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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第62話 月の元で寄り添う者(3)★


『────よくやった。満点をやるよ』


「え?」


 だけど、次に感じたのは衝撃でも痛みでもなかった。頭の中で確かに聞こえた、男の声……。


「今度は一体、何をしたのですか……?」


 カグヤさんの声がさっきまでとは違い、動揺の感情によって震えていた。不思議に思い、私は自分の身体に視線を落とすと、


「……え、何これ?」


 私の身体には、紅い何かが纏わりついていた。それは頼りない煙のように揺らめいているのに、確かな底知れぬ力を感じるオーラのようなもの。それが私を包み込み、守るように目の前に『存在』していた。

 もしかして、これが吸血鬼の血の力が限界まで引き出された証?


『そうだ。全身に血をたぎらせた結果だ。さあ、フィナーレといこうじゃないか』


 レオンの声は楽しそうに弾んでいる。五感を共有している私にも、レオンの感情が伝わってきた。

 ……戦局をひっくり返すことの出来る一手。それを今こそ見せつける時への興奮が。


『さあ、その血をお前の望む所に捧げろ。あの紛い物の月を、美麗な紅へと変えてやれ!』


「うん……!」


 私は驚いているカグヤさんは構わず、偽りの満月へと向きなおる。

 黄金の光を宿す、どこも欠けることなく緩やかな曲線を描く美しい満月。これを、私の中にある()()を使って、染め上げるんだ。


 腕を真っ直ぐ伸ばし、人差し指のみを突き出して、『月』という獲物に食らいつくために狙いを定める。獲物に銃口を突きつけるが如く、一ミリも手元がブレないように固定して私の牙を突き立てながら。

 やり方は────頭の中で指示してくれる声に従うままに。


「────『ブラッド・サクリファイス』‼︎」


 傷ついてボロボロの身体で、それでも意識は一切ブラさずに。突きつけた指先から、纏ったオーラ全てを月にぶつけて染め上げる。

 オーラは月にぶつかると同時に、月全体を闇に閉じ込める。……そして、それが晴れた時には月は変わり果てていた。


 ────血の色をそのまま写したような、紅く不気味な月に。


挿絵(By みてみん)


「なっ……、これは一体⁉︎」


血を(ブラッド・)捧げた(サクリファイス)。これでもうカグヤさんは月を使えませんね」


 そのことを示すように、紅く染まった月から膨大な魔力が流れ込んでくる。おかげで消耗していた体力も活気を取り戻す。

 今度はこっちの番だ!


「『ブラッドムーン』!」


 月から集めた光で刃を形成し、紅い閃光となってカグヤさんに向けて放つ。

 月を失ったことで、離れていても僅かながらに力を得ていたカグヤさんの体力は目に見えて擦り減っていた。元々攻撃を受けて傷ついていた身体がぐらりと傾く。


「ハハッ! チャンス到来ってか。美味しいところは貰っとくよ!」


 体勢を崩しているカグヤさんにオスクは手をかざす。すると、カグヤさんの周囲の暗闇から鎖が現れ、一瞬にしてカグヤさんを鎖の檻で閉じ込めた。


「この術は……⁉︎ わたくしには見覚えが……」


「久々に暴れると僕も成長するわけ。そうだな……世界の(ワールド・)呪縛(バインド)とでも名付けておくか?」


 オスクはいつものような、余裕をかました笑みを浮かべてケラケラと笑っている。

 戦況が有利に傾いたことで得意げになっているのだろう。ルーザも隙を逃すまいと、動けずにいるカグヤさんに鎌を振るっていく。


「くっ、これほどまでに追い詰められるとは……!」


「はん、立場逆転だな。ルージュ、トドメはお前が刺せ!」


「うん……!」


 最後くらいは、自分自身の力をぶつけるべきだ。

 私はそう思って、紅い光ではなく、純白の光を身に纏う。

『滅び』に戦うための、力を、意思を、カグヤさんに全て伝えるために。


「『ミーティアライト』ッ‼︎」


 光を纏った身体のまま、私は鎖に縛られているカグヤさんに突っ込んだ。鎖が衝撃に耐えきれずに千切れていき、カグヤさんの身体は吹き飛んでいく。


「……合格です。貴方方こそ、────になるのに相応しい」


「え……?」


 カグヤさんが最後に漏らした言葉は誰の耳にも届かぬままに。この空間と、光と共に消えていった……。

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