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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第7章 そして旅は「原点」に
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第67話 巡らせ、巡って、振り返り(2)


「……はい、薬草庫の鍵も開けておいたよ。備蓄分で足りそう?」


 その後、書類仕事で缶詰になっていたルージュを呼び出して、薬草を使っていいかという許可と、経緯を話して今に至る。ルージュは調べ物のためならと快く承諾してくれて、薬草庫まで案内してくれた。


「あまり量は使わないので、大丈夫だと思います」


「そう。じゃあ、私も戻るね。見張っておかないと姉さんすぐサボるから」


「……ホントに女王だよな、クリスタって」


「どう……だろうね」


 ルージュも呆れた表情を見せて語尾を濁した。表情には疲労の色が見て取れる。

 ……この調べ物が終わった後、ルージュを手伝ってやるか。


「全く、ダラけた女王だな。僕が直々に仕事の責任感を叩き込んでやろうかな」


「ああ、そうしてくれ。お前はそういうとこキッチリこなすからな」


「ルージュさんも大変ですね……。まだ疲れが残っているかもしれないのに」


 オレら3人とも、部屋に戻っていくルージュに同情の眼差しを向ける。

 真面目で、仕事にも責任を持って、オレらにも気を遣って。オレが先日見た『悪夢』の光景……狂気の片鱗すら感じさせないのに。


「とても狂気に堕ちそうには思えないんだが……」


「え?」


「あ、いや。こっちの話だ。それより早いとこ用事を済ませるぞ」


 うっかり口を滑らせたことをフリードに対して誤魔化すため、オレはさっさと薬草庫にはいる。


 ……ルージュの狂気については、他の仲間に話しておくべきかまだ迷いがあった。仲間がうっかりルージュに話してしまったとしたら……その先、どうなってしまうのか想像するのも怖くなってしまい。オレはオスクだけに話すことに留めておくようになってしまっているのが今の現状だ。

 ルージュの狂気が、まだどんな形で現れるか予想できない。予想できないとなると……どうしても恐怖という感情に結びついてしまう。知らないから、わからないから、どんな行動をするべきかも無知のまま。ただオレは隅っこで怯えて震えてるんだ。

 この件じゃあ、本人(ルージュ)には当然相談できないときた。どうしたものか……。


 まあ、今はいいか。薬草を探すのが先だ。そうして考え事を一時中断し、オレは薬草庫の中をぐるっと見回す。所狭しと言わんばかりに部屋中に棚が設置され、その仕切りの上に大量の小瓶が置かれている。

 小瓶の中身は青々とした草、雑草にも見えるようなもの、さらには色とりどりの訳の分からん粉末など、様々なものが揃えてある。そして小瓶にはそれぞれご丁寧に名称のラベルが貼ってあった。

 この中から見つけるのか。正直骨が折れるぞ……。


「おい、フリード。目的の薬草ってどんな奴だ?」


「ええと……葉の裏に紫の斑点がある草です。葉は細くて、先端が尖っている形状をしてますね」


「そうか。わかった」


 フリードに目的の薬草の特徴を説明してもらってから、とりあえずオレとオスクもフリードから与えられた情報を頼りに棚の小瓶の中身を探っていく。

 効力別に薬草は分けられているようだが、薬草に詳しくないオレにはほぼ効果なし。仕方なくフリードが探している棚の近くで捜索を開始する。


 紫の斑点で、細く尖っている葉……どこだ?

 目を細め、かじりつくように棚を目で舐めていく。そうして小瓶の中身を確認していくうち、どれも同じように見えてきてしまうような感覚に陥ってくる。

 ゲシュタルト崩壊……とはまた違うが、同じようにも感じるぞ、これ。早いとこ見つけないと目がおかしくなる。


 目が疲れてきたな……なんて、他人事のように呑気な考えが浮かんできたその時、ある薬草が目に飛び込んできた。摘んできたばかりのような、艶やかで鮮やかな緑の深い細く鋭い形状の草。そのまだ生気が残る葉の裏にあるのは、毒々しいまでの紫の斑点……。


「おい、フリード。これか⁉︎」


 オレは反射的に小瓶を掴み上げ、フリードに見せつけるように掲げる。フリードはその中身を確認すると「あっ」と小さく声を上げた。


「それです、間違いありません!」


「よし。早速調合してくれ」


 フリードはもちろん大きくうなずいた。

 そしてどこからか小さめの調合用の壺を持ってくると、加熱用の魔法陣が描かれた絨毯をその下に敷いて調合を開始した。

 フリードはオレが見つけた薬草の小瓶から適量を取り出して小さく刻む。それが終わると薬草を壺の中に放り込み、棒でかき回していく。後は効果を強める薬草と、その調和用の薬草と、必要らしい少々の虫の粉末などを混ぜ合わせて……やがて目的のものは完成した。


「できました! これで多少の効果はある筈です」


「ならさっさと試すのみか」


 オスクの言葉に頷き、オレらは片付けを済ませると急いで資料室へ戻る。そして、問題の空白がある資料を広げ、薬を試す準備を整える。

 何も綴られていない、白紙のページ。それらは本や新聞など様式こそ異なるものの、ここに隠された情報の共通点は見いだせる。


 ……知られてはマズいらしい、重要な情報が。

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