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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第5章 交錯への序曲
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第48話 反抗の予兆(1)

 

 ……吸血鬼殺し、ヴリトラとの戦闘を終えてしばらくする。

 火山にぽっかりと空いた洞穴を進んでいくと、火山らしく流れたマグマが固まったと思われる、独特な紋様を描いた岩がオレらの四方を囲んでいる。そして、またもやボコボコというマグマの唸る音と共に足元が揺れた。


「うおっと……」


 揺れで身体がぐらりと傾いた。さっきまでも足元がすくわれることはあったものの、今はヴリトラとの戦闘疲れもあって危うく転びそうになる。今も咄嗟に踏ん張って転倒こそ免れたが、ふらふらなことには変わらない。

 そしてそれはオレに限った話ではなく、他の仲間も表情には疲労が見えていた。揺れによって覚束ない足取りがさらに悪くなる。


「少し、休んでいこうか。このままだと頂上に着く前に身体がもたないよ」


「ん、そうだな」


 ルージュの提案に全員頷く。ここで無理をして登っても、帰る時に響く。急がなくてはならないことは確かだが、身体にも気を遣わないといざという時に対応できない。

 オレはその場に腰を下ろす。他もその場に座り込んで、少しでも疲労を回復させようと楽な姿勢をとる。


「ふう……」


 こうして座り込むだけでも楽なものだ。それだけ登山と戦闘に身体を酷使していたことを実感した。


 オレは座ったままの姿勢で辺りをぐるりと見回す。

 隙間から漏れ出した炎の光で溶岩が固まった壁を照らしている。壁には微小の様々な鉱物が混じり合っているようで、壁のあちこちに小さく光が反射してキラキラと輝いていた。溶岩が波立って固まった岩もあることで、もはや自然の芸術作品だ。

 これだけ見れば様になる光景だ。だが、ここは火山という過酷な環境。魔法具を付けていなければ呑気に眺めている暇など無いだろう。それでも色々と疲れている今の状況だと、この景色は少なからず癒しにもなる。


「しっかし、ヴリトラ強かったな……。あんなの幾つになっても倒せる気しないぜ」


「本当です……。結局、倒すことは出来ませんでしたからね。レオンさんがいなかったらどうなっていたか」


 イアもフリードも、ヴリトラのことを思い出してぶるっと身震いした。

 10人がかりでも深手を負わせるのがやっとだった相手だ。あの時、レオンの咄嗟の行動がなければ全滅もあり得た。


「できればもう会いたくないね……。あ、その前にやることあったじゃない!」


「やること?」


 エメラが何かを思いついたようで、聞き返したルージュに頷くとエメラはレオンの方を向く。


「ありがとう、ヴリトラを止めてくれて!」


「……は?」


 いきなりのエメラの礼にレオンは戸惑う。

 状況を理解しきれていないらしい様子のレオンに、エメラは続ける。


「あの時、止めてくれなかったらわたし達やられちゃってたと思うもん。だからありがとう!」


「あれは……あの方法が最善策と思ったまでだ。お前達を怪我させないようにするためじゃない」


「素直じゃないわね〜。そもそも一族を滅ぼすって脅されて屋敷に来た時点で、仲間思いなのは知っていたけれど」


「……うるさい」


 レオンは不機嫌そうにそっぽを向くが、その顔はほんのり赤い。

 照れ隠しが下手な奴だ。その顔でバレバレなものだから、オレらは顔を見合わせて軽く笑う。


「レオンさん、僕からもありがとうございます。助かりました」


「うん。酷いことはされたけど、僕らも大勢で応戦しちゃったし。これでおあいこかな?」


 ロウェンさんもドラクもイアも……次々にレオンに礼を言う。その表情はいつものように笑みを浮かべて、もう疑いと警戒の眼差しはそこにはなかった。

 レオンはそんな仲間達の様子に戸惑う。まだ自分が信用されていないと思っていたらしく、礼を言われるのは想定外だったという表情だ。


「……変な奴らだ。先程までは警戒していておいて」


「いいじゃないの。結局、あなたも受け入れているんだし」


「……」


 カーミラの言葉にレオンは言い返せずに目を背ける。

 レオンはまだ認めているというわけではなさそうだが、それでも仲間達はレオンに気を許している。

 きっかけとなったヴリトラとの戦いは散々だったが、こうしていい機会となっただろう。


 ────そういえば、とオレはふと思い出す。

 ヴリトラを吹っ飛ばした時の、得体の知れない力のことが気にかかった。

 どうしてあんなことになったのか、未だにわからない。自分でも訳が分からずに硬直してしまっていたのだから。

 それに加えて気になることはもう一つ。オスクが言っていたこと。


 ────『……全く、傷つけたら、あいつに説教くらうのは僕だってのに』


 ────『……あいつめ、助太刀が遅いっしょ……。ま、いつものことか』


 ……オスクがここに来てから、たまに口にする『あいつ』という存在。オスクと関係が深い相手というのは言動から察せるが、その人物のことはさっぱりわからないままだ。

 だが、その『あいつ』はオスクが言うことが確かだとすれば、オレらに手を貸したということになる。それが、さっきの得体の知れない力なのか?

 実態がわからない、第三者。それでも手を貸してきたというのなら無視はできない。そいつが一体何者なのか、どうして助けたのがオレなのか。……疑問は尽きない。


 だけど、そのことについて聞くことを拒む自分がいた。理由はわからない。だがそれを聞いたら最後、今の状況を壊しそうな気がして。

 せっかくレオンを受け入れた今の状況、それをオスクに尋ねて台無しにしたくなかった。


「……ん?」


 その時、足元に違和感が。

 ゴゴゴッ……という鈍い音と、振動が伝わってくる。まるで火山が底から唸っているような、そんな音と揺れ。

 そう思ったその刹那────オレらの身体は宙に押し上げられた。無論、座り込んでいて動く筈がないのに、だ。


「うわっ!」


「きゃあっ⁉︎」


 当然、予想外の出来事に全員体勢を崩した。

 浮き上がった身体が地面に叩きつけられて、派手に尻餅をつく。


 いっつ……。ったく、今度はなんなんだ⁉︎

 反射的に頭上を見上げてみれば、岩が崩れるかのような重々しい音と共に、岩の欠けらがパラパラと落ちてくる。山全体が唸っていて、洞穴は悲鳴を上げているかのようだ。


「お、おい。なんかヤバそうだぜ⁉︎」


「くそっ。休憩は仕舞いだ。とっとと登るぞ!」


 反対する奴はいなかった。当然だ、ここの洞穴まで崩れかけようとしている。こんなところで生き埋めなんて冗談でも笑えない。一斉に立ち上がって、洞穴の出口を見据えた。


「こっちよ、急いで!」


 カーミラを先頭にオレらは頂上を一気に目指す。

 切羽詰まっているからだろうか、さっきまでの疲れは嘘のように吹き飛んでいた。とはいえ、安心できないが。

 まだ岩がゴロゴロと唸っている。そのことに緊張を覚えながら、とにかく前へ前へと進んでいった。


 ────進むのに必死で、一人欠けていることにも気づかぬままに。

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