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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第6章 和と東雲の前奏曲
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第54話 舞い散る桜花と共に(2)

 

 エメラのカフェに着いた私達3人は、先に来て待っていてくれたみんなに早速成果を報告する。

 当初の目的であった調べ物は進展がなかったけど、ロバーツさんが船を出してくれるのは大きな知らせだ。そのことと、ロバーツさんが来ていることをみんなに説明すると、その場がわっと盛り上がる。


「じゃあロバーツさん、お城にいるのね!」


「うん。返事の仕方はともかく、姉さんが話を進めてくれて」


 みんな、ロバーツさんが協力してくれることに喜んでいる。調べ物の進展がなかったのは申し訳ないけれど、前に進める手段が出来たのは事実だ。

 お詫びとして買ってきたフルーツもみんなが美味しそうに食べてくれているし、私達はほっとしていた。


「でも他の大精霊に会える可能性は低いんだろ?」


「うん……。この何百年の間に役目が移動したり、居場所がはっきりしなかったりね。オスクは何か知らない?」


 ルーザにそう返しながら、オスクにそう尋ねてみる。

 大精霊のことを今いる私達の中で一番知っているのは大精霊自身────即ちオスクだ。正確な居場所までは無理でも、何かしら情報を持っているんじゃないかと期待したけれど……オスクは首を振る。


「悪いけど、火の大精霊は僕より自分勝手でさ。もう何年も顔を合わせてないし、そもそも会った回数も少ない。そんな状態で探せっていうのは僕でも無理」


「そっか……」


「お前より面倒臭いって、一体どんなヤツなんだよ……」


「さっき話してたじゃん。自分の力を高めるためだとかご立派な思想掲げてあちこちにケンカ吹っかけてやがんの。役目は果たすけど、年単位で行方知れずとかザラなんだ」


 やれやれとばかりに肩をすくめながら告げられた事実に、みんな揃って唖然とする。本で読んだ時から会うにはかなり苦労しそうだとは思ってたけど……実際はそれ以上だった。いつかは会わなくてはならないのに、足取りが掴めるかも不安になってきたような……。

 でも、今はこれから会う満月の大精霊が先だ。ロバーツさんのおかげで行く手段が見つかったから、その準備に取り掛かる必要がある。


「今回は堅物にも来てもらうか。同じ『月』同士、顔あわせないわけにはいかないっしょ」


「あ、そうか。シルヴァートさんにも」


 確かに、シルヴァートさんが同行してくれるのは心強い。『月』繋がりで、満月の大精霊とはシルヴァートさんも関わりが深いようだし、顔馴染みであるシルヴァートさんがいれば満月の大精霊も警戒を解いてくれるかもしれない。


「『滅び』関連のことだし、あいつも拒否権ないだろ。話をつけてくるぐらいならやるけど?」


「じゃあ、シルヴァートのことはお前に任せる。オレらは支度でも始めるか」


「そうだね。また遠出になるし」


 シノノメ公国はシールト公国よりかは離れていないにしても、船旅になることは変わらない。出発前にしっかり準備しておかないと、後々困る筈だ。学校も通わなくてはならないから、という理由で延ばしてもらった残りの日数で全てやってしまわないと。


 ……いつの間にか、こんな大事に発展していた。

 約一ヶ月前────ルーザと出会う前は至って『普通』の、学校に通って、放課後を過ごして、休日で友達と遊んで……という、そんな日常が今では程遠い。

『滅び』の存在を知ってから、私達の生活は大きく変わった。散々な目にあった分、多くの仲間もできたことも事実だけど……失った『普通』はそれ以上なのかもしれない。


 もちろん、覚悟の上だった。シルヴァートさんのいる、氷河山に乗り込む前にオスクに尋ねられたこと……『それに今関われば、お前達はそれから逃れられなくなるぞ。特に、お前達2人はな』、という言葉。

 関わればもう後には引けない、逃れられないことをわかっててやった。まだ私とルーザが()()逃れられない理由はわからないけれど。それでも関わったことでの代償は小さくない筈だ。


 抗うって……なんなんだろう。『滅び』に抗えていたとしても、何かの意志で私達は動かされている気がする。

『滅び』とは別の、もっと大きい存在のような……。


(考えてもわかるわけない……か)


