進言そして考慮
玉座の間にいる二人。
一人は玉座に座り、頬杖をつきながらどこか遠くを見つめている。
もう一人は玉座の少し下で跪き、緊張した面持ちで玉座を見上げていた。
「父上、勇者のことですが…」
「…あぁ…何だ?」
目線だけをソランに向け、気力のない返事をする国王。
明らかに今までとは違う国王の態度にソランは言いようのない不安を感じていた。
あれ程まで勇者の事に躍起になっていた国王が…
勇者に煽られ、指を刺され怒り、自分の前で勇者を殺そうとして国王が…
ここまで興味の無いような反応をするのはおかしい。
だが、父上が勇者様の持っていた装備を諦め、勇者様に興味を失い、価値がないと考えたなら、今の反応には説明がつく。
ただ、そうであるとすれば次は間違いなく勇者様を殺すだろう。
私が父上を止める理由も無くなってしまう。
ここで勇者様が言われた通り進言してよいものか…?
不安だが勇者様には何か策があるはず…
「…勇者は異世界に帰ったと国民には発表しましたが、どうでしょう?帰ったと思われた勇者は死んでしまっていた…ということにするのは?理由は…そうですね…異世界へ転移する時に魔力が暴走した。我々は勇者の遺体を偶然見つけ、それを手厚く葬った…」
勇者に言われた通り国王に今後の進言するソラン。続けようとした時、
「そして、その遺体を我々が持っていると国民へ伝える。世界を救った勇者は国民には特別な存在。勇者の遺体を持った我々は国民、いや世界から平和の象徴、特別な加護を受けた存在と見られる………だろうか、ソランよ」
ソランが伝えようとした言葉を先に口にした国王。
それを聞いたソランは国王の鋭い洞察力に驚き、同時に勇者が言った通りの展開に進んでいることに驚く。
「そ…そのとおりでございます父上」
国王は深く息を吸い、静かに息を吐いた。
「良い案ではある。他国も我々の発言を無視出来なくなるだろう。だがな、うるさい奴らは何時までもうるさい奴らだ。魔王がいなくなった今、どの国も腹の探り合いだ。自国を含めての軍備縮小をどの国も提案する。で、お互いを監視しようと提案する。さて、どうなるか?」
問いかけるように話す国王。
「お互い監視をはじめる。軍備を拡大してないか?不穏な動きはないか?監視する。しかしだ、国家間にはその土地、その環境、その資源差から、どうしても拭えない上下関係、強弱関係がある。簡単に言えばその国に対して発言力が強いか弱いかだ。強い国は弱い国に自国が有利な条件を突きつける。弱い国は不利な条件を嫌でもを受けなければならない。万が一、戦争になった時に、勝てる見込みもなく、他国も協力してくれるかわからないからだ。やがて、弱い国は強い国と協力関係になる。協力とは建前だけの言葉だ、場合によっては植民地のようになる」
「父上、話しの流れが読めないのですが…」
「あぁ…少し話しが逸れた。つまり、今現在、発言力の強い国がうるさい国だ。お前の言う通り、勇者の遺体を我々が見つけたと発表するとしよう。うるさい国は必ず我々が勇者を殺したと叫ぶだろう。事実だが肯定はもちろんできない。しかし否定すると、次に国の管理能力を引き合いにだす。事故だったとしてもなぜ異世界に帰るまで見届けなかったのか…と。そうなると我々の立場は急に悪くなる。下手すれば世界中の人々の反感をかうだろう…」
「私の案ではまずいと…?」
「言い訳次第では何とでもなるが…ただ、このままではうるさい国は黙らない。私ならどうするか?私だったら、そのうるさい国で勇者を殺し何らかの形で我々が発見したことにする。そしてその国の者を勇者殺害の犯人に仕立て上げる…出来れば国王と関わりが強い者、なおかつ国王直々の命令で裏工作をする者が良いな。堂々と戦争をできる口実が作れる。他国の反感もかわずにな」
国王は言い終えるとふーっと息を吐いた。