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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第55話 颯、風の如く(2)

 

「────そこまでだっ!」


「……!」


 諦めかけていたその時、不意に頭上から声が降ってくる。ルーザかと思ったけど違う。若い男の声……。

 その姿を確認する前に、その方向から銀の光が泥棒達に一直線!


「うわっ⁉︎」


 流石の泥棒も、何事かと飛び退く。泥棒の前には、少年のような妖精が。

 淡い水色の妖精だ。尖った狐のような耳を持ち、まだ幼さが残る顔立ちをしている。でも服装は他とは違い、あの特徴的な法衣のような服の上に紐で結びつけた金属の板を付けていて、鎧に近い服装をしていた。


「他人からものを盗むとは言語道断。拙者せっしゃが成敗してくれよう!」


 その少年妖精は、片刃の弧を描く変わった剣を泥棒達に向ける。そんな少年妖精の態度に、泥棒達はみるみるうちに顔を怒りで染めていく。


「なんだと! ガキは引っ込んでろ!」


 泥棒は懐から取り出したらしい、短剣で少年妖精を斬りつけてくる。……でも、スピードは少年妖精が上回った。


「『居合抜き』‼︎」


 まるでそれはカマイタチの如く。太刀筋を視界に一切捉えることが出来ないうちに、少年妖精の剣は泥棒を斬りふしていた。

 防御も満足に出来ないまま、攻撃を正面からまともに食らった泥棒達は力無くその場に崩れていく……。


「このかんざしは其方そなたのものであったか?」


 その光景に呆気にとられていると、その少年妖精が私に手を差し出してきていた。その手のひらにはあの髪飾りが乗っている。倒した時に奪い返してくれていたようだ。


「あ、ありがとうございます……!」


 私は髪飾りを受け取ると、慌てて頭を下げる。そんな私の様子に、少年はクスッと笑った。


「当然のことをしたまでだ。取り返せて良かった」


「……ん? なんだ、もう終わってたのか?」


 その時、先回りを図っていたルーザが来ていた。倒れている泥棒達を見て、ルーザも状況を察したらしく少年にフッと笑いかける。


「お前が倒したのか。ありがとな」


「礼を言われるようなことじゃない。それより、拙者の国の者が迷惑をかけてすまない……」


「いえ、いいんです。油断していた私も悪いですから、……ッ‼︎」


 話していたら、泥棒達が後ろから少年を狙っている光景が視界いっぱいに刺さってきた。少年は気づいていない。知らせる余裕もない……なら!


「『ルミナスレイ』!」


 咄嗟に集めた光を泥棒に向かって放ち、泥棒を吹き飛ばした。さっきの攻撃でダメージを負った泥棒は踏ん張る力もなく、呆気なく吹っ飛んだ。


「ぐあっ!」


 吹っ飛ばされた泥棒は地面をゴロゴロと転がり、私達から数メートル離れる。これでもう背中を襲われることもないだろう。


「チッ、往生際が悪い奴らだな」


 卑怯な真似をした泥棒の態度が気に入らなかったのか、ルーザは泥棒に向かっていく。鎌をギラギラと光らせながら歩いていくその姿は、泥棒から見れば死神のよう。


「よくもオレの仲間に手出ししてくれたな。首と胴体に別れを告げる準備は出来てんだろうな……!」


「ひ、ひいっ……!」


 ギラつかせる鎌を振りかざし、倒れている泥棒の顔の真横に巨大な刃を容赦無く突き刺す。そのルーザの表情ときたら。ニヤッと背筋が凍りつきそうなくらいの不気味な笑みを浮かべている、泥棒以上の悪者顔で。

 うわあ、これは怖い……。


「目障りなんだよ。首を持っていかれたくなかったら、とっとと失せろっ‼︎」


「す、すみませんでしたーーーっ‼︎」


 ルーザの形相にビビりまくった泥棒達はルーザの言葉が終わる前には逃げ出していた。その様子を見届けると、さっきまでの表情が嘘のようにルーザは涼しい顔で戻ってきた。

 ル、ルーザを敵に回さなくて本当に良かったかも……。


「……すまない。命拾いした」


「いえ。助けてもらったのはお互いさまです」


 私が思わず首を振ってそういうと、少年は微笑んだ。もう泥棒のことが解決して、少年は剣をさやに収める。


「それにしても……相当な手練れのようだな。あの魔法はそうでなくては放てない」


「そっちこそ。あの剣は鍛えてないと出来ないです」


「剣ではない。これは刀というのだ」


 少年は笑って私にそう教えてくれた。

 へえ。やっぱり、剣とは違うんだ。確かに造りもかなり異なるし、名前が違うのは当たり前かもしれない。


「……そういえば名乗っていなかったな」


「あ、私はルジェリア。ルージュって呼ばれてます」


「ルヴェルザ。ルーザと呼ばれている」


「拙者は『イブキ』。呼び捨てで構わない。歳が近いようだからな」


 その少年────イブキは私達にまた笑いかける。

 どうやらイブキはサムライ……私達でいう、衛兵のような役目を受け持つ家の生まれらしい。あの刀の技も納得だった。


「だが、危ないな。その異国の服はここでは目立つし、また狙わなかねない」


「そう……だね。どうしようか?」


「服を買う、だろうな。だがどうしろってんだよ」


 確かにそうだ。私達はシノノメに来たばかり。シノノメにある服屋なんか知らないし、ましてや手持ちのお金も足りるかどうか。流石に9人分の服代なんて持っていない……。

 どうにか出来る手立てがないことに、私とルーザは立往生しているような気分に陥ってくる。


「拙者に考えがある。服ならなんとか出来る」


「えっ。本当に?」


「ああ。ひとまず……そちら友人を待たせているのだろう? まずは合流するとしよう」


 イブキの言葉に私とルーザは頷く。

 またトラブルに巻き込まれるのは避けたいし、どうにか出来るのならイブキの提案は有難いことだ。


 私達はまず、残しているみんなのところに戻ることにした。

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