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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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第36話 前進と共にある別離(1)

 

 シールト公国の港でオレ、ルーザは仲間と共にロバーツの海賊船を降りていた。

 目的も果たしたことだし、ここに留まる理由が無くなったために、オレらは今日でシールト公国を後にしようとすることに。ほんの二日程度の付き合いだったとしても、別れはやはり寂しいもの。名残惜しさも当然あるのだが……オレらの本業は学生、ここにずっといるわけにはいかない。

 それに、昨日のガーディアンは打ち倒したが、まだ根本的な解決には至ってない。『滅び』との戦いはまだまだこれからなんだ。


 そしてオレらが帰るための船が停泊してある港にはロバーツと数人のクルー、そしてニニアンが帰る前に見送りに来てくれている。ロバーツ達は海賊だから街を出歩いていると衛兵が来てしまうらしく、変装をしてでの見送りだが。


「とうとうお別れか。まあいいさ、絶対に会わないなんてことはねェ。海を渡るならいつでも言ってくれよ、俺達は仲間なんだしな」


「はい、ありがとうございます!」


 ロバーツの言葉にルージュが礼を言い、クルー達もまた来いよ、など言ってくれている。

 なるべく自力で何とかしたいが、オレらはまだ子供。出来ることには限りがあるし……ロバーツの言う通り、いつかまた力を頼らざるを得ない時が来るかもしれない。この世界のためだ、その時は素直に言葉に甘えさせてもらうとしよう。


「すみません。本当は私も同行したいんですが、今回出た被害の後片付けもしなくちゃなので、一緒に行けなくて……本当にごめんなさい!」


「気負うなって。ここの辺りも誰かがいないと不安あるし、その海賊妖精と上手くやってなよ」


「も、もちろんです。大精霊の役を請け負ったからにはお役目をきちんと果たして見せます!」


 ニニアンは同行できないことを申し訳なさそうにぺこぺこと頭を下げていた。

 だが、ニニアン自身も昨日の騒動の後始末や今後の対策など、やらなければいけないことは多い筈。オレらのことを少しでも優先しようとしてくれていることだけありがたいことだ。


 ────これでエレメントを託された大精霊は3人目。まだ半分もいっていないが、ペースとしては順調だろう。

 ルージュが握っている、ゴッドセプターの光がその何よりの証明。ゴッドセプターの中央に添えられたオーブは周りをキラキラと照らし出していて……まさに希望という言葉を体現するかのように、それは神々しいものだった。


「ああ、それと。灰色の嬢ちゃん、手ェ出しな」


「ん、なんだ?」


 突然ロバーツに呼ばれ、戸惑いつつも言われた通りにした。

 するとロバーツはなにやら麻の袋をオレに持たせた。そのボロそうな外見とは真逆に、袋からはかなりの重量を感じる。

 ……その袋には見覚えがあった。その中身を確かめると、そこにはぎっしりとルビーの欠けらが詰まっている。


「おい、ちょっと待て。これって謝礼に渡したやつじゃないか」


 それは覚えていないわけがない。海賊船に乗せてもらう前、クルーに手渡したルビーだ。対価として支払ったものを何故オレらに……。

 訳がわからず混乱していると、すかさずロバーツが口を開く。


「それはお前らで役立てな。俺達のような汚い手に渡っちゃいけねェよ」


「だが……」


「これからもお嬢ちゃん達は危険に自分から飛び込むんだろ? だったら、その薬代にでも使ってくれた方がマシさ。俺たちゃ海の荒くれ者、宝は自分達で見つけるのがセオリーってわけよ」


 ロバーツは当然のように言い切ってガハガハと笑う。まるでこのルビーがちっぽけというように……いや、本当に大したことないと思っているのだろう。あれだけの大人数のクルーを従えるくらいはある、その器のデカさにオレらは驚くばかりだった。

 オレもロバーツにつられてフッと笑みがこぼれる。こんなデカい奴にオレはなれそうにない。ちっぽけな対抗心だが、オレもロバーツの計らいを無駄にしないためだと、麻の袋をギュッと握りしめた。せっかく託してくれたこのルビー、有効に使わせてもらうという意思を示すために。


 ……そして、いよいよオレらが乗って帰る船の出航の時間。船の汽笛が宣言するかのように大きく響き渡る。

 シールトの港に残っているロバーツ達とニニアンは大きく手を振った。


「またいつでも来いよ!」


「どうかお気をつけてーー!」


「はい!」


「色々ありがとうございましたーー!」


 オレらも手を振り返し、ロバーツとニニアンに別れを告げる。

 確かに色々あったが、また仲間も増えた。これは素直に喜ぶべきことだろうな。ニニアンのおかげで『滅び』に対抗出来る手段もまた一つ手に入ったわけだし、進んでいくのみだ。


「……で、その布切れどうしたんだよ、ルージュ?」


 帰り際、ルージュがずっと落ち込んで抱えていた布が気になって思わず尋ねた。

 朝になにやらうなされていたから気がかりだった。そして起きてきたかと思えば、何故かずっとその布切れを大事そうに抱えていたものだから、気にしないわけがない。


「いや、その……色々あって」


「ふーん……?」


 結局、ルージュは詳しく話そうとはせずに疑問が残るばかりだった。

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