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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第58話 真か偽か、下せし者は百鬼夜行(1)

 

「────ここだ。この先の御殿に、大精霊殿はおられる」


 イブキの案内で私達が辿り着いた先は大きな森。でもその森を構成しているのはただの木ではなく、規則正しく節目が入った、背の高い緑の柱のような植物だった。

 見慣れない植物だけど、本で見たことがあった。確か、竹という植物だった筈。見た目も育ち方も他の植物とは違うのを覚えている。


 だけど本で見たのと、竹を実際に目の当たりにするのとではまるでわけが違う。

 他の植物とは異なる質感はもちろんだけど、驚くのはその高さ。私達とは軽く十倍はあるんじゃないか、というくらいに竹は幹を空高く伸ばしている。木とは違って、日光を浴びるために目一杯に枝を伸ばすのではなく、ただひたすらに上へ上へと背伸びする生え方。全ての竹がそんな感じで生えているために、成長を遮るものもない。それだけの高さにまで到達してしまうのも自然と納得がいった。


「うわ、ここに住んでんのかよ」


「身を隠すには最適なんでしょうけど。結構うっそうとしてますし」


 イアもフリードも、みんなも立ちはだかる竹林に圧倒されている。確かに外から眺めているだけだと、竹の一つ一つが折り重なってまるで自然のバリケードに見える程だ。

 でも、ここを突破しない限りは満月の大精霊にも会うことが出来ない。


「ここにはあやかしが多く潜んでいる。充分注意してくれ」


「あやかし……?」


 イブキの忠告に私達は首を傾げる。妖というのは私達にとって聞きなれない単語だ。

 なんだろう、魔物みたいな存在なのかな。潜んでいるってことだし、性質は似てるような気がするけれど。


「魔物とは似て非なるものだ。性質の違いを簡単に言うと、刃が通らない」


「えっ、攻撃が効かないの?」


「霊の類のものに近しい種族であるのでな、敵意ある者からへの武器での攻撃はすり抜ける特性がある。魔術であれば効くのだが、あまり多く相手にすると魔力の消費が激しくなる」


 なるほど……物理攻撃が効かないんだ。となると、実体がない魔物とみてあながち間違いではなさそう。

 剣や鎌での攻撃が効かないなら、出くわせば魔法でしか応戦出来ない。イブキの言う通り、まともに相手をしていたら魔力をすり減らしてしまうし、最悪は魔力切れを起こしてしまう。


 魔力切れは酷い時には一ヶ月寝込んでしまうタチの悪い病気のようなものだ。『滅び』が迫っている状況で、そんなことになってしまうのは絶対に避けなくてはいけない。


「ここの妖達は満月の大精霊が護衛として使役しているものだ。当然、強力な個体もいる。周りの警戒を頼む、オスク」


「はいはい。ま、進んでいる間にそいつのこと説明してやれば?」


「言わずともだ。私の後を付いてきてほしい。この竹林の中で迷えば、一生彷徨うことになる」


 シルヴァートさんのその言葉で私達の緊張が一気に高まった。迷えば戻れない……冗談でも笑えない話だ。正直に言えば怖いし、そんなところは出来たら入りたくない。

 ────それでも、私達は進まなくちゃいけないんだ。『滅び』を食い止めるためにも。


 シルヴァートさんを先頭に、私達は竹林に踏み出す。途端に竹の葉で日光が遮られて、元々薄暗かった視界にさらに影がかかる。何が潜んでいるかわからない。充分に周りを警戒しながら進み始めた。


「────では、満月の大精霊について話す」


 竹林を進み始めてからしばらくして、陽の光も完全に遮断された頃。頃合いを見てか、シルヴァートさんから話を切り出された。


「存じているだろうが、私とは対の存在だ。月光の力の象徴であり、それを操る。月の満ち欠けで力が左右される魔法では、彼女に敵うものはいないだろう」


 シルヴァートさんは淡々とした口調で説明していく。いつも通りの、周りの状況に一切の動じない態度で、自身の対である精霊のことを語りだしていく。


「彼女の名は『カグヤ』。絶世の美女と謳われる程の美貌を持ち、その美しさは光を纏うとまで言われている。月を通しての力を行使し、数多の世界を渡り歩きながら果てのない刻を生きながらえ、罪を背負い続けているという────。真実かは私にもわからぬが、大精霊の中では最年長だ」


 ────満月の大精霊カグヤ。それが今から会おうとしている大精霊の名ということか。

 シルヴァートさんの口頭の説明だけでもなんだか壮大な話だ。まるでおとぎ話のようで、『何か』に縛られ続けているような宿命を背負っている……そんな印象だ。そして、大精霊の中では最も古参である人物。ならば、実力も相当なものの筈……そんな人物が協力してくれるのなら、凄く心強い。


「その罪って……一体、なんなんだ?」


「拙者も曖昧にではあるが、聞いた試しがある。カグヤ殿は月に住まわれていた時に、なんらかの重罪を犯して地上に堕とされたのだとか。なんの罪かは本人も忘れたようだが」


「忘れるもんかよ、普通? ま、忘れるんなら理由はくだらないものだったんだろうが」


 イブキの説明に、ルーザは興味が無くなったとでも言うかのようにため息をつく。

 でも、そのカグヤも途方も無い時を生きている大精霊だ。そんなに長い時を過ごしていたら、過去に犯した罪もやがてどうでもよくなってしまうのかもしれないけれど。


 なんにせよ、満月の大精霊に協力してもらうことを取り付けるのは絶対だ。これから『滅び』が侵攻してくることや、攫われた可能性のあるモミジさんの商売仲間の妖精達を助けるなら尚更のこと。

 大精霊に会うことは簡単じゃないことはよくわかっているつもりだ。今まで何もせずにすぐに会ってくれたのなんて、今のところニニアンさんだけ。きっとこの竹林を抜けてもまだ会える訳では無い筈。

 みんなもそれがわかっているだろう。私達はお互いを守り合うように、周りを見渡しながら竹林のさらに奥へ、奥へと歩みを進めていった。

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