第5話 安らぎのひと時を(2)
エメラの菓子を食べ終えたその後は、メインストリートに行って王都の案内をする。
露店商をのぞいたり、魔法薬を試したり……それはもう色々なことをして、今はルーザの希望で武器屋を見ている最中だ。
「……ふーん。オレがいたところのものとはまた型が違うな」
ルーザは並べてあった武器の一つを持ち上げて、まじまじと見ている。さっきまで見ていたものの時とは違って、興味津々な様子だ。
「へえ。比べてみるのも面白いかもね」
「ルーザのいる世界で腕試しとかしてみてえな」
「武器だとみんな興味あるんだ。納得いかないな〜」
「仕方ねえだろ。エメラの砂糖菓子愛はオレ達には付いて行けねぇんだって」
約一名不服そうだけど、ルーザは楽しんでいるようだ。ルーザが満足しているみたいで良かったと、3人で顔を見合わせながらそう思った。
調べていくうちに、私は影の世界にも興味が湧いていた。ルーザが戻るためにただひたすら調べていた分、もっと知りたい気持ちが高まっていた。ダイヤモンドミラーの向こう側に、一体どんな景色が広がっているのかが。
すぐには無理だろうけど、いつかルーザがいた世界でもこうして3人で色んな場所を散策してみたい。ミラーアイランドとは違う、ルーザが生まれ育った場所の景色や文化にも触れてみたいものだ。
ルーザが満足するのを見計らって、私達は武器屋を後にした。その次は王都を経由して行ける場所を紹介するために、王都の中央部である噴水広場へと向かう。
そこは名前通り十字路の中央に大きくて立派な噴水が設置されている、王都でも見晴らしがいい開けた場所だ。そして、今通ってきた北側の道を含めた、ここから四方に伸びる道から色々な場所へ抜けられるんだ。
「東の通りに行けば観光スポットになっている大きな湖が見られるけど、西の通りは海岸に向かってるの。だからここから右に曲がって真っ直ぐ進めば海に出られるよ」
「海か。そう言われても風景をイメージできないからピンと来ないな」
「ん? ルーザ、海とか行かないのか?」
「行かないじゃなくて、行けないだ。オレの住んでる場所じゃ、山しかないからな。海なんて何年も行ってない」
「そっか。あ、じゃあ、今から泳ぎに行ってみる?」
「……水着なんか持ち合わせてねぇよ」
「え〜、そんなぁ!」
エメラの提案はあっさり却下されてしまい、エメラは大袈裟なくらいしょんぼりした。私達はそんなエメラがおかしくって、顔を見合わせて笑いあった。
だとすると、ルーザのいる国は内陸部なのか。鏡で繋がっているのに全然違うようで、なんだか不思議。
最後に、私達が通っている学校も見せてあげたいということで、それで今回の案内を締めくくることに。
私達の学校は王都郊外どころか、その先の外れにある。ここからじゃ結構距離があるから、帰る時間が遅くならないためにも羽を使って飛んで行った。そして校舎の前で降り立つと、エメラが大きく腕を広げる。
「じゃーん! ここがわたし達の学校だよ!」
「……ボロいな」
「ちょっ、よりによって第一声がそれかよ⁉︎」
「まあ、実際かなり古いからね……。私も最初はちょっとびっくりした」
ルーザの言葉に私も苦笑い。ボロそう……というか、誰が見ても古びた学校だと思う校舎だから。
古い木造の学校はあちこち汚れは目立つし、板を打ち付けて補強してあるところも多い。校庭だって周りにある森の手前の空き地だ。塀なんかないから魔物だってしょっちゅう迷いこんでくる。
「で? なんで王女とあろう者がこんな立地条件最悪な学校に通ってんだよ?」
「ひっでぇ言われよう……」
「あはは……。でも人数も少ないから、人見知りの私でも馴染むことができたし、みんな良くしてくれて。自然に囲まれて居心地も良いの」
「ふーん。ま、本人がいいならいいが」
その後は流石に中にまでは入ってもらうことはできないから、学校の外の周りを案内した。古めかしいけれど、そんな建物にも良さがあるということを知ってもらいたくて。
あらかた見終わったところで空を見上げてみれば、もう夕方で空が鮮やかなオレンジ色に染まっていた。案内したかった場所は全て見せられたし、予定通り今日のところはこれで終わりにすることに。
「どうだった? ルーザ」
「いい気分転換になった。礼を言う」
「良かった! じゃあじゃあ、明日は何する? 今日行ってないとこ、まだいっぱいあるし!」
「いくらなんでも気が早すぎるって」
みんなで笑いながらそんな話をしながら家への道を歩いて行く。
明日も学校あるし、立て続けだと流石に疲れそうだ。ルーザもまだ不慣れだろうし、明後日にまわすことをみんなに提案してみよう。
私がそう提案すると、3人とも了解してくれた。
まだミラーアイランドにはルーザの思い出にも残りそうな場所が沢山ある。急がなくても大丈夫だろうからと。
時間制限はあるけれど……すぐというわけじゃないから。ルーザが帰ってしまっても、友達と呼べる感覚でいたいから……それまでに、ルーザにも楽しんでもらわなくちゃ。
そんな想いを胸に、エメラとイアと別れて、ルーザと共に帰り道を歩いていく。そんな私達を、夕日は寂しげに照らしていた。
……満月まであと六日。




