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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第7話 眠る火炎(2)

 

 数十分後、用意を済ませた私達はその噂の山へと向かった。

 国の北東に位置するその鉱山は王都郊外なだけあって他の妖精や精霊を全くと言っていいほど見かけないし、真昼なのにも関わらず薄暗くて気味悪さを漂わせてる。

 噂通り廃鉱らしく、山にはその入り口らしき洞窟があった。


「ここか……。確かにそれっぽい!」


「なんかワクワクしてきたぜ! 探検なんて久しぶりだし」


 エメラとイアは場違いなまでにご機嫌だ。イアの方は元々こう言った場所が好きという感じの反応をしている。

 イアも男の子だし、こういったものに憧れる傾向があるのかもしれない。


「一応ツルハシ持ってきたけど、奥に行かなきゃ使う時も無さそうだな」


「なーんだ、ルージュ用意してるじゃん」


「姉さんに言って借りてきたの。エメラ、ツルハシなんて持ってないでしょ」


 入り口で時間をかけてもしょうがない。ここまで来てしまったのだからとにかく入ってみよう、と私達は廃坑にいよいよ踏み入れる。


 入り口から入ってすぐには、まだこの廃坑が廃坑でなかった時に使われていたであろう運搬用のトロッコや、ツルハシがそのまま残されていた。捨てられてから久しいのだろう、それらの道具は錆びが酷くてもう使えそうに無い。

 設置されている灯りも、今はもう光を灯すことなく廃れて最早飾りも同然。ここは自分達で明かりを作るしかなさそうだ。


「えっと確か……『エリュメ』!」


 呪文を唱えた瞬間、ポッと浮かび上がった手の平サイズの光の球。これはカンテラ魔法……名の通り、簡易的な明かりを作り出す魔法だ。そんなに強い光ではないけれど、視界を照らすには充分だ。


「授業で習ったけど、何気にカンテラ魔法って使うの初めてかも」


「まあ、普段使うようなものでもねーもんな。街は明るいし、真っ暗になったら魔物が危ないから出歩くこともあんまないし」


 そんなことを話しながら私達は奥へ奥へと進んでいく。その道中でカンテラ魔法で足元や壁を照らして周りに注意を払いながら進んで行くものの、鉱物らしきものは見当たらない。


「道具も残ってるし、この辺りは掘り尽くされてるみたい」


「でもよ、それだったら鉱脈もあるんじゃねえか?」


「そうね! 楽しみになってきた!」


 なんて、暗くてじめじめとした洞窟を包む空気とは相反して、エメラは今にも鼻歌を歌い出しそうなくらいにご機嫌だ。そんなに欲しいものがあるのかな。

 鉱石を必要とするくらいだから、何か値段が高いものなんだろうけれど。それも必要なのは今すぐ、ますますエメラが何を欲しがっているのか分からなくなってきた。

 そんなエメラのテンションに付いていけない私とイアが苦笑いする中でただ一人、ルーザは怪訝けげんそうな表情を浮かべた。


「だが……妙だな」


「え〜? 妙って何がよ、ルーザ?」


「まだ入り口近くだがこれだけ進んでいるのに魔物一匹いやしない。こんな雨風も凌げる環境なのにだぞ?」


 そう言われてみれば確かに。雨風を凌げて、妖精にも邪魔されないし、外敵にも見つかりにくいという魔物にとってはこれ以上ないってくらいにいい環境だというのに、一匹もいないなんて流石におかしい。

