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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第5章 交錯への序曲
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第44話 狂気を切り裂く者よ・後(2)

 

 オレはレオンの動向を探っていて、一つわかったことがあった。

 レオンは確かに吸血鬼としての弱点は克服しているかもしれない。だが、同じように戦っているカーミラに比べると息切れが激しいんだ。どう見てもレオンの方が優勢だったにもかかわらず。攻撃に当たっている回数だって、カーミラが格段に多いというのに。

 つまりは体力を犠牲にして弱点を掻き消しているわけか。吸血鬼の体力が元々高いから、今まで気付かなかったんだ。


 持久戦に持ち込めば勝機は確実にある。現にレオンはさっきからカーミラとの戦闘を続けている。レオンの体力が切れるのも時間の問題だ。


「お前ら、一気に攻めるぞ!」


「は、はい!」


「よっしゃ、やってやるぜ!」


 他の仲間もカーミラを邪魔しない程度に魔法で攻撃を加えていく。

 噛み付いたことで戦法を知ったとしても、この数の暴力には流石のレオンも追いつけていない。だがレオンもやられっぱなしのままではなかった。オレらの戦い方を覚えたためか、こっちが放った魔法の軌道を読んで確実に相殺し始める。

 大精霊であるオスクの魔法はともかく、妖精の魔法だと威力が低いこともあってすぐに掻き消されてしまった。


「駄目か……。やっぱり、吸血鬼は強い……!」


「調子に乗るな、雑魚どもが。夜の支配者である吸血鬼に妖精ごときが傷をつけるなんてもってのほかだ。我が闇で掻き消されてしまえ!」


「……ふーん。闇、ねえ」


 ……おもむろに、オレは剣の切っ先をレオンに向けた。

 あいつが魔法を掻き消せるのは得た情報から、特性を知っているからだ。ならそれを外れたことをすればいいだけのこと。


「一つ言ってやる。闇は光があってこそだってな。表裏一体……それがこの世界の理。……だろ?」


「何が言いたい……?」


「闇が濃くなればなるほど、それを照らす光も強くなっていくってことだ。……『セインレイ』!」


「なっ⁉︎」


 オレは出現させた魔法陣から光弾を放つ。レオンは驚きながらもかわしたが、明らかに動揺している。それは他の仲間も同じ。レオンも仲間も、これがルージュの魔法だと知っているから。


「な、何故お前が光の魔法を! それは本来、お前が使うものではないだろ!」


「へえ、よく知ってるじゃねえか。それも仕入れた情報の恩恵か?」


 オレはレオンを小馬鹿にしてニヤッと笑ってみせる。

 ルージュの戦法は出会ってからこれまでずっと隣で見てきたんだ、覚えない方がおかしな話だ。ほぼ見よう見真似だったものの、オレが詠唱しても問題なく使用できた。一か八かの選択だっただけに、オレはこっそり安堵する。


「いいこと教えておいてやるよ。与えられた情報を鵜呑みにしちゃいけない。表面だけに捉われていたら、いつか足元すくわれるぜ?」


「お、おのれ、言わせておけば好き勝手に……! そんな光など、すぐさま掻き消してやる!」


「そうはいくかよ。光ある場所に落ちる闇の恐ろしさもお前は知っておくべきだな。……そうだろ?」


 ふと、オレは後ろを振り返る。オレの視線の先にあるのは、二つの人影。その一つは大きな刃を振りかぶっていた。それも、オレにはよく見慣れた刃を。


「『ディザスター』ッ!」


「ぐあっ!」


 その刃が振り下ろされると同時に黒い衝撃波が放たれ、それは真っ直ぐレオンに向かって飛んでいく。この状況についていけず、呆然としているばかりだったレオンは回避が間に合わずに衝撃波をもろに食らい、派手に吹っ飛ばされることとなった。

 ……こっちも成功したか。たった今放たれた魔法に問題がなかったことを確信し、オレはほくそ笑んだ。


「なかなかやるじゃねえか。……ルージュ」


 その魔法を放った相手にオレは向き直る。

 その相手……ルージュは鎌を振るっていた手を下ろして、はあ、とため息を一つ。


「もう……私、一応怪我人なんだよ、ルーザ。おかげで鎌を振るだけで精一杯だし」


「その割に目立った怪我は見当たらないけどな。治療係が良かったからか?」


「うん! バッチリやっておいたよ!」


 ルージュの隣にいたエメラは自慢気にグッとサムズアップする。そんなエメラに礼代わりに笑みを返し、オレらのところまで来たルージュと共に再び武器を構えた。


「ル、ルージュさん、もう身体は大丈夫なんですか?」


「うん。エメラが頑張ってくれたから。心配してくれてありがとう、フリード」


「なら、さっさと敵をぶっとばすぞ。カーミラ、お前が最前線に行け!」


「わかったわ!」


 カーミラは迷いなくレオンの正面に立った。もうその態度に迷いはなく、姿勢も安定していた。オレらもレオンを追い詰めるべく、隙あらば魔法を撃ち込み、カーミラをできる限り援護する。

 レオンも必死に応戦するが、多方向から休む間もなく攻められることに体力もじわじわと削れていき、限界が徐々に近づいてきているのだろう。最初は押していた筈のカーミラにさえ、今では目に見えて引けを取っていた。


 勝利への道筋が、ようやくはっきりと見えてきた。このままいけば必ず勝てる────!

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