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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第59話 竹取の翁といふものありけり(1)

 

 ────あやかしの長、玉藻前たまものまえ

 その肩書きに恥じない荘厳な雰囲気と、こうして見据えているだけでも感じる力を前に、思わず足がすくむ。ルーザに化けていた時でさえ、異様な空気は感じ取っていたのに、いざ正体が明かされると『それ』はさらに高まる。


 黄金に輝く九本の立派な尻尾を携え、周囲に赤い炎の玉を浮かばせているその佇まい。大精霊には及ばなくとも、威圧感は負けていないように思えた。

 いつ、玉藻前が何かを仕掛けてくるかわからない。私とルーザ、イブキと大精霊2人以外のみんなはまだ幻術に囚われている……。こんな威圧感のある敵を前にして、万全な状態で戦えないなんて。緊張感から頰に嫌な汗がつたうのを感じた。

 みんなが幻術から解放されるまではこの五人で持ち堪えないといけない。たとえ通じなかったとしても防御には使える筈と、護身用に私達は各々の武器を構えて応戦できる体勢を整える。


 全員では戦えないけれど、まだ幻術に囚われているみんなを助けるためにも。大精霊にも会う必要がある今、こんなところでやられるわけにはいかないのだから。

 ……相手の出方を伺いながら、注意深く玉藻前を観察していく。私達の警戒の眼差しが一気に玉藻前に集中する。


「……や、やめてっ! 妾を直視しないでよっ!」


 ……が、突如として玉藻前の顔が真っ赤になり、竹の間に飛び込んでしまった。



 ……。

 …………。


「……え?」


「はあ……?」


 その台詞と行動がいきなりのことでなんのことかわからず、私とルーザのポカンとした声が重なる。

 当の玉藻前はさっきまでの厳かながらも妖艶な雰囲気は何処へやら。玉藻前はたまらないとばかりに頭を浴衣の袖で覆い隠して私達が言葉を紡ぐ暇もなく、あっという間に竹やぶの陰に隠れてしまった。

 でもまさに頭隠して尻隠さず。立派な尻尾がそれを邪魔して余計に目立ってる気が……。


 でも、一体どうしたんだろう。さっきまであんなに余裕ぶっていたのに。


「おい、一体なんだってんだ? あれも戦略か?」


 玉藻前の行動を怪訝に思ったルーザはイブキに問うも、イブキもどう説明すればいいのかわからない、と言いたげな表情をしている。


「拙者も噂程度にしか知識はないのだが……玉藻前は幻術を得意とする反面、大きな過ちを犯したことがあるそうだ。数百年前だったか、まだ拙者達と妖達が共存していなかった時代だ」


 イブキの話によれば……その頃の、まだカグヤに仕えていなかった玉藻前は、妖精や精霊達をその強大な妖力で惑わし、圧倒して、引っ掻き回していたそうで。そのせいで妖精達からも相当危険視されて退治を試みる妖精も何人かいたものの、成し遂げられた者はいなかったらしい。

 それだけだと玉藻前の力がそれほど強かった、という証明にしかならないけれど、問題はその先とのこと。


「ある日のことだ。その時も玉藻前は妖精達を化かそうと妖精の姿を取り繕い、シノノメの住人達に取り入ろうとしたのだが……いつもあのように浮遊して移動していたのが仇となったらしくてな」


 浮遊の移動に身体が慣れてしまったせいで、足で歩くことをすっかり忘れて玉藻前は派手につまづいて転んでしまい。その拍子に幻術も解けて、正体がバレて……


「その直後に陰陽師……妖退治を専門にしている者に何事も成せずに退けられてしまってな。その時のことが笑い話として残ってしまったのだ」


「成る程な。大恥かいて、トラウマになったという訳か」


「う、うるさーい‼︎ 妖精の分際で掘り起こすんじゃないわ!」


 竹やぶに隠れる玉藻前は、顔から蒸気が出るんじゃないかというくらいにプンプンしてみせている。

 シルヴァートさんを除く私達全員に幻術を施せる実力はあるのだから妖力の強さは確かなのだろうけれど、よほどその時のことが忘れられないのだろう。おかげでさっきまでのイメージが見事にぶち壊されたような……。


「あんたのトラウマとかこっちは知ったこっちゃないんだけど。邪魔するってんなら大人しくコテンパンにされてくんない?」


「ふ、ふん! 妾の力の前に跪くがいいわ!」


()()を見せられた後じゃ不可能だと思うがな……」


 ルーザはまだ呆れ顔だ。仕方ないかもしれないけど……。

 出だしからいきなりこじれてしまったけれど、それでも油断は出来ない相手だ。絶対に突破しないと……!


「そういう訳だ。いくら馴染みの付きであるからとはいえ、私も手加減はできぬ」


「む、月影様までいたなんて……」


 氷の剣を構えるシルヴァートさんに、玉藻前は訝しげな表情を浮かべる。

 カグヤの使役する妖ならシルヴァートさんのことを知っていてもおかしくない。あの反応からして、2人は前から知り合いだったのだろう。


「妾だってあなたが相手でも容赦はしないわ。妾が守るのはカグヤ様だけなんだから」


「言うまでもないだろう。こちらとて、目的を果たすために全力でいかせてもらう」


 シルヴァートさんが剣を構えると同時に、玉藻前も手に持った扇子を私達に向けてくる。私達も応戦する体勢をとった。


「天下の九尾の狐の力、思い知るがいいわ! 妾を罵ったことを後悔なさい!」


 そう言って玉藻前は扇子を頭上に掲げる。それと呼応するかのように、玉藻前の周囲に浮かぶ火の玉がボワッと大きくなって私の周りをちらつき始めた。

 来る……!


 そう思ったのも束の間。火の玉はさらに大きくなり、私達に向かって一直線で飛んで来る!


「喰らうがいいわ! 『百鬼夜行』!」


 玉藻前は得意げに高笑いする。その余裕さに劣らず、火の玉は私達に容赦無く襲いかかってくる。火の玉の数が多く、避けることさえ難しい。

 玉藻前本体に物理攻撃は効かなくても、相殺はできるはずだ。私達はうなずき合って、お互いの背中を守るように円になって火の玉に立ち向かう。


 私とシルヴァートさんは剣で火の玉を切り裂き、ルーザは鎌で一掃。イブキは刀を使って確実に打ち落として、オスクは大剣で叩き斬る。全員で戦えなくとも、みんなを守るためにも全力で挑むと決めて。

 千切れた火が宙を舞い、直撃は免れても熱となって私達を炙っていく。緊張で元々汗ばんでいた手がさらに滲んで、剣が滑りやすくなる感覚に捉われ始める。ここで剣を手放したら致命的だ……そう思うと、自然と剣を持つ手に力が入った。

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