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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第7章 そして旅は「原点」に
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第70話 夢幻の息吹(2)


 ……そこからはもう一瞬だった。

 森から一歩踏み出した途端、オレとライヤは呑まれた『悪夢』に囲まれていた。息つく暇もなく、瞬きする程度の短い時間で。隠れていた分のツケが一瞬にして回ってきたんだ。

 周りは最早真っ黒い海の中のようだ。黒いモヤが殺気を振りまきながら波立ち、少しでも動けば一斉に飛びかかるとでも言わんばかりに。覚悟はとっくに決めていたとはいえ、実際に対峙するのはわけが違う。無様ながらも少々恐怖で指先が震える。


「る、ルーザさん、メアちゃんにああ言ってなんですけど、できるんでしょうか……!」


「さあな! 確証なんてねえよ、オレの作戦なんざ穴ぼこだらけだ。宝石が働いてくれるかもわからないってのに」


 オレは策士なんかじゃない、軍師でもない。そんな不完全な未熟者に完璧な作戦を練ろ、という方がどうかしている。

 それでもここを切り抜ける。オレの作戦なんざ勢いだけだ。なら……最後まで勢いに乗って未熟者は未熟者らしくカッコつけてやる。そして、オレは鎌を大きく振るった。


「ライヤ、これだけの量の『悪夢』をひるませる程の力を出すのはどのくらいだ?」


「私の今の力量だと、しばらく集中する時間が必要です。その間、私は一切動けないんですが……」


「なら上等だ。オレがその間食い止めればいい話だ」


 この作戦の中心はあくまでライヤと宝石頼り。オレはライヤを守るオマケでしかない、と思っていたがライヤがそれなら話は別。ライヤが力を使うための集中している間、何としてもライヤを死守しなければならないという役目が生じる。


「お前はオレに任せてその時が来るまで耐えろ。この『悪夢』はオレがなんとかする!」


「は、はい!」


 ライヤもそれが精一杯の策だと判断したのだろう。ライヤはその場で膝を折り、手を組み合わせて祈るような体勢を取る。ライヤの周囲に光の粒子が集まり始め、徐々にそれが増えていく。

 オレの予想じゃこの光が限界まで集まれば、それが合図となるのだろう。オレはライヤを背に、『悪夢』を片っ端から切り刻んでいく。


「『ディザスター』ッ‼︎」


 鎌を振り回し、衝撃波を『悪夢』に向かって飛ばしていく。だが塊となって襲いかかる『悪夢』には一瞬の牽制にしかならない。吹っ飛んだ筈の部位を瞬く間に再生させ、再び波となってオレに襲いかかってくる。


 チッ、まだ様子見で威力が低めの魔法を放ったとはいえ、骨が折れそうだ……。

 とにかく今は『悪夢』をライヤに到達させないことが何よりも優先すべき事だ。だが、オレの得意とする魔法は大勢を相手にするのは向いていない。

 仕方ない。力借りるぞ、ルージュ……!

 今はいない、それでも大切な仲間の名を呟く。そして、ルージュの魔法の呪文を詠唱する。


「『セインレイ』!」


 ルージュが得意とする、光弾術を放つ。一発一発の威力こそ低いが、連射が効くのが強みだ。実際、この魔法で形成される弾幕に何度も助けられた。

 狙い通り、数に効果を強めたことで『悪夢』は光弾の雨を浴びて後退する。被弾する数も多いから、徐々に衝撃で押され始めているんだ。


 だが、それでもまだ足りない。全方位を囲まれているせいでどうしても攻撃が行き届かない死角ができてしまう。『悪夢』にもそこを突かれ、突進をもろに食らってしまった。

 ぐ……! くそっ、この程度でくたばっていられるか!


「オレの奥は行かせない。オレも倒れるつもりは微塵もない。オレの奥にいる奴は這いつくばってでも死守してやる!」


「ルーザさん、そんなに私のことを……!」


「変な無駄口を叩くな! いいからお前は集中してろ!」


 変に誤解されるような言い方をするライヤに突っ込みを返し、オレはまた『悪夢』に斬撃を食らわせる。

 こうなったら持久戦だ。オレの体力が勝つか、『悪夢』の執念が勝るか、そのどちらかとなる。オレも守るためなら手段は選ばない。オレの懐にこっそり忍ばせていたものに触れる。


 オレの武器は鎌だけじゃない。今回は半信半疑だったにしろ、オレからこの世界に行くことを望んだおかげで準備もしてきたんだ。

 オレが懐から取り出したのはルージュのカバン。寝る前にあいつの部屋に入り、拝借してきたのだ。

 そしてその中にあるものに頼るとすれば……大精霊の力の一部を借り受けられる、ゴッドセプターしかない。


 カバンを開き、隙を生まないように素早くその中をまさぐる。やがて長い杖を見つけ出し、オレは王笏を天に掲げた。

 自分一人では長すぎて、相変わらず扱いづらい杖なことだ。それでもオレはふらつく足を必死に踏ん張り、地面を強く踏み返す。そして目の当たりにした大精霊の力をここに発現させるべく、意識を集中させていく。


「────『神閃月下』‼︎」


 最近目の前でくらったばかりの術を、今度は自身で行使する。

 掲げた王笏からカグヤが出したものと同じ魔法陣が出現し、空中から何かの光がギラリと波打つ。

 そしてその光は『悪夢』に光の凶器として降り注ぐ。一瞬でレーザーの雨が形成され、カグヤと対峙したあの時のように容赦無く『悪夢』にレーザーが直撃した!


 さすがは大精霊の力。オレの魔法とは比較にならない程の威力を秘めていた。一瞬にして現れたレーザーの雨は『悪夢』を正確に狙い撃ち、確実にライヤから遠ざかっていく。

 だが威力が高い分、魔力の消費が激しい。このままだと魔力切れでぶっ倒れてしまいそうだ……。

 まだライヤは集中している。光は強まっている辺り、あともう少しのような気がするのだが。


 くそ、目が霞んできやがった……。

 冗談抜きで魔力が底をつきかけてる。攻撃は確かに食らっているのに、『悪夢』は全く減少する傾向を見せない。これじゃあ、オレの方が先に膝をつく。

 万事休すってやつか……。こんな、こんなところで倒れるわけにはいかないってのに……!


 視界が、足元が、身体がぐらりと傾く。このままだとライヤが────

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