第44話 狂気を切り裂く者よ・後(3)
「よっしゃ、一気にいくぜ! ロウェンも。合わせてくれ。『エルフレイム』!」
「了解、『ヴァン・オラージュ』!」
そこへ畳みかけるようにしてイアが率先して炎を放ち、そこへロウェンが暴風を送り込む。それによって炎はさらに大きく膨れ上がり、業火と化してレオンに襲いかかった。
「『グロームレイ』!」
「『ヘイルザッシュ』!」
そこへさらにドラクが電撃を、フリードがつららを放って追い討ちをかける。体力が削られたところに怒涛の連続攻撃を浴びせられて、レオンはもうふらふらだった。
「お、おのれ、妖精ごときが調子に乗って! 我にかかればすぐにでも消せるというのに……!」
「妖精だって強いわよ! おかげであたしも助けられたし、こうしてあなたを追い詰めている。降参した方が身のためよ!」
「誰が降参などするか! 我はここで退くわけにはいかないんだ!」
「はん、バカ言え。オレらだってやられたくねえんだよ。力だけで抑えこめると思ったら大間違いだ。そこの大精霊だって、認められるまで必死になって努力したんだ。柄にもないのにな」
「おいコラ! 聞こえてるぞ!」
オレの最後に付け足した一言にオスクは真っ先に食いついた。オスクの抗議を聞き流して、またレオンに攻撃する。
「確かに妖精は吸血鬼や精霊に比べれば一瞬しか生きてない。だけど若いからって見くびれば痛い目にあうよ!」
ルージュも鎌を振るってレオンに確実にダメージを与えていく。人数差もあってレオンの劣勢は目に見えた。
オレもルージュもお互いに使い慣れていない武器だが、普通に身体に馴染んでくれた。瓜二つってのはこういう時、役に立つものだ。
……今ここで決着をつける。ルージュもそう思ったのだろう、オレらは顔を見合わせて頷き合う。ここでとびっきりデカいのをぶつけて、レオンに敗北という二文字を突き付けてやるために。
「えっと……そのやり方でいいんだよね?」
「ああ。オレはお前のを前に見たから知ってる。しくじるなよ?」
「わかってる。操られてみんなを傷つけたこと、ここで取り返さなきゃ!」
ルージュは鎌を構え直し、詠唱を始める。オレもそれに合わせた。そしてオレとルージュは武器を掲げる。
────普段とは真逆でも、絶対やれると信じて。
「『ルミナスレイ』‼︎」
「『カタストロフィ』‼︎」
オレは一点に集中させた光を、ルージュは災厄の如く強力な闇の衝撃波を同時に放った。
それを、カーミラへと送りながら。
「あなたの負けよ、レオン。……『ブラッディ・ファンタズマ』‼︎」
カーミラはアンブラにある霊気を紅い閃光に変えて放つ。
光と闇、そして吸血鬼の力を一つにした攻撃はレオンを吹き飛ばした────
「ぐあ……」
レオンは壁に激しく背中を打ち付け、その場に倒れこんで動かなくなった。
まだ諦めていないようで、なんとか体勢を立て直そうとしているがそれは無理だ。身体を僅かに震わせるだけで立つことも叶わない。当然だ。体力を犠牲にした戦法で、あれだけの攻撃を受けたのだから。
オスクはそんなレオンに近づいて、懐をまさぐる。
「はいはい、ちょっと失礼っと」
「あっ、や、やめろ……! 何をする気だ……!」
「別に簡単な話だって。……っと、あったあった」
オスクはレオンの首から何かを取り上げる。
金のチェーンに、黒い宝石らしきものが通されたペンダント。いや……宝石じゃない。大きさこそ大したことないものの、どんな石にも似ても似つかない質感の、ドス黒い色を写すそれには見覚えがあった。
「オスク、やっぱそれって……」
「ビンゴだ。小さいけど、『滅び』の結晶で間違いない」
オスクはペンダントを指に引っ掛けて、呆れたようにため息をつく。
戦う前、ルージュに耳打ちされた……レオンの首に、見覚えがある黒い結晶があった……と。まさかレオンが『滅び』に関わっていたとは思わず、驚いたものだ。オレに限らず、オスクの言葉を聞いた仲間達も驚愕で目を見開いていた。
……オレはペンダントをじっと見据える。小さいが、その結晶には確かに前にも見たことがある結晶と同じく、ドス黒く淀んだ力を纏わせていた。オスクが感じた妙な力の正体もこれのせいだったのだろう。
オレは項垂れているレオンをキッと睨みつける。
「お前、これをどこで手に入れた?」
「い、言うものか……」
「しらばっくれるわけ? これだけやっておいて、足掻きにしてはタチ悪いけど」
「い、言えるものか! それを言ったらあいつが、あいつが……!」
オスクの言葉にレオンの表情が一気に青ざめる。それだけじゃない。呼吸も過呼吸と思える程に荒くなり、何かに怯えるように頭を抱えた。
明らかに普通ではない怯え方だった。今まで敵だったとはいえ、流石に心配になってくる。
「なんて……言われたのよ、そのペンダントを渡した奴に」
「……我を、僕を殺して、一族も根絶やしにすると。従うしかなかった……」
カーミラの問いにそう返すなり、レオンは膝から崩れ落ちた。
……脅されていた。それが率直な見解だが、それだけじゃないだろう。ただ脅されただけでこんな怯え方をする筈がない。レオンの身に、言葉にするのもはばかられるくらいの出来事があったのだろう。
……ようやく、『滅び』の元凶のことも掴めるかもしれない。レオンにこのペンダントを渡して、ここを襲うように仕向けた奴は、確実に『滅び』を蔓延させている諸悪の根源、又はそれに限りなく近い存在の筈。
そう考えれば、レオンも一種の被害者ということになる。できればここに来るまでに何があったのか詳しく聞き出したいところだが……。
「今は……レオンの治療をしましょう。話はそれからよ」
「……だな」
どのみちここで話の場を設けるわけにはいかない。素直にカーミラの言葉にうなずき、レオンの介抱をすることに。
今のままでは、レオンはまともに受け答えすることもできないだろう。ようやく掴みかけた災いの手掛かりとなるであろう存在を、オレらは放っておく選択肢は無かった。




