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幻精鏡界録  作者: 月夜瑠璃
第1章 光の旋律
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第4話 帰路へと向かう(1)

 

 昨日決めた通り、私とルーザはある場所を目指して歩いて行った。王都の大通りを抜けると、目的地はすぐにその姿を現わす。

 白を基調としたそれは、所々につんつんとした高くて細い塔が伸びている。彫刻やガラス細工の装飾があちこちに施された、美しさを体現したかのような建物。この国で最も大きく、その力を証明するように建てられた────即ちお城が。

 そう、私が昨日言ったのは王城のことだった。


「……おい、まさかここかよ?」


「うん。まあ資料は多いから。王様の下なら隠される心配ご無用だし」


「いや、そうだとしても、まさか城にまで調べに行くとは思わないだろ……」


 ルーザは王城を前にして、その存在感に圧倒されたように呆気に取られていた。ルーザが帰るための手掛かりを掴むために出かけるとは言っておいたけど、具体的に何処に行くのかは説明してなかったから、余計に驚いている様子だ。

 でも、資料が多いことは嘘じゃない。城なら国を治めるために、国中のありとあらゆる貴重な文献が取り揃えてある。それこそ、図書館にもない情報を何か掴めるかもしれないし、自力ではもうどうにもならない今はここにすがるしかないんだ。


「ま、オレのためなんだから文句は言えないんだが。それで、正面から入ればいいのか?」


「ええっと、実はそれが難しくて。正面から入ってもすんなり通してくれるとは限らなくて……」


「は? お前、王女だろ?」


「それはそうだけど、ちょっと色々あって」


 私は今は屋敷で暮らしている通り、今は城で生活していない。学校に通いやすいのと、城での閉鎖的な生活に嫌気が指していたのが主な理由。

 今日は私が急に決めたことだからと、城に私が来ることを伝えていないんだ。一応、王女である私が連絡無しにいきなり戻ったら衛兵が大騒ぎするのが目に見える。仕事に励む衛兵達に迷惑はかけたくないし……王城の裏からこっそり入ろう。誰にも見つからないためにはそうするしかない。


「王女が家に帰るってのに、泥棒みたく裏口から侵入試みるとか……立場上どうなんだよ」


「それは言わないで!」


 ルーザのごもっともな指摘に耳を塞ぎ、決めたならさっさと行こうと早足で今いる大通りから脇道へと逸れる。そんな私にルーザはやれやれとため息をつきつつも、遅れるまいと素直に後ろを付いてきてくれた。


 そうして脇道から王城の様子を伺ってみたけれど……正面の正門はもちろんのこと、他の小さめの門にも見張りが付いているし、外に面した廊下も衛兵が巡回していた。見張りが厳しいのは当たり前のことなのだけど、やはり正攻法では侵入は無理そうだ。

 ……ここは私だけが知る秘密の入り口を使うしかない。そう計画を変更して、衛兵に見つからないよう茂みに身を隠しながらその秘密の入り口がある場所へと向かう。


「えっと、確かこの辺りに……」


 そして、辿り着いた先。記憶を頼りに私は塀と、その下の植え込みの間の辺りの土を掻き分けていく。

 そう深くはない筈だから、ここまで掘れば……あっ!


「ここだ!」


 手に石とはまた違う硬い感触を感じ、私は手でそれをしっかり掴むと一気に上に引き上げる。その途端、ガコッと何かが外れるような音を立てて、そこに隠されていた穴にも見える通路が姿を現わした。

 私が外に行きたくて、密かに作っておいた脱出口……まだ埋まっていないようで良かった。


「はあ⁉︎ なんだよこれ?」


「えっと、説明すると長くなるんだけど。とにかくついてきて!」


「お、おい!」


 ルーザが制止しようとする声に構わず、私は迷うことなくその穴に入って、掛けてあった縄ばしごを使って降りていく。しばらくどうしようか迷っていたルーザだったけど、どんどん下へと降りていく私を見ていよいよそうするしかないと観念したようで、舌打ちをしながら穴に飛び込んできた。

 はしごを降りれば、やがて通路へと辿り着く。地下に作ったから当然暗い。そこをカンテラ魔法────名の通り、灯りをともすことが出来る魔法で足元と行く先を照らしながら私達は進んでいく。こっそり作ったものとはいえ、石で周囲を補強してあるから、そこまで歩きにくはない筈だ。

 そうしてしばらく進んでいくと、木製の扉が見えてきた。


「ん、なんだこの扉? ゴールってのか」


「うん。開けるよ」


 私が扉を開けた途端、その部屋の照明の光が漏れ出す。

 二人で眩しさに目を細めながら通路を出た。


 目の前には一つの個室。赤い豪華な絨毯が敷かれ、窓際には丁寧な装飾がされた机と椅子が一組。その周りに小さめの本棚と談話用の丸テーブル、そして天蓋付きベッドが。

 ここは城での私の部屋だ。今としては使ってはいないものなのに、部屋には埃一つ落ちていない。掃除をしっかりしてもらっている証拠だ。


「……部屋、か。ここ?」


「城にある私の部屋。こっそり外に出たい時使ったんだ、この通路」


「よくまあバレなかったな……」


 ルーザは呆れながら通路を見る。

 城の入り口付近とこの部屋までは結構距離もある。作るときはバレないか、ひやひやしながら徐々に作っていたものだ。

 とにかく、騒ぎになる前に資料を探そう。


 私達は急いで部屋を出た後に城の資料室へと向かう。

 城の中は色々部屋があり、この時ばかりは初めて来たルーザでさえ興味がありそうにキョロキョロしている。

 王城は普通なら滅多に入れるところではないし、珍しいと思う気持ちもわかる。本当なら色んなところを案内してあげたいけれど、今は目的が先だ。お城の見学はまた今度。


 私はルーザが見失わないよう、後ろに気を遣いながら城の奥へと進んでいく。エントランスを抜け、階段を上がり、通路を何回か曲がる。複雑な道だけに慣れてる私でも迷路に入ってしまったかのように錯覚しそうだ。


「よし、もうすぐ着くよ」


「はっ、普段動いてなきゃこたえそうな道だな……」


「国の重要な資料も置いてあるから。万が一の時盗み出されたりしないようにしてあるの」


「……成る程な」


 私の説明にルーザは納得したように頷いた。

 城の書庫は、国家機密の書物だって当然だけど収められている場所。資料もだけど、城は国の心臓部。万が一、敵に侵入を許してしまった場合にそれらに手を出せないよう、そこへ通じる通路などは敢えて迷路のような設計にされているんだ。

 私も以前はここに住んでいたおかげで多少は慣れているとはいえ、今いる場所をしっかり確認しないと迷ってしまうから注意しつつ進んでいく。そんなこんなでようやく資料室の扉をようやく見据えた、その時。


「あら、何してるんですか、ルージュ」


「「うっ⁉︎」」


 後ろから急に呼びとめられ、ギクッとする。

 二人で恐る恐る振り返ると────そこには妖精が一人、微笑みながら立っていた。

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