第53話 いつか来た郷愁よ(2)
「あ、あの! だったら、アプローチを変えてみませんか?」
「アプローチ?」
どうしようかと迷っていたその時、その空気を破るかの如くフリードがそう提案してきた。
その言葉に首を傾げる私とロウェンさんにすかさずフリードは説明する。
「はい。エレメントはいらないかもしれませんけど、命と死の大精霊が残ってますよね? 2人に会うことが近道になり得るんじゃないかと思って」
「……!」
死の大精霊……レシスのことだ。
確かに、ゴッドセプターにはその2人のエレメントをはめる窪みがない。だけど、2人に会えれば他の大精霊の居場所を掴める可能性がある……フリードはそう考えたんだろう。
でも……レシスのこと、言っていいのかな?
私にはまだ抵抗があった。記憶の世界を2人は知らない。説明するには時間もかかるし……なにより、レシスの存在を話してしまっていいのかが。
「ルージュさん、どうかしました?」
「気分が悪いんですか? 顔色が優れないようだけど」
「あ、えと。私は……」
決心がつかない。
命の大精霊のことはまだわからない。それでも、レシスのことを説明するのは他の大精霊を探す手がかりにはなり得るだろう。
でも……私が、説明する私ですらよくわかっていない話を説明することなんてできるのかな……?
「あの、ルジェリアさん。本当に気分が悪いなら言っていいですから」
「え、あっ……だいじょ」
大丈夫だと、ロウェンさんに言いかけたところで私はハッとする。
以前、ルーザがこう言ってくれたんだ……。
────『やり方ならオレが教えてやる。だからもう隠すな』、と。
そうだ……頼っていいんだ。隠しちゃいけない。みんなを、友達を、頼るべきだから。話すのは難しいけれど、一人であれこれ考えるより、みんなの力を借りることでより『真実』に近づけるかもしれない。
一人で抱え込んでいちゃいけないんだよね……ルーザ。この場にはいなくとも、大切な友達の名を呟いて私は意を決した。
「実はね……」
私はぽつりぽつりと記憶の世界のことと、レシスのことについて話し始めた。
私もわからないことも多く、説明するのも一苦労だけどなんとか2人に今まであったことを話していった。突拍子もない話だけに、2人の表情もたちまち驚きに変わっていく。
「そんなことが……⁉︎」
「その、レシスさんが死の大精霊なんですね?」
「はい。あの力は本物だったし、嘘じゃないと思うんです」
「でも、なんで男装をしていたんでしょうかね?」
「うーん……素性を隠すためかな。性別を逆に見せるだけでもかなり違うだろうし」
レシスはデタラメを言う性格でもなさそうだし、何よりあの魔導人形を操る魔力を消し去ったのも、大精霊であるからこそ相応の力を持っていたためだろう。
男装している理由については直接聞いたことはないからわからないけど、『支配者』から逃れるために記憶の世界に行ったことは事実だ。『支配者』が知っている姿のまま、記憶の世界に行っていたら即見つかっていた筈。前回は人形に追い回されたけれど、それまで直接手出してきたことはなかった。最近になって、とうとう正体がバレてしまった……それで『支配者』が私達に、正確にはレシスを連れ戻すために人形をけしかけてきたんだとしたら納得がいく。
「でも、レシスから大精霊について聞くのはレシスの約束を果たしてからになりそうなの。それに、『決行』の時は近いとも言っていたし」
「『決行』って、なんなんだろう?」
「わからないです……。でも何か大きなことだとは思うんです」
ロウェンさんにそう返すと、フリードも頷く。
レシスがそれだけ言うことだ、きっと私達に大きく関わることなんだろう……。あくまで憶測でしかないけれど。
「待ってみるのも悪くないかもしれないね。火の大精霊なら、オスクさんも顔くらいは合わせているかもしれないから水鏡で探すことは可能じゃないかい?」
「あ……確かに」
役目を受け持っている精霊が変わってしまった大地の大精霊ならともかく、火の大精霊ならオスクも、それかシルヴァートさんやニニアンさんも知っているかもしれない。レシスのことも気になるし、本をいくつか借りてみんなに相談してみよう。
「け、結局、皆さんの力を借りることになっちゃいましたね。僕達が調べにきた意味がなかったような」
「はは……。まあ、いいんじゃないかい? 大精霊のことを妖精が少数で調べることが無理があったんだろうし」
フリードもロウェンさんも苦笑い。行き先を決めるために来たというのに、あまりみんなの役に立たなかった気がする。
みんなは気にするな、と言ってくれそうだけど申し訳ないような……。私達で、何か役に立てるようなことができればいいのだけど。
「皆さん、カフェにいるんですよね? お詫びに何かお茶に合うものを買っていきましょうか」
「そうだね。お茶菓子はあるだろうし……果物を探そう」
暗い地下資料室を出て、3人で相談しながら歩いていく。そんな時────前からパタパタッと足音と共に、姉さんが走ってくるのが見えた。
「る、ルージュ、丁度良かったです!」
「あれ、姉さん?」
姉さんは大急ぎで来たようで、ゼエゼエと荒い息をしている。長いドレスにハイヒール、おまけに普段は走らないことも相まって、顔が真っ赤だ。
「だ、大丈夫ですか、クリスタ様?」
「え、ええ。大急ぎで伝えたいことが……」
姉さんは大きく息を吐き、深呼吸をする。すうーっと息をつく音を立てるとようやく話始めた。
「王座の間にお客様がお見えになっているんです。ルージュも喜ぶと思いますよ」
「え、お客様?」
私達がぽかんとしながら聞くと、姉さんは合図するかのようにウインクする。私が喜ぶってことは誰か知り合いなんだろうけど……一体誰が?
訳もわからないまま、とにかくお客様とやらを待たせないために王座の間へ急いだ。
王座の間に、確かに人影がいた。
赤を基調とした立派なコートと、ドクロマークが描かれた大きな帽子。その中の顔の妖精はいかついけれど、頼もしさもある顔つきで……。
「よう、嬢ちゃん。久しぶりってとこか?」
「ろ、ロバーツさん⁉︎」
驚く私にその海賊妖精……ロバーツさんはふかしていた葉巻を指に挟んで、ふてぶてしく笑う。
前にシールト公国でお世話になった時と変わらない、ロバーツさんに驚いたけれど、同時に再会できた嬉しさも込み上げてくる。
「でも、どうしていきなり……」
「いきなりでもねェさ。用があって来た、それだけのことさ。とりあえず、その女王さんに話してもらわなくちゃな」
「ええ、もちろんです」
ロバーツさんに対しての姉さんの態度に私は戸惑う。いつの間にこの2人は知り合いになったんだろう?
「あら、私はあなたと違って社交性がありますからね」
「痛いとこ突くな……。えっと、姉さん。説明してくれない?」
「もちろん。そのために大急ぎで走ってきたのですから」
まだ戸惑いはあるものの、とにかく私達は姉さんとロバーツさんと話始めた。
ロバーツさんがいきなり来たのは、ある提案を私達に持ちかけて来たからだった……。




