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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第59話 竹取の翁といふものありけり(2)


 妖の長というだけあって、玉藻前の力は本物だ。でも、味方に大精霊が2人もいるということもあって、玉藻前の激しい攻撃もすぐに相殺することができている。

 頼もしいけれど、私だって何もしないわけにはいかない。今度は私の番、と玉藻前に向き直る。


「あっ⁉︎ だから注目しないでって言ってるでしょ!」


「いや、注目しなきゃ攻撃できないだろうが……」


「せめて目線を一寸でもずらしなさい! 意識しちゃって気が散るのよ!」


 なんて言って、また玉藻前は顔を赤くして袖で頭を抱えてしまった。その顔は恥ずかしさで再び真っ赤になっている。

 な、なんか今までにない感じで調子が狂うな……。それに一寸って、私達にはどれぐらいかわからないし。


 でもこっちだって目的がある。さっきのオスクの言葉をそのまま借りるようになっちゃうけど、玉藻前のトラウマを気にしている余裕はない。進むためにも全力で戦わなくちゃ。


「『セインレイ』!」


「『ディザスター』!」


 私とルーザでそれぞれの魔法を放つ。

 セインレイは威力こそ低いけれど、連射が効く魔法だ。弾幕を張って逃げ道を塞げば狙いもつけやすくなる。

 ルーザも様子見をするようで、最初は高威力の魔法をまだ放たずにいる。まだ玉藻前の手数を知らない今、あまり大きく仕掛けるのは隙にもなるからだろう。

 セインレイの弾幕で退路を断たれた玉藻前はルーザの攻撃をまともにくらう。絶好のチャンスだ。


「ふーん、やるじゃん。今のうちに畳み掛けておくか」


「うむ。オスク、私に合わせてくれ」


「はいはい。そっちこそ足引っ張ってくれるなよ!」


 シルヴァートさんとオスクは攻撃を受けて怯んでいる玉藻前と一気に間合いを詰める。そして辺りに冷気と暗闇が立ち込めたかと思うと、玉藻前に向かってそれが放たれる。


「『カオス・アポカリプス』!」


「『雪花新月斬・幻』!」


 オスクが玉藻前を暗闇に閉じ込め、シルヴァートさんが氷の剣で雪の結晶を描いて闇ごと吹っ飛ばす。

 流石、大精霊の連携だ。かなりのダメージが玉藻前に入っただろう。


「きゃあっ⁉︎」


 玉藻前はそのまま体勢を大きく崩し、派手に背中を竹に打ち付ける。竹が大きく揺さぶられ、千切れた葉がひらひらと舞う光景は大精霊2人の攻撃の威力を物語っていた。


「効かねえとは聞いていたが、一応試してみるか」


 そう言ってルーザは鎌を握り直す。そしてその巨大な刃を玉藻前に向かって力強く振り下ろした!


 ……が、やはり聞いていた通り、鎌の刃は玉藻前を通り抜けてしまった。鎌の斬撃が玉藻前の像を歪ませ、水面のように波立っただけ。まるでその玉藻前の像すら幻と感じてしまうほどに。

 イブキが言っていたように、物理攻撃は通じそうにない。そんなルーザを見て玉藻前は嘲笑う。


「アハハッ! 馬鹿じゃないの? 通じないとわかっていて妾にそんな真似するなんて。やっぱり妖精は愚かね」


「ハッ。そんな愚かな奴に醜態晒したのはどこのどいつだったんだよ」


「キーーーッ‼︎ 生意気な小娘ね! まずあんたから片付けてやるわ!」


「こっちの台詞だ、化け狐。オレの姿を取り繕ったんだ、掻っ捌いてやるから覚悟しろ!」


 いうが早いか、ルーザは再び鎌を振り上げ、その刀身にギラリと黒い光が宿る。

 そしてその光を玉藻前に向かってそのままぶつけるように、ルーザは鎌を思い切り振るった。


「『カタストロフィ』!」


 災厄の如く、強力な衝撃波が鎌から放たれる。間合いを詰めていたことで距離が近かった玉藻前はかわす余裕も無い。行動を起こす隙さえも与えず、玉藻前に衝撃波が直撃する。


 でも玉藻前もやられっぱなしじゃない。痛みに顔をしかめながらもまた扇子を掲げた。


「妖精如きが調子に乗るんじゃないわ。悠久の時を生きた妾に定命の妖精のちっぽけな力で勝てると思わないことね!」


 玉藻前の周囲に力の渦が巻かれる。

 火の玉がさらに膨らみ、竹林をざわつかせ、空気さえも揺らぐ程の波動。さっきまで忘れかけていた玉藻前の威圧感が再び私達に襲いかかる。

 ……これが、玉藻前本来の力なのか。なんにしてもプレッシャーが尋常じゃない。踏ん張っていないとすぐにでも吹き飛ばされてしまいそうだ……!


「妾の世界に囚われるがいいわ! 『妖狐・幻術結界』‼︎」


 玉藻前の扇子から、四角い何かが現れた。紫色をした……紙のようだ。妖しげな力に包まれて、それが紙を覆って炎のように揺らめきながら漂っている。

 あの紙、まさか────!

 見覚えがあった。あれは玉藻前の幻術の媒体である紙……!


「まずい! あの御札に触れられれば、また幻惑に惑わされてしまう!」


 イブキが叫んでも、もう遅い。御札は容赦無く私達に向かって飛んでくる。妖しい炎を纏った紙が私にめがけて一直線に飛んでくるのが嫌でも視界一杯に飛び込んでくる。

 また、あの沈黙と孤独に閉じ込められる。恐怖で頭の中が真っ白になり、スピードに身体が追いつかない。剣を持つ手も震えて……このまま何もできずに終わるのか。


 全ての動きがスローモーションに見えた。時間が止まったように紙の動きが緩やかになっているというのに、それでも身体は動かないままで。

 もう、どうすることも────

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