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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第5話 安らぎのひと時を(1)

 

 ルーザの帰る方法を見つけた翌日、私は学校で早速イアとエメラにそのことを報告した。流石にルーザは私達の学校に行くわけにもいかないから、屋敷で一人留守番中だ。

 2人とも、それを聞いて安心したようにホッと息をつく。2人も自分のことのように帰れなくなってしまっていたルーザを心配していたから、解決の糸口が見つかって気が休まったのだろう。


「そっか! 見つかって良かったよ〜」


「ああ、とりあえず一安心だぜ。それで今日から思い出作りのためにここら辺をまわろうってことか」


「うん。帰る方法が分かったんだし、残された日は今まで必死になってた分、存分に楽しんでほしいもの。だから何処かいいところないか、2人に意見もらいたくて」


「まずは近場でいいんじゃない? ちょっとふらっと出かけられるようにもなれるだろうし、わたしのカフェにも来てほしいよ」


 エメラの提案に、私もイアもうなずく。

 確かにそれはいいかもしれない。道もある程度覚えてもらえば、今のような時間が空いてる時に好きに散策できる。ルーザも留守番ばかりしてては退屈しちゃうだろうし、丁度いいな。

 でも問題はルーザがエメラのお菓子が好みに合うか、だけど。ルーザはよくコーヒーを屋敷で飲んでる上に、私が小腹が空いた時用に、と用意してあるクッキーも手を付けた形跡がないから甘いものはあまり好きじゃないようだった。甘いものが大好物なエメラが用意するキャンディなどの甘い砂糖菓子はお気に召さないかもしれない。


「ええ! ルーザもお菓子の良さがわからないの⁉︎」


「逆にあんな甘ったるいもの一ダース一気にたいらげられるのもどうかしてるぜ」


「うん……。どう砂糖を入れたらあんな味になるのか不思議なくらい甘さの塊みたいなもの作ってはパクパク食べてるもんね」


 エメラの信じられないという叫びに、イアが堪らずツッコミを入れる。

 エメラは甘いものなら全般が好物だけど、とりわけキャンディやキャラメルといった砂糖菓子には目がない。お客さんや、私とイアに出してくれるお菓子は普通に美味しいものを作ってくれるのだけど、自分用だと話は別。あり得ないくらい砂糖を入れて、甘さの暴力ともいえる代物を作ってしまうんだ。

 以前、皿いっぱいにあったそんなこの世のものとは思えない甘さを閉じ込めたキャンディを一人で全て平らげてしまって、イアと一緒に呆れたことを思い出した。それで太ったり、虫歯にもならないんだから、別の意味で尊敬する。


 そんなエメラはもちろんというべきか、ルーザに自慢の特製砂糖菓子を振る舞うつもりだったらしい。……断られるのがオチだと思うのだけど。

 とにかく、お菓子のことは一旦置いておいてカフェの後に何処に行くか決めよう。


「王都全体を回るよりも学生がよく使う店がある通りに絞った方がいいかもな。王都っつっても広いし、一気に全部覚えるのは大変だろ」


「そうね! じゃあ場所は……」


 イアもエメラも、ルーザにミラーアイランドを案内することが嬉しいようで、話がどんどん盛り上がっている。

 偶然出会ったことだとしても、友達が増えたことが2人も嬉しいのだろう。私も2人と知り合ったばかりの頃も同じように色々な所を案内してくれたっけ。

 私と出会った頃と変わらない、2人の明るいやり取りに私は思わず笑みがこぼれた。


 そして相談の結果、王都のメインストリート行くことに決めた。名の通り王都の中心、一番大きな通りということもあって、あそこなら色々な店や露店商も並んでいるからルーザの好みに合ったものも見つかるはず、ってことで選んだんだ。

 そうと決まったら私はルーザを呼んでくるために2人とは一旦別れることに。


「じゃああとでね! ルージュ」


「うん、なるべく急ぐよ」


 放課後に2人とひとまず別れてルーザを連れてくる用意をする。2人が一緒に考えてくれた計画だ、遅れるわけにはいかない。


 私は屋敷に戻ると、待っている2人のためにも急いでルーザに相談の報告をした。これから行く場所と、やろうとしていることの大まかな説明。ルーザも少なからず嬉しいようで、表情が先日に比べて和らいでいた。

 昨日までは帰る方法を探すのに必死だったから、その分この王国内を存分に楽しんで欲しい。私はルーザの腕を引いて、早速屋敷の外へと飛び出した。


 まずは2人でエメラとイアが待ってるカフェへと向かう。カフェに着くと、イアも既に到着していた。

 2人が座っているテーブルには、ケーキや、マカロン、マドレーヌにフィナンシェなど……色々な焼き菓子が並べられていた。まるで貴族の御茶会のような雰囲気だ。もちろん、エメラの大好物である特製キャンディもたくさん並んでいる。

 エメラはやっぱりルーザにキャンディを食べてもらいたかったらしく、熱心に勧めてたけど軽くあしらわれてしまっていた。


「も〜、なんでみんなわたしのキャンディ嫌いなの⁉︎」


 エメラが自分のお勧めの菓子を断られてしまったために不機嫌になってしまった。エメラは怒るかのように頬を膨らませてみせながら、じとーっとした視線でルーザを睨む。


「他人の好みを押し付けんなよ。オレにはオレの好みがある」


「それはそうだけどぉ。ルージュも全然食べてくれなくなっちゃっただもん」


「し、仕方ないでしょ。最初のがトラウマになっちゃったんだもの」


 自分のオススメを受け入れてもらえなかったことに、エメラは不満気に頬をぷぅと膨らませる。

 今通っている学校に転校してきたばかりの頃、私もここでお菓子をご馳走してもらったことがある。ただ、興味本位でエメラのキャンディをもらって、その後とんでもない甘さに悶絶してしまって以来、エメラのキャンディに苦手意識を持ってしまってキャンディに手をつけるのはやめてしまったんだ。

 ほんの数ヶ月前の出来事、これも今となってはいい思い出なのかな。


「そう落ち込むなよ。別に全部が気に入らない訳じゃないんだ。コーヒーゼリーは普通に気に入った」


「ホント⁉︎ よかった!」


 ルーザのその一言でエメラの機嫌が一気に直った。怒ったり、喜んだり。表情がコロコロ変わるエメラがおかしくて、思わず笑ってしまう。

 最初の小競り合いはともかく、ルーザもリラックスできているみたいだ。ここ数日間はいきなり見知らぬ場所に放り出されたのと、その後は帰り方を探すばかりで張り詰めていたからいい気分転換になったようで良かった。


 せっかくエメラが用意してくれたんだからと、私もルーザと一緒に焼き菓子を食べてみた。

 それは出来立てのようで、まだほんのり温かい。バターの風味が口いっぱいに広がって、とても美味しかった。

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