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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第7章 そして旅は「原点」に
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第70話 夢幻の息吹(3)★


「────そこまでです」


 不意に、少女の声が響き渡る。それは今までと変わらない柔らかな声でも、確かな威厳を含ませていて。そして辺りに光が溢れ出す。


挿絵(By みてみん)


 ライヤはオレの前に踏み出す。翼を広げ、光を纏うその姿は威厳のある、確かな大精霊としての姿そのもの。

 足元からその溢れんばかりの力が流れ込み、荒れ果てていた大地が息を吹き返す。残っていた種が芽吹き、あっという間に花を咲かせて花弁が辺りに舞い散った。


 これが、命の大精霊……。

 オレはその圧倒的な力を前に言葉を失った。


「すみません、ルーザさん。遅くなって」


「全くだよ……。もう魔力が空っけつでヘロヘロだっての……」


「あ、後で私が回復させますね! それより……」


 ライヤは『悪夢』を鋭くキッと睨みつける。


「悪い子にはお仕置きして差し上げますっ!」


 ライヤは光をさらに強める。大地はそれに呼応し、更に豊かさが増していく。その翼を思い切りはためかせ、ライヤは声を張り上げた。


「『命天の光』────‼︎」


 瞬間、ライヤの光はその身体を離れて『悪夢』に降り注いでいく。光をもろに浴びた『悪夢』は瞬く間に後退した。

 よし、後はこの宝石を使えば!

 オレはふらつく身体に鞭打って懐から宝石を取り出す。そして群がる塊に向かって突きつけようとしたその瞬間、


「ぐっ⁉︎」


 腕に衝撃が走る。

 塊から一体の『悪夢』が飛び出し、オレの腕に突進してきたんだ。その反動でオレは宝石を手放してしまった。

 ……ッ⁉︎ ま、まずい……!

 手を伸ばしても、間に合わない。オレの手から離れた宝石は宙に浮き、『悪夢』の塊に向かっていく。宝石があの群れに呑まれれば全てが塵になる……!


『────ッ!』


 だがその瞬間、群れとは別方向から影が一体飛び出した。その影は落ちていく宝石に体当たり。


「め、メアッ⁉︎」


 そいつは森から飛び出してきた『悪夢』だった。森にいる『悪夢』はメア、ただ一匹だけ。見た目に差異はないものの、その行動のおかげで瞬時に判別がついた。

 メアが宝石に体当たりしてくれたおかげで自由落下していた宝石は弾き飛ばされ、見事にオレの方向へ戻ってきた。オレは咄嗟に宝石を受け止めたが、メアは『悪夢』の塊に飲み込まれていく。


「そ、そんな! メアちゃん⁉︎」


「くそっ!」


 オレがやることはただ一つ。この呑まれた『悪夢』に向かって宝石を突きつけることだ。それで『悪夢』が消せるなら、メアを救い出せるなら。オレは今、ここで実行するべきだ!


「お前がここを支配するなら、この世界にとって最善の策を叩き出せ────‼︎」


 オレは願いを込め、宝石を頭上に放り投げる。

 出来るか確証はない。それでも、オレがやるしかない。

 頭上高くに宙を舞う宝石は日の光を反射し、より一層強く輝く。この宝石に意思があるのなら、この世界を思うのなら。そんな僅かな希望を込めながら……


 宝石はそんなオレの願いに応えたのか、眩く光り輝く。それは日の光を反射して輝いているのではない、自ら発光しているんだ。

 夢の世界のコアとも言うべきその宝石の光は呑まれた『悪夢』を照らしていく。そして光を浴びた『悪夢』は蒸発するかのように散っていく……。


「メアちゃん、どこですか⁉︎」


「……っ」


 オレとライヤは周囲を見渡す。

 呑まれた『悪夢』こそ消滅したが、メアまで一緒に消えていたら……あいつにはまだ礼も言えてないし、帰る手段まで失うことになる。

 ……だが、その心配は無用だった。消え去った『悪夢』の蒸気の中から、一つの影が飛び出した!


「め、メアちゃんっ!」


 ライヤは飛び出してきたメアを受け止める。黒いモヤの身体では何を言っているのかはさっぱりだが、ライヤに寄り添う姿は喜んでいるように見えた。


「もう、出てきちゃ駄目って行く前に言ったじゃないですか!」


「いや、あれで正解だ。こいつのおかげで助かった」


 メアの咄嗟の行動がなければ、オレが手放してしまった宝石は『悪夢』の塊に飲み込まれて消滅させることは不可能だっただろう。

 ライヤの言いつけは破ったが、こいつの行動と宝石のことを教えてくれたおかげでこの場を切り抜けられたんだ。こいつの助け無しではオレとライヤは呑まれた『悪夢』の脅威に晒されっぱなしだった。


 これで敵の数は減った。宝石は事態が収まるまで『悪夢』を出現させないようにしたかまではわからない。それでもずっとビクビクするよりはマシだろう。

 あとは元凶を叩き潰せば万事解決だが……流石に戦力不足だ。


「『あの精霊ひと』が来ればまだ勝ち目があるかもしれませんね」


「ああ。オレらはそいつが来るのを待つしかないな」


 いつになるかはわからない。それでもたった2人しかいない今の現状では待つ他無いんだ。

 死の大精霊……レシスを信じよう。そして、ルージュのことも。


 オレはライヤに消耗していた魔力を回復させてもらい、現実に戻るための準備をする。

 ライヤに抱えられたメアに手を伸ばす。そして指先でそのモヤの身体に触れた途端、意識がブレ始めた。


「ありがとな……お前も」


 この世界から出る瞬間、オレはメアに向かってそう呟いた。やがてオレの身体は見えない何かに引っ張られた。

 ……オレの視界の先で、ライヤが微笑んでいる光景と共に。

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