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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第5章 交錯への序曲
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第49話 点在する統率者(1)

 

 カーミラを先頭に、オレらは火山の頂上を目指す。

 揺れがさらに酷くなっている。もう爆発寸前と言わんばかりの状況。オレらはとにかく前へ前へと進んでいく。

 休んでいる暇はない。ここで噴火したら間違いなく吹っ飛ぶ────即ち、『死』。当たり前だが誰だって死にたくない。全員で必死に頂上を目指して駆け上がる。

 こんなところで死んでたまるか!


「頂上に着いたわ!」


「……!」


 カーミラにそう告げられて、オレらは足を止める。

 目の前にはぽっかりと穴が開いていて、そこが火口だとわかった。マグマの光が辺りを照らし出して、目を開けていられるのがやっと。そして、


「な、なんだよ、これ……」


 ……目の前の光景にオレらは絶句した。


 目の前にある火口は、溢れんばかりのマグマで満たされていた。まるで生きているかのように渦を巻いて、表面は蛇の如くしなやかに波紋を描く。千切れた炎が所々から吹き上げていて、地獄の一部が這い出してきたんじゃないかと錯覚しそうになるその光景に愕然とした。

 これは噴火しそう、というレベルじゃない。もう噴火は目前に迫ってきているだろう。


「お、おいマジかよ……。ここにいたらマズいんじゃないか?」


「ほ、本当です。まさかここまでとは……巻き込まれる気がしてなりません」


「……あっ! あれ、見て!」


 不意に何かに気付いたらしいルージュがマグマの中央を指差した。

 言われるままにその先に視線を向けてみると、そこには明らかにマグマとは違う物体が鎮座していた。表面はゴツゴツとして、あちこち尖っている岩。そしてその色は闇以上に深く淀んでいて……それが何なのか、正体に辿り着いたところでドラクも「あっ!」と声を上げる。


「間違いない、あの『滅び』の結晶だよ!」


「ハッ、やっぱりここで異変を起こそうとしてやがったな」


 この『滅び』の異常事態が裏側でも影響を及ぼすことはオスクから聞いていた。この結晶が裏側、つまり光の世界でのアンブラ公国の位置に当たる、シノノメ公国でも異変を起こしていたというわけだ。これでシノノメ公国周辺の海が一面凍りついていたのも説明がつく。

 それにしてもあの結晶の大きさ……今まで見てきたものとは桁違いにデカい。マグマに覆われて、半分しかその表面を覗かせていない状態でも、以前の結晶に比べて数倍のサイズはあった。


「レオンを脅した精霊は……いないみたいね」


「一日空けたからな。とっくに場所を変えたんじゃないか?」


「……理由はそれだけじゃないと思う」


 オレが言ったことに対して、ルージュは付け足すように言葉を繋いだ。


「レオンが命令をこなすと思っていたなら、ずっと待っていたか、後でまた接触してきたんじゃないかと思う。だけどそれが一切無いってことは多分、初めから期待していなかったんだよ。レオンのことは捨て駒としか見ていなかったんじゃないかな」


「おのれ……奴は最初から僕がどうなっても良かったというのか……!」


「『滅び』ってのはそんなものだろうよ。ただ対象を滅ぼすだけの……感情なんかない悪魔だ」


 レオンは自分がただ利用されて捨てられたことにかなり腹を立てている。

 それも当然か。脅されて命令を聞くしか選択肢がなかった挙句、最初から期待されずに捨てられたなら誰だって不愉快だ。


 オレはマグマ中央の結晶を見据える。結晶はマグマに覆われていて、その姿が見え隠れしている。まるで自然のバリケードだ。マグマを纏っているせいで、破壊するチャンスが少ない。

 それに、まだ警戒する要素があった。結晶が壊されないようにするために生み出す、守護兵……『ガーディアン』も出てくる可能性がある。あれだけの大きさの結晶だ、『ガーディアン』もそれに伴って厄介そうだ。それは他の仲間も同じことを考えたらしく、緊張しながら結晶から目を離すまいと睨みつけている。


「……いや、今回はガーディアンの心配は無いな」


「えっ。どういうことですか、オスクさん?」


「異変が噴火ならあの結晶は今、この山を噴火させるのにかなりのエネルギーをマグマに注ぎ込んでいる筈だ。山自体がでかいし、流石の『滅び』だって操るのに相当な力を流し込む必要があるだろうし。それに必死で、ガーディアンを生み出す暇なんか無いってこと」


「じゃあ、今回はすぐに壊せるかな?」


「それならいいけど。あれ見てみれば?」


 オスクはマグマを指差す。それは今こうしている間もボコボコと鈍い音を立てて膨張し続けていた。今にも爆発してしまいそうなのが嫌でもわかるくらいに。


「ガーディアンはいない。だけど、結晶にはマグマが覆っているから、真っ先に破壊出来ないようにしている。つまり……このマグマ全てがガーディアンってわけ」


「これ全部が……ガーディアンそのもの……」


 ルージュが緊張したように呟く。

 この溢れんばかりのマグマ全てがガーディアンだとすれば、それは巨大な生命体そのものだ。今いるこの人数でかかっても、大精霊の力を持ってしても、食い止められるとは断言出来ない。

 巨大すぎる、形の無い怪物……目の前のマグマはそんなことでしか言い表せないモノだ。


「おい、オスク。隙間を狙って結晶を破壊するってのは……」


「無理。マグマが結晶の障壁みたいなものだからな。今、術を撃ち込んでも弾かれるっしょ」


「……そうか。そもそもあれ、お前だけでなんとかなるレベルか?」


「さあ? あんなデカブツ、なんとかしろって言うんなら流石に僕一人じゃお手上げだ」


 オスクは軽く両手を広げて、やれやれというポーズをして見せる。だが、その表情には一切諦めの意思は無い。


「お前のことだから、何か考えあるんだろ?」


「当然っしょ。それは『僕一人なら』って話だ。ルージュ、遠写の水鏡。今すぐ出せ!」


「えっ! あ、うん!」


 オスクにそう言われて、ルージュは慌ててカバンをまさぐる。しばらくして、あの大きな銀の杯を取り出した。

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