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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第57話 垣間見る空蝉(1)

 

 昼食を取るために、私達はイブキの家に向かう。イブキの家も他の例に漏れずに、木で造られた外壁に、鱗のように重ねられた石の板の屋根と横に引く扉。近くで実際に使うところを見てみると、より文化の違いが感じられる。


 それは内装も含めて。部屋は広さはあまり強調されておらず、壁で間取りを多く造られていて、寒さをしのぐ設計。床も、フローリングではなくて植物の茎を編み込んで板にしたようなものを敷き詰めている。靴は脱いで家に上がるという感覚まで、私達には新鮮なものだった。


「今、母上に食事の準備を頼んでいる。料理ができるまでの間、どうかくつろいでほしい」


「くつろぐって……椅子は無いのか?」


 イアの言葉通り、イブキが招き入れた部屋には椅子は見当たらなかった。それどころかテーブルまで足が低く、とても椅子が入る程の高さがない。くつろぐといわれてもどうすればいいのか分からず、私達は全員揃って首を傾げていた。


「シノノメではたたみが痛むために、椅子は使わないな。座布団をこの畳の上に敷き、その上に座っているのだ」


 そう説明しつつ、イブキは床……タタミというらしいそれに薄いクッションのようなものを並べていく。椅子は使わず、床に座るというのも経験がない私達は戸惑っていたけれど、何事も挑戦だとザブトンにおずおずと腰を下ろした。

 そうしてザブトンの上に座ってみたけれど……薄い見た目の割に意外と柔らかかった。けれど、こうして床に座るというのが慣れないために、地味に座り方も苦労する。イブキがやっているような、膝を折り曲げて足をたたむような座り方は私達にはバランスが難しくて出来そうにない。

 隣にいるルーザのザブトンに入らない程度に足を曲げて座るしかないか……。座り方まで苦労するなんて、文化の違いって戸惑うことばかりだな。


 しばらく試行錯誤した後に、私達はようやく各々の座り方を見つけられて、その場で料理が来るまでゆっくりすることに。

 疲れがきていた今はこうしているとなんだか落ち着くような気がする。高い椅子に座らないで、みんなと隣り合って低いテーブルを囲むのも新鮮なせいか楽しく感じてきた。


「……で、なんでそいつまでいるんだよ」


 ザブトンに腰を下ろしたルーザはイブキの隣にいる妖精をじとーっと睨みつける。

 その妖精……なぜかついて来ていたモミジさんは頬に手を当て、きょとんと笑う。


「そいつなんてご挨拶やなぁ。ウチがいるのはそんなに不愉快やの?」


「あんなことしておいて、オレが易々と信用するわけないだろ」


 ルーザはぷいっとモミジさんから顔を背ける。さっきのモミジさんが私達を着物の宣伝道具にしようとしていることを、まだルーザは根に持ってしまっているようだ。


「疑り深いなぁ。どうやったらあんたの信用を勝ち取れるん?」


「オレは教えてやるほど親切じゃねえよ。せめてさっきの言葉を撤回することでもしたらどうだ?」


「そういうてもな。ウチかて、稼いでなんぼの商売やし」


 モミジさんは一切表情を変えずに言い切る。

 清々しいまでに商売一筋だ。……それも、この着ている着物を見ればわかるけれど。初めての服だというのに凄く着心地が良いもん、この着物。異国の妖精にまで合う服を作れるなんて技術、そう簡単に身につくものじゃないだろうし。


「ま、ウチらは知り合ったばかりやし、気長にやるとするわ。それにウチがここにいるのは別に簡単な話や」


「簡単な話……というと?」


「イブキに頼んだんよ。着物の貸付代わりにお昼をご馳走してもらうってね。ウチも丁度、お腹空いてたし」


「……と、いうわけだ。構わないだろうか?」


 イブキは私達の顔色を伺ってくる。一応の確認なんだろう。

 もちろん、私達が拒否するわけない。タダで着物を貸してもらっているわけだし、みんなもモミジさんがいることに反対しないだろう。……ルーザは渋々だろうけど。


「着物を貸してもらっているんだから、もちろん大丈夫です」


「うん。人数多い方が楽しいもん!」


「おおきにな。ご一緒させてもらうわ」


 私とエメラの言葉にモミジさんはニコッと笑ってザブトンに座り直す。まだルーザは顔を背けたままだけど、一緒に食事するだけで警戒心もほぐれるだろう。

 あとは料理を待つだけだ。シノノメ料理……どんなものが出てくるんだろう?


 そんな期待と少々の不安が入り混じる心境で、私達はお喋りしながら料理が運ばれてくるのを待った。

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