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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第4章 記憶の抗争
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第34話 空虚となった記憶(3)

 

「まだ……まだ、終わらせられないんだッ‼︎!」


 魔法をぶつけられる直前、一か八かで私は腕に集中して命令を送った。

 腕はそれに応えたのか……ぎこちないものの、私の意志に従ってあっさり動いた。今の今までピクリとも動かなかったのに、だ。


 ────バチンッ‼︎


「っ!」


 何かが千切れるような音が耳をつんざき、その勢いでフードががばっと脱げた。それと同時に、私の身体はガクッと重力に引っ張られて倒れこみそうになる。

 う、動ける……!


「なっ……。お前、何をした⁉︎」


 あの精霊はかなり驚いている。今の今まで何をしようが動揺を見せなかったにも関わらずだ。

 今まであの術を破られたことがないのだろうか? でも、それは今どうでもいい。術から解放されても、余裕がないことには変わりはないから。


「何もしてない。ただ……諦めてないってだけ!」


 体制を立て直し、剣を再び構える。剣の表面に私の顔が写ってキラッと輝いた。


「あの術を打ち消して、それにあの紅い瞳……。お前、まさか────」


「今度はこっちの番だ!」


 精霊が何か言いかけていたけど、気にしている暇はない。そんなのはあとでいくらでも聞けるんだ、それはこの戦いが終わってから。

 縛られていたおかげで、考える時間が充分以上に貰えた。今はそれを実行するのみ!

 私は精霊に向かっていかず、周りの建物に駆け込んだ。


「なっ……お前、逃げる気か!」


「まさか。この期に及んでそんなことするわけないでしょ!」


 一番近くの民家に入る。入ったと同時に、間髪入れずに『テレポート』を実行し……隣の建物に移る。そこでわざと中にあった花瓶をひっくり返した。

 ガシャンッ、と割れる音が響き渡る。


「そこかっ!」


 精霊がその音を辿って魔法を撃ち込んでくる。だけど、その前に私はまた『テレポート』で他の場所に移った。

 今度は建物の影にある水路。そこで私は石を投げこんで音を立てる。そしてまたどこかに移る。


「チッ、面倒な真似しやがって……」


 精霊の舌打ちが聞こえ、私は上手くいったことを確信して頷く。


 ……私の作戦はこうだ。

 真正面からじゃ敵わないなら、正直にそこに挑まない方がいい。使えるものがあるとすれば、この街だ。『テレポート』を連続して使い、あちこちの建物や道路脇に飛び移り続ける。そこで何か物音を立てて、秒単位で次の行動に移す。

 あちこちに動き回れば、流石の力が強い精霊でも相手の動きが読みづらくなって動揺するはず!


「くそっ、どこだ⁉︎」


 狙い通り、精霊は私が今一体どこにいるかわからなくなってきて、辺りをキョロキョロしている。

 時間稼ぎとしてはこれで完璧。あとはどこから奇襲を仕掛けるか、だけど。手慣れの者なら、自分の急所を突かれるのを一番恐るはず。だから、その場所はかなり警戒しているだろう。そこを突くのはかなり難しい。

 何かそれ以外で意表を突けそうな場所……。どこかにないかな?


「……ッ⁉︎」


 ドカン! と派手な音を立てて目の前で魔法が着弾した。いくら撹乱させても、相手の反応速度は並みのものじゃなかった。

 同じ場所に長居は危険だ。長くなっても、せめて3秒以内で次の行動に移らなきゃ……そう思いつつ、私はまた『テレポート』で別の場所に行く。

 そろそろ奇襲をかけないと、こっちの体力も魔力ももたない。だけど相手が驚く程のあり得なさそうな場所を探すのも、なかなか難しい。


 相手は後ろからの奇襲を一番警戒している筈。だからそこは避けなきゃいけない。なら逆はどうだろうか。背後の逆……一見単純だけど、やってみる価値はあるかもしれない。もう魔力も底を尽きかけている……考えている暇はもう無い!

 そして、私はまた『テレポート』を実行して……精霊の目の前に移動した。


「なっ⁉︎」


 予想通り、精霊は驚いた。いきなり目の前に出てきたのだから、当たり前かもしれない。私の賭けが成功したようだ。

 この至近距離なら、どれだけ強い精霊でも多少は仰け反るはずだ。今しかない!


「『ミーティアライト』ッ‼︎」


 巨大な光を精霊に浴びせる。光は着弾すると放物線を描いて爆発を起こした!


「ぐあっ⁉︎」


「……っ!」


 風圧で私も精霊も吹っ飛ばされた。

 なんとか空中で体制を維持して、着地する。目の前は土煙で包まれていた。


「はあっ……はあっ……」


 やった、の?

 息切れが酷い。立っているだけで精一杯な中で、視線の先を見据えていると……やがて土煙がだんだん引いてきた。精霊はその中で立っている。まだやれる、という感じの表情で。

 駄目、だったのかな……?


 不安に駆られていると……精霊は剣をその場に落とした。


「えっ……」


「……ったく、わかったよ。お前の覚悟」


 精霊はそう言うと皮肉めいた笑みを浮かべた。


「悪かったな。他人と会うなんて久々で無駄に警戒していた。……すまなかった」


「あ、えと。その……」


 精霊が深々と頭を下げて、私は逆に戸惑った。

 どうやら私の気持ちは、敵意がないことは伝わったようだけど。あれだけのことをしておいて、今更謝られてもなあ……。

 ……けど、私もかなりのことをしていたか。ここはお互い様かな。


「ここがなんなのか聞きたいって言ってたな。詫びにそれくらいはするよ」


「あ、ありがとう。……あれ?」


 その精霊に近づこうとしたのに、身体が言うことを聞かない。足元がふわっとして、身体がぐらりと傾いて。

 それと同時に視界が歪んで目の前が暗闇に包まれていく。


「お、おい────」


 私はその声に答えられなかった。

 ……だめ、だ。うごかない。むちゃ、しすぎた……かな……。


 地面の感触を感じた途端、私の意識はブツッと途切れた……。

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