イメージは現実に
回復薬を皆に飲んで貰った日から1週間。毎日毎日、ギルドの依頼をせっせとこなした。指定されたモンスターの討伐、アイテムの採取、この2つがほとんどの依頼を占める依頼の中から、公人たちは報酬も割高で、レベルも上がるという理由でモンスターの討伐クエストを積極的にこなしていた。
その結果、レベルもガンガン上がり、ギルドからの評価もガンガン上がったのだった。
そして5人は今、冒険の疲れを癒すためと祝いも兼ねて宿の外に食事に来ていた。
「「「「「かんぱーい!」」」」」
それを合図に5人がジョッキをぶつけ合う。
「それにしても、ここ1週間はかなり濃密だったな~」
「あぁ、確かにな。1日の内に3個も4個もクエストを受けたりしたからなぁ。」
「ふふ、でもそのおかげでギルドカードがランクアップしたじゃない」
清華がそう言ったことで、皆が自分のギルドカードを出して改めて確認する。
カードの縁は貰ったばかりの頃の青色ではなく黄色に変わっていた。これはクエストをこなしたことによって、ギルドからの評価が上がりランクアップしたのだ。
「でもなんだか悪いな。あんまり戦闘してない僕までランクアップしちゃって」
「橘なにを言っている?戦わずとも橘は私たちに貢献しているだろう。いい加減その卑屈な考え方を直せ」
「そうだよ!私だって昨日の冒険で橘くんの錬金したアイテムに助けられたんだよ!」
「そうだぜー、俺も昨日は1人で突っ込みすぎて危なかったのを回復薬に助けられたしな」
「俺も恥ずかしいが、回復薬があるっていう安心感が戦いの支えになってる」
「みんな・・・ありがとう」
そして丁度、狙いすましたかのようなタイミングで料理が運ばれてきた。
「お~、うまそ~」
「竜司全部一人で食べるなよ?」
「はいはい、わかってるって」
そんな二人の軽口を見聞きしながら、公人は手にしていたジョッキに口をつける。
んー、なんだかお酒を飲んでる気分になるな。
一応中身はジュースなのだが場所が酒場ということもあり、入れ物がジョッキになってしまったのだ。
ちなみにだが、この1週間で上がった僕たちのステータスはこうだ。
-----------------------
名前 神代優斗
天職 勇者
レベル 32
STR 920
DEX 830
VIT 800
INT 860
AGI 790
MND 700
スキル
・全属性耐性 ・物理耐性 ・魔法耐性 ・状態異常耐性 ・属性攻撃強化 ・縮地 ・剣術(+片手直剣補正) ・剛腕 ・金剛体(+部分強硬化) ・魔力変換 ・詠唱短縮 ・体術(+スタミナ効率) ・言語理解
-----------------------
名前 岩本竜司
天職 戦士
レベル 30
STR 1053
DEX 230
VIT 986
INT 50
AGI 263
MND 80
スキル
・剛腕(+STR高成長) ・金剛体(+部分強硬化) ・物理耐性 ・体術 ・剣術(+両手直剣補正) ・言語理解
-----------------------
名前 鈴谷凛
天職 剣客
レベル 28
STR 486
DEX 860
VIT 530
INT 215
AGI 1015
MND 160
スキル
・物理耐性 ・剣術(+刀補正) ・武芸百般(+武器切り替え速度上昇) ・縮地(+連続縮地) ・体術(+スタミナ効率) ・暗技 ・言語理解
-----------------------
名前 咲本清華
天職 賢者
レベル 20
STR 163
DEX 290
VIT 214
INT 1000
AGI 134
MND 1000
スキル
・全属性耐性 ・魔法耐性 ・魔力変換(+高速魔力変換) ・詠唱短縮(+高速詠唱) ・魔力吸収 ・魔法強化 ・言語理解
-----------------------
名前 橘公人
天職 錬金術師
レベル 10
STR 38
DEX 52
VIT 40
INT 42
AGI 40
MND 60
スキル
・錬金術(+錬金時間短縮、魔力効率) ・鑑定(+植物鑑定強化) ・言語理解
-----------------------
と、まぁこんな感じだ。
相変わらず、凄い成長率だなこの4人・・・。一部、1000越えしてる項目もあるし・・・。
自分以外の4人の成長率には足元にも及ばない公人だが、ここ最近は錬金によって役に立つ物を作り続けている。それも日に日にレパートリーが増え、定番の回復薬に魔力回復薬、ステータスを一時的に上げる力の飴と守りの飴等を錬金できるようになっていた。もちろん試飲等をするときは清華と一緒に。
それと、最近わかったことだがどうやらモンスターを倒さなくても、錬金することでもレベルは上がるらしい。ステータスペーパーで調べたが、どうやら、レベルを上げるための条件は戦闘だけとは限らないらず、要はその人にとって良い経験になれば本を読んだり、勉強等でもレベルは上がるという事らしい。それはもちろん錬金もである。
しかもどうやら、レベルの上がる経験によって上がるステータスの項目に差が出るようなのだ。天職による補正で影響される部分もあるが、初期ステータスが全て同じ値だった優斗と公人のステータスを見ると分かりやすい。例えば、公人の最近のレベルアップは錬金によるものが多かった。錬金は魔力を消費して行うのでまずMNDが上がりやすくなり、そして次に錬金には細々とした作業が多いので器用さを表すDEXが上がりやすいという具合だ。