 前にここで発掘していた妖精が追い出されて、しかも普通の魔物が住処にしないなんて。


「ここに棲みついた魔物、相当かもね」


 私が周りを見渡しながらそう言うとエメラとイアはごくりと喉を鳴らした。

 この廃坑……奥に確実に何かありそうだ。


 さらに奥へ進んで行くと、捨てられた道具も減ってきた。岩肌も削られていなくて、尖った岩がゴツゴツと剥き出している。あまり手を加えられていないのが見てとれた。

 妖精の手が入っていないということは、壁も補強もされていない。道も辛うじて道といえる岩の隙間。下手にいじると崩れそうだ、慎重にいかないと。

 岩をよじ登り、狭い所は身をかがめて潜り抜けて。そう岩の間を縫うように通りながら注意深く岩肌を観察していると、今までには無かったものを見つけた。


「……あ!」


「どうした、ルージュ?」


「うん。ここ見てよ、岩の間」


 聞いてきたイアと、それを聞きつけたルーザとエメラも何事かと近づく。そして私が指差した先にあるのは、


「うん? 赤い斑点みたいなのがあるぞ?」


「これってもしかして……鉱石?」


 岩の間に食い込むようにして紅色の鉱物がある。小さいけれど、間違いなく鉱石だ。

 パッと見ただけじゃ、鉱物に詳しくない私達にはなんなのかわからない。私はあらかじめカバンに仕込んでおいた、その手の図鑑を広げてみる。


「ええと……」


 ページをパラパラとめくり、紅い鉱石を片っ端から調べていく。見比べてはめくり、見比べてはめくり、を繰り返し……ようやく、目の前の鉱石と特徴が合致するものを見つけ出せた。


「これ、小さいけどルビーだよ。ルビーの原石だ」


「ふーん、これがな。ってことは……」


「噂は本当だったってことかな」


「じゃあ奥に行けば鉱脈もあるってこと⁉︎」


「ルビーも奥に行くにつれて増えてるから可能性は高いよ」


「やったー‼︎」


 エメラは喜びのあまり飛び上がる。よっぽど見つかったのが嬉しかったみたいだ。


「なんでこんな分厚い図鑑なんか仕込んでんだよ」


「……一応必要かな、って。入れようと思えば入ったし」


「ルージュのカバンはなんでも入るもんね」


 ふーん、とルーザにいぶかしげな視線を向けられて、苦笑いしか返せない。

 私のカバンは実は姉さんから貰ったもの。強力な収納魔法がかけられているから、その気になれば屋敷のもの全部入れておくことだって出来る特注で作らせて贈ってくれたものなんだ。

 まあ、便利だからって何でもかんでも詰め込むのは良くないのは自分でもわかってるけど……。


 でも、問題はどうやってこのルビーを持ち帰るか。これだけ小さいと掘り出すのも難しい。周りの岩を狙って砕くのは素人の上にまだ子供である私達にとっては至難のワザだ。


「奥に行けば掘りやすいのもあるかもしれないよ」


「それしかねえな」


 見つけた小さな欠けらは後にして、さらに奥へと進んで行く。

 そうして奥に行くにつれて少しずつではあるけど、赤の斑点が増えてきている。暗い中でも、普通の岩の間にある紅い鉱石は目立つものだ。

 やっぱり、鉱脈があるみたいだ。ああは言っても少し自信が無かったから、それがここに来てようやく確信へと変わった。


「噂が本当ってことはわかったけど、まだこれだけ残ってるのに追い出されちゃったんだよね?」


「まだ充分採掘出来るから止むを得ずだろうね」


「ここまで来たら引き返したくねえな。奥にどんなやつがいるんだ?」


「何にしても嫌な予感はするな……」


 ……その嫌な予感が当たっているのか、洞窟に異変を感じ始めた。


 奥に進むと同時に、ルビーが埋まっている岩が増えてきているけど、何故だか暑くなってきている。最初は気のせいかと思ったけどじわりと汗を軽くかくほどまでに。まるで火で炙られたような……日差しもないのに、ジリジリとした熱が私達を襲う。

 そんな明らかに異常な温度に、みんな疑問を隠せない。


「おかしいよ、洞窟って普通ひんやりしてるのに」


「いくら常夏の島でもこれはねえぞ。どうなってんだ」


 ハンカチやタオルでべたついてきた汗を吐きながらエメラとイアは漏らす。ルーザはともかく、暑さに比較的慣れている私達三人でさえこの状況……確実に外の気温よりここの温度の方が高い。

 炎系の魔物でもいるのかな。でもここまで及ぼすことまでなんて。


「……! おい、奥に何かいるぞ!」


 ルーザが何か気づいて私達も注視してみる。

 ……確かに影が揺らめいてる。それもかなり大きさで、どうみても小型の魔物のサイズではない。


 な、なんだろう……嫌な予感しかしない。

 それでも気にならずにはいられないのも事実。正体が分からず、こんな怖い状況でも好奇心には勝てなかった。警戒しつつ、私達はその影が見えた場所へと急いだ。

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