屋に入ってきた。その手に持っているトレーには輝くものが乗っている。
「昨日は大変なことに付き合わせちゃってごめんね。買いたいものはこれだったの!」
エメラは持ってきたものを私達の前に並べる。それは、自分で作ったらしいパフェ。青いゼリーが底にあって、上には星型に切られたバナナやリンゴとアイスクリームが盛り付けられている。さらに飴の細い糸がフルーツの横に流れ星のように飾られていた。
でも、それ以上に目を引くのはパフェにところどころ飾られた星くず。暗い部屋の中、まだ輝いているそれはひとつひとつは小さい欠けらだけど合わさって部屋を照らしていた。まるで、夜空の一部が切り取られたように。
「わっ、綺麗……! どうしたの、それ?」
「えっへへ〜、名付けて星くずパフェだよ! パフェに使ってる星くず、食用にできる特別なやつなんだ。みんなにもこの日に食べてほしくって!」
「そっか。それだと結構値も張るかも」
「うん、お小遣いだとどうしても手が届かなくて。ルージュとイアはもちろんだけど、特にルーザに食べてほしかったの。思い出、いっぱい作ってほしいもん!」
「ふん……そうか。ありがとな」
ルーザも真っ直ぐ言うのは照れ臭いのか目線を逸らしながら、それでもはっきりとお礼を言った。
星くずの光も、ゼリーを通しながら反射して宝石と見間違えるくらいにすごく綺麗だ。昨日は色々大変な目にあったけど、エメラも頑張ってこのパフェを作ってくれたんだろう。
まず一口食べてみたけど、クリームの甘味とフルーツの酸味が程良く合わさってすごく美味しい。
「ありがとう、エメラ。パフェ、すごく美味しいよ」
「良かった! わたしも良い出来だからできればメニューに追加したかったけど、経費がかかっちゃうし。ルージュ達の今日限りの特別メニューだよ!」
「へへっ、なんかそういうの気分良くなるな」
「友達兼お得意様だもん。これくらいはするよ?」
エメラも自分で作ったパフェを口に運びながらそう言った。
そんな今までにない程に苦労してエメラが作り上げたパフェは、他のどんな菓子とも比較にならない程に至福の味がした。




