第61話 千年越しの新難題(1)
私達3人の目の前には満月が光り輝いていた。魔力によって生み出された紛い物にもかかわらず、宇宙が映し出されたその空間には遮るものはなく、星空がどこまでも続いているように思わせる。
そして……その前に佇むのはその光を使役する大精霊カグヤ。今、カグヤさんと対峙しているだけでも、言い知れぬ緊張感が漂ってくる。こんな相手に、私達は勝たなくちゃならない────そんなプレッシャーがのしかかってきて。
「さあ、参ります。手加減は無用。貴方方の力、知恵、絆全てをわたくしに見せてください」
カグヤさんの背後に巨大な魔法陣が浮かび上がる。満月に匹敵するんじゃないかというくらいに大きく、まばゆい輝きを放っている。
カグヤさんも本気で私達を試そうとしているのが伝わってくる。認めてもらうためにも、ここで退くわけにはいかない。……どちらにしろ、私達に断る選択肢は初めから用意されていないのだから。
「勝てるかな、3人だけで……」
「はん、要は力ずくで行けばいいんだろ。それで済むなら楽なもんだ」
「ま、いつも通りにやるだけっしょ。いつもと違うのは敵だけだし」
ルーザもオスクも、弱気な私に2人なりの鼓舞をしてくれた。
そうだ……私は一人じゃない。いつもよりかは少ないけれど、周りには仲間がいるのだから。そんな言葉に背中を押され、私も覚悟が決まった。
「じゃ、さっさと終わらせるぞ。いつまでもこんな窮屈なところなんて真っ平だからなっ、と!」
オスクはそう言い、早着替えの魔法でいつものローブにあっという間に着替えた。
着慣れてない袴では動きづらいからだろう。私とルーザも、それぞれいつもの黒のローブと、白いマントを羽織った紫の法衣に着替えると同時に羽根を広げる。
そうして武器を構えて、準備は整った。────戦いの合図が、カグヤさんの次の言葉によって宣言される。
「『蓬莱の一閃』!」
カグヤさんの声が響くと同時に、魔法陣から光の刀が現れ、それが次々に私達に襲いかかる。
三つの方向に分散してはいるものの、元の数が半端じゃない。まるで刃の雨が降り注ぐようだ。迫力と大精霊の魔力が伝わり、思わず足がすくむ。
それでも、逃げるわけにはいかないんだ!
「やあっ!」
剣を使って、光の刀を相殺する。
弾かれた刀はカグヤさんの魔力の繋がりを失い、粒子となって辺りに散っていく。
数は凄いけれど、一つ一つの威力は恐れる程じゃない。これはまだ序の口な筈……カグヤさんも、今は様子見でこの魔法を放ったのだろう。
「貴方方の力はその程度ではない筈。こちらとて、容赦は致しません。『龍の咆哮』!」
次は風の塊が私達を直撃する。物理的なダメージはないものの、風圧の攻撃で私達はその場から吹っ飛ばされる!
「うわっ⁉︎」
「チッ……」
こんな重力の縛りもない空間だと羽根を広げて飛べる体勢だというのに踏ん張ることも出来ず、空気の抵抗もないためにスピードも落ちずに放り出される。
壁もないため、体勢が整え辛い。あっという間にカグヤさんから大きく距離を離されてしまい、しかも幾らもがいても前に進む気配がしない。
こうしている間にも私達はどんどんカグヤさんとの間合いが離れていくばかりだ。いつもの地面を踏みしめながらの戦いとは違う状況に、流石のオスクも戸惑っている。
カグヤさんとの距離は軽く見積もっても数十メートル。その先でカグヤさんは私達を見下すような視線を向けていた……。
「ふん。ここから戻ってこいとでも言いたげだな」
「くっそ、やられっぱなしでいられるかよ! 『ディザスター』!」
ルーザはカグヤさんと逆方向に鎌を振るい衝撃波を飛ばす。その途端、攻撃の反動でルーザの身体はカグヤさんがいる方向へと向かって飛んでいった。
そうか。空気抵抗もないんじゃ、少しの動作で普段とは倍以上の距離を移動出来るんだ。上手く使えば、カグヤさんを撹乱することが出来るかもしれない。
「自分で自分を吹っ飛ばせ、ってか。まあ悪くないじゃん」
「うん。ルーザの言う通り、反撃しなきゃ!」
カグヤさんを認めさせるにはそれしかない。私とオスクも武器を構えなおし、詠唱を始める。
「『リュミエーラ』!」
「『ブラッドアビス』!」
私は光の球を、オスクは赤黒い閃光をそれぞれ放つ。魔法を放ったことでの衝撃が私達に武器を通して伝わり、そのおかげでカグヤさんと一気に距離を縮めることが出来た。
よし! ルーザのおかげで移動手段は見つけられた。
その後にはそれぞれの体勢の整え方を見つけ出し、安定して姿勢を保つことが出来るように。これで思う存分、攻撃に移れる。
「『セインレイ』!」
「『ディザスター』!」
私が光弾の弾幕を張り、退路を塞いで狙いがつけやすくなった後にルーザが衝撃波を撃ち込む戦法。玉藻前の戦いの時でもやったやり方だ、これなら確実にダメージを入れられるだろう。
……そう、思っていたのに。




