報告は偽らず
「私にしかできない?」
その言葉に少し戸惑い、少し嬉しくなるソラン。
ソランしかできないさ。
今のオレの状況からしても。
立場からしてもな。
「お前があいつを少しでも喰い止めるんだ。
お前が国王側の人間だからこそできる。何にでも言えるが(何かの集まり)っていうのは、外からの脅威には強くても、中からは弱いものさ」
それに人が集団で何かをするとなると…
命令に疑問や不満を持つ奴が少なからず出てくる。
数が増えれば増えるほどその絶対数は増える。
2割ほどは必ず集団の目的とは逆に動く奴がいるものさ。
「だから、あんたが中から叩くのさ。国王に協力しているフリをして、中からゆっくりとゆっくりと…な。というわけで行ってこい」
「わ、わかりました」
やれることはやった。
あとは神頼みというより人頼みだな…
オレが動けねぇのも情けねぇ。
数時間後…
ソランは歩きながら考える。
勇者様はああ言ってくれたが大丈夫だろうか。
私などに…
いや!私は逃げないと誓った。
私は父上の計画に納得はできない!
必ず止めてみせる。
玉座の間への扉に着いたソラン。
扉の前には二人の兵士が立っていた。
兵士達もソランに気付き、姿勢を正す。
いつもなら、私を見れば道を譲るのだが…
「父上に報告がある。通してくれ」
立ち塞がる兵士達は困惑した表情でお互いの顔を見合わせる。
「申し訳ございません、ソラン様。国王様から今日は何人たりとも通すな言われていまして…」
一人の兵士がソランに告げる。
「この後も…か」
他国の物を招いたり、貴族と折り入った話しをするときは人払いをしていたがこんなに長い時間、人を入れないのは初めてだ。
ソランは顎に手をあて考える。
「玉座の間に誰か居るのか?」
「いえ、国王様だけだと思われますが…」
「なら構わない。通してくれ。心配するな、責任は私が持つ」
「わ、わかりました」
戸惑いながらも兵士達は扉の前から離れた。
玉座の間に入った直後、言いようのない雰囲気をソランは感じた。
なんだ?
寒気が…
ソランの30mくらい先、三段程上った所にある玉座。
その玉座に国王が座っていた。
ソランは国王のもとへ歩みよる。
国王は玉座に頬杖をつき、ソランの存在など気にしないかのようにただ前を見ていた。
目の下には隈ができ、余計な頬肉が落ち、白かった肌が焼けたのか少しだけ黒くなっていた。
あれは父上か?
昨日会った時より窶れて見える。
まるで、別人のよう…
ソランは段の前で立ち止まり、玉座を見上げた後、下を向き跪いた。
「ご報告申し上げます。勇者から装備の一つ、盾の場所を聞き出せました」
疑われないよう堂々と振舞うソラン。
「……そうか、顔を上げよ」
顔を上げたソランを見ることもなく、国王はソランの報告にまるで興味がないかのように前を向いたままだった。
少しの間沈黙が流れる…
跪き国王を見上げるソラン。
頬づえを付き前を見る国王。
「我が息子ソラン…か」
そう呟いたあと視線だけをソランへ移し見下ろす国王。
目が合った瞬間ソランは耐え難い恐怖に襲われた。
な、何だ?
この威圧感は…
さっきと一緒の感覚だ…
目を逸らしたいのに恐怖で首が動かない!
目も閉じれない…!
鼓動が早くなり
呼吸は乱れ、
額に嫌な汗が流れる。
「……れる………とはな。良い目をしている。で?
そのありかとは?」
「はっ、はい!」
国王の言葉で我にかえるソラン。
どれくらい時間が経った?
父上は何を言っていた?
取り敢えず、落ち着いて呼吸を整えなければ…
「こっ、ここから西にある湖に隠したようです!」
勇者の指示どおり装備のありかを伝えたソラン。
「ほぉ…あの底なし沼か…勇者め、考えたな」
「いえ!沼ではなく…」
「良くやったソランよ褒めてつかわす。そうか…あそこがあるか…」
どういうことだ?
沼?
勇者様も沼など言っていなかった。
色々と疑問が残るが…
なぜか、父上が楽しそうに見えるのは気のせいか?