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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第66話 涙の意味(3)


 朝食を済ませてから、竹やぶを出て。イブキの所にいたエメラとイア、ドラクにシルヴァート達と合流した。ロバーツにも遠写の水鏡を使って連絡済み。船が来たら……カグヤ達と、シルヴァートとも一旦の別れとなる。

 やがてその船も約束していた港に到着し、シノノメを離れる時間が来た。カグヤと玉藻前、イブキとモミジに、そしてここに留まるシルヴァートがその見送りにやって来た。


「これからも『滅び』の脅威は増していくでしょう。ですが、わたくしの難題を乗り越えた貴方方ならば、きっと打ち勝てると信じています」


 変装のために大きな頭巾を被った、カグヤがオレらへの鼓舞するようにそう言ってくれた。

 女ながらもオスクやシルヴァートにも負けない頼もしさと威厳を兼ね備えた言葉に、不安が胸に残っているオレでさえ励まされた気がした。カグヤに背中を押され、少しの自信さえも湧いてくる。


「ほら、玉藻も皆さんにお見送りを」


「か、カグヤ様……妾は妖精達を認めたわけじゃないんですけど」


「だとしても、貴方も御来客の実力は目の当たりにした筈です。わたくしを下す程の力を貴方は否定するのですか?」


「そ、それは……」


 玉藻前はカグヤの言葉に何も言い返せず、その場に縮こまる。大妖と言われる奴だというのに、全く主人には頭が上がらないらしい。


「ふ、ふん! じゃあそこの桜色兎!」


「え? って、私のこと⁉︎」


 いきなり玉藻前に指名され、ルージュは目に見えて戸惑う。

 てか、サクライロウサギって……。なんつー呼び方だよ。

 オレが呆れていると、玉藻前はルージュに向かって何かを放り投げた。ルージュは慌ててそれを受け止め、オレも気になってルージュの手の中を覗き込む。


 紫色の、妖しげに揺らめく炎のような光を閉じ込めた宝玉。明るい日差しの下だというのに宝玉は不気味にさえ思える光を纏わりつかせて、ルージュの手の中が暗く感じる程だ。

 これって……オーブランやあのドラゴンと同じ、認めた奴に渡すオーブじゃねえか。その2体と同じように、必要があれば力を借りていいってのか?


「妾は完全に認めた訳じゃ無いけど! 監視の意味でも持たせておいてやるわ。光栄に思いなさい!」


「は、はあ……」


 わかりやすいくらいの上から目線で、言い方もトゲのある偉そうな口調。全く反省の色を見せない玉藻前の言葉にルージュも押されっぱなしで、玉藻前の隣にいるカグヤも呆れたようにため息をこぼす。


「あ、そうだ。モミジさん。着物お返しします」


 そんな気持ちを切り替えるためか、同じく見送りに来ていたモミジにそう言ってルージュは借りていた着物を手渡した。オレらもそのことを思い出し、それぞれの着物をモミジに返した。


「おおきにな。着物の着心地はどうやった?」


「すごく着心地良かった! 着物って本当に凄いね」


「せやろ、エメラちゃん。シノノメの手作業の価値の証明なんよ。また来たときに顔出してな。貸すくらいならいつでも大丈夫よ。……あんたらのおかげで売れ行きも良くなったしな」


 ……最後に小さく本音が漏れたのは聞こえなかったことにしておくか。

 モミジも『滅び』に商売仲間が攫われた可能性があることで傷はある筈なのに。それでも笑顔を絶やさないのは素直に凄いと思うところだ。


「年下の子が頑張ってんのにウチがうじうじしてるわけにはいかんな。ウチもやれることがないか探してみるわ」


「モミジさんは強いですね。とても敵わないや」


「ふふん。シノノメの女は強いもんなんよ!」


 ドラクの言葉に調子に乗ったモミジは腕をまくり、力をアピールするかのようなポーズをする。

 辛い気持ちはあるかもしれないのに。それでも表情には一切出さず。そういった『強さ』は本物なのかもしれない。


「拙者も世話になった。旅路の幸運を願う」


「うむ。まだ困難はあるだろうが、協力者の数は着実に増している。折れそうになった時はそのことを思い出せ。私はしばらく離れるが……用があれば水鏡でいつでも呼び出してくれ」


 イブキも、シルヴァートも、見送りのため最後にそう言ってくれた。シルヴァートの言う通り、ここに来てからも仲間が増えたということを改めて実感する。

『滅び』と戦っているのはオレらだけじゃない、快く力を貸してくれる妖精や精霊達が大勢いるんだ。それは何者にも侵されることのない、オレらの確かな揺るがない功績だ。


「おい、そろそろ出航するぜ」


「あ、はい!」


 船で待っていたロバーツにそういわれ、オレらは船に乗り込んだ。全員が船に入ると同時にガラガラと音を立ててイカリが巻き上げられていき、シノノメの港から徐々に離れていく。いよいよシノノメから離れる時が来た。

 そして……港から手を振るカグヤやシルヴァート達がどんどん小さくなっていく。家に戻れることもある安心さもある反面、別れる寂しさも胸に残る。

 オレは波に揺さぶられる船の淵に手をかけながら、カグヤ達の姿を眺めていた。やることがひとまず終わり、少しばかり安心して穏やかなひと時を味わう。




 ……この時、オレはまだ知らなかった。

 これから降りかかるものがこれまでの全てを否定しかねないことだということと、ルージュの笑顔の影に隠れる不穏な気配の正体と。


 ────そして、全ての根にある『真実』を。

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