 まだ根本の、私とルーザの関係すらわかっていない以上、考えること自体が無駄なのかもしれない。それでも考えられずにはいられなかった。


 私達って、なんなんだろう……。

 私は妖精。そう思っていた。でも、前にアンブラ公国でレオンに言われた時のように、精霊なのか。そうだとすれば、何故精霊であることを隠さなければならなかったのか。……疑問は尽きない。


「……ージュ。おい、ルージュ!」


「……! あ、ルーザ?」


 考え事にふけっていたその時、不意にルーザの声で私は意識の世界から現実に引き戻された。私がぼっー……としていたのを気にかけてか、ルーザは首を傾げて顔を覗き込んでくる。


「あ、とはなんだよ。随分考え込んでるな?」


「あ、えっと……大したことじゃ……って、隠し事は無しなんだよね」


 ルーザと前に約束した。もう隠すな、と。

 私のあれこれ考えていたことに過ぎないけど、ルーザに関わることも確か。今まで考えていたことを、みんなとカフェで別れた後に話すことに。


 ……内容が内容だ。今の、普段通りの和やかな空気を崩さないためにも。


「……なるほどな。お前が考え込むのも仕方ないか」


「うん……。結局、まだわからないことが多過ぎて」


 カフェを出てみんなと解散してから。私とルーザは屋敷への道を歩きながら、考え事を話していた。さっきの考えと、記憶の世界でのことも。

 ルーザもやはり気になっていたようで、色々模索している。


「あの吸血鬼がそんなこと言っていたとはな。ま、オレも親がいない時点で、血筋に関しては色々怪しいところあるが」


「レオンなりの励ましなんだよ。帰る前にも激励してくれたし。レオンだって『仲間』でしょ?」


「……そうだな」


 私がそういうとルーザはフッと笑ってみせる。

 最初は対峙していたけれど、レオンを仲間として認めたことに変わりない。


「その、レシスってやつの目的が果たされてからでも遅くないだろ。そいつが夢の世界を目指してんなら、オレも顔を合わせるかもしれないからな」


「そうだね。夢の世界に辿り着いたら、話してくれるだろうし」


 ルーザと頷き合う。

 レシスが言っていた……『約束』である夢の世界に辿り着いた時、そこで何か大きなことがあるのは間違いない。


 ────それが、レシスの言っていた『決行』の時なんだろう。






 それから2日後。シノノメ公国に向かう当日。

 ロバーツさんの船に乗り込み、私達は公国へと向かっていた。波に揺られている感触が船から伝わり、いよいよシノノメ公国に行くという実感が湧いてくる。


「あの辺りの海域は最近まで異常に凍っていたとは聞いていたが。それが消えたのはお嬢ちゃん達の仕業だったとはな」


 ロバーツさんが海を見渡しながら呟く。

 ロバーツさんの話によれば、あのシノノメ公国の周りを覆っていた氷は数日前に幻のように消え去ったらしい。それこそ、欠けらの一つくらいまだ残っていてもおかしくない筈なのに、それさえも一つも無くなっていたようで。

 それは、その凍った原因が『滅び』なのだからだろうけど。


「仕業ってなんだよ。まるで僕らがやったみたいな言い方じゃん」


「言葉のアヤさ。そうカリカリすんな、大精霊サマよ」


 口を尖らせるオスクにロバーツさんは笑いながら返す。オスクはあっそ、というと何処かへ飛んで行ってしまった。

 ……前にオスクが言ったように、アンブラ公国にあった結晶がシノノメ公国の周りを凍りつかせていたようだ。水鏡越しでしか見てはいないけれど、あの氷の大きさは相当だった。それが一瞬にして消え去るなんてまずあり得ない。

 繋がっているとはいえ、裏側まで影響を及ぼす『滅び』はやっぱり侮れないな……。


 そして今回はシルヴァートさんも来てくれている。昨日の話の通り、オスクが準備の間に話をつけてくれていた。大精霊が2人もいるとなると心強い。


「……さあーて、見えてくるぜ」


 ロバーツさんが進む先を見据えながら呟く。その視線の先にはうっすらと陸の影が見えてきていた。それが近づいてくると同時に、どんどん大きくなってくるように見えてくる。

 確認するまでもない。あれが……次の目的地であった、シノノメ公国なんだ。


「ん……?」


 その方角から、何か小さいものが飛んでくる。私は気になってそれを捕まえてみた。

 ……小さな花びらだ。薄い桃色で、切り込みが入っているようなハートに近い形。見たことのない花のものだ。


 なんの花なのか確認する前に、そんな花びらは私の肌に同化してしまい、やがて見えなくなっていった……。

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