「そういえば、鈴谷さん」
「なんだ橘?」
「鈴谷さんのステータスペーパーに暗技っていうのが増えてたよね?あれってどんなスキルなの?」
「あーあれか。なんでも暗器を使用した技が上手くなるみたいだな・・・多分、気分転換に投げナイフを練習していたから増えたんだろう」
「き、気分転換に投げナイフって凛ちゃん・・・」
「い、いやなかなり器用さ、DEXだったか?あれが上がってるから、曲芸まがいのことも出来るのかなっていう興味本位でつい・・・」
「それでも、スキルが身に着くほどやったんだ・・・」
「・・・はい」
ちなみにスキルは経験によって増やすことが出来る。だが基本は生まれ持ったスキル以外は中々身につかないらしいが異世界人の僕らはそんなに苦労しなくても、そこそこ練習やらなんやらすれば身に着くようだ。
それ以外でスキルが身に着くとしたら、そのスキル自体に隠された隠しスキルだろう。例を挙げると剣術のスキルの効果は剣の扱いが上手くなるというものだ。しかし剣といっても様々な大きさや形がある。その様々な種類の中で同じ種類の武器を使い続けるとその武器の種類に補正がかかるようになる。簡単に言えばその武器の扱いが上手くなったということだ。身近なものに例えるとすると野球が上手いといってもそれは投げるのが上手いのか、打つのが上手いのか、という考え方の方がわかりやすいだろう。
それから2時間ほどかけてゆっくりと飲み食いした後、5人はいつもの宿屋に帰って来た。
「それじゃ、皆おやすみ~」
「「「「おやすみ~」」」」
清華が切り出した挨拶で解散となり各自解散となった。
公人が帰ろうとしたその時、不意に公人を呼び止め、小声で耳打ちをする。
「ねえねえ、橘くん。例のあれって、上手くいきそうなの?」
「あぁ、そのことか。魔力も大分上がったからね、今日あたり試してみるつもりだよ」
「ホント?なら、楽しみにしてるね。呼び止めてごめんね!おやすみ!」
「うん、おやすみ」
清華が去っていくのを目で見送り、公人も自分の部屋に帰っていった。
ガチャリ。
公人は扉を閉めたあと、その扉を背を預け、大きく一息つく。
「ふぅ・・・・・・・よし、やるか」
公人はすぐに机や椅子を隅に追いやり始める。その手つきは毎日毎日移動させて錬金をしているのでとてもスムーズだった。
使用するのは、【ドライメタル】【鉄鉱石】【中和剤】【炎石】【活性炭】だ。公人は今夜、錬金で武器を作ろうとしているのだ。
最初の鉱石2つは鍛冶屋のおっさんから買い取ったものだ。特に【ドライメタル】は火属性付与の魔法との相性が良いということから、結構な値がした。
【中和剤】と【活性炭】だがこれは公人自身が錬金によって作ったものだ。【中和剤】は各種薬草をブレンドして作ることが出来る。レシピはどういった【中和剤】を作りたいかによって異なってくるため、定まったレシピはない。【活性炭】は質の良い木材と【火薬草】と呼ばれる、乾燥させて粉々にすると火薬の役割を果たす草を錬金させて作ったものだ。
それにしても、【ドライメタル】は高かったなぁ、火属性との相性が良いからってこれにしたけど・・・これ失敗するとかなり痛いな。
準備が終わり、素材を前にして精神を統一させ魔力を高めていく。錬金で作る物が大掛かりな分、回復薬等とは比べ物にならないほど魔力を消費するからだ。
そして、公人は自分が出来る精一杯の魔力を手に集中させ、錬金を始めた。公人の魔力が素材を包み込み、素材が1つになる。しかし、それは形が定まらない状態で変化が止まってしまう。
魔力が足りてないのか?・・・・いや、そんな感じはいつもの感覚通りなら魔力は足りている・・・と思う。
全力の魔力を使い続けているせいでだんだんと公人の手に力が入らなくなってきた。
くっそ!このままだと素材が無駄になる!
必死に魔力を体から絞り集め、なんとか現状を維持している公人だが、持って後30秒程だった。
歯を食いしばる公人。そろそろ限界で意識を失いそうになってきた。
その時、公人の頭に考え、というほどの物じゃないが疑問がよぎった。
僕はどんな武器を作りたいんだ?
そう考えた瞬間、形を無く、静止しているだけだったその物体がわずかだが、チリっと放電の音を出し、反応を示す。
それを見て、ハッとなり自分にはどんな武器を作ろうとしているかのイメージが欠けていることに公人は気付く。
そういうことか!イメージしろ!僕はどんな武器を作りたい!
公人はまるで自分に問いかけるように、イメージを膨らませていく。
僕は何を望む?
剣を望む
それはどんな剣だ?
長さはいらない、扱いやすい短剣だ
ただの短剣か?
全てを焼き切る、炎の短剣だ
公人はさらに自分を追い詰めるかのように深い深い集中へともぐりこんでいく。まるで自分の内側から剣を取ってくるかのように。
集中しろ!自分のイメージした短剣がここにあると錯覚するぐらい!
公人の集中が極限にまで達した瞬間、形無きそれが激しく光る。
そして、光が収まる。
そこにさっきまであった形無き物は無く、公人の右手には1本の短剣握られていた。
いつも読んでいただきありがとうございます。
誤字、脱字がありましたら報告してもらえると嬉しいです。
これからもよろしくお願いします。