小さな覚悟
勇者は地下牢へ閉じ込められてから現在に至るまでをソランへ話した。
「………ということだ。オレの思ったとおりなら、近いうち他国との戦争になるはずだ」
国王の発言から勇者が導き出した考えをソランへ伝える。
「そんな…世界は平和になるはずでは…」
「今のところはな…この後何かしでかそうとする奴がいない限りは平和は続くさ。その何かしそうな奴が今の国王さ」
この反応だと、
ソラン王子は何も聞かされていないな…
うわべだけの綺麗ごとばかり教えられたのか。
息子が危険にさらされることを避けてのことか?
…ないな。
むしろ息子を信じていない、と取るべきか。
では、なぜ今日この場に呼んだのか?
息子の反応を見るためだろう。
使えるか使えないか。
で、王子は自分の気持ちを整理できずとも、
国王から見れば良い反応を示した。
そして使える駒として判断した国王はソラン王子にオレを任せた。
さて、だとするとそれがオレにどう転ぶかだ…
「父上を止めるにはどうすれば…?」
まぁ、まずそう考えるよな。
たが、もう遅いんだよ。
遅くはないが、あいつの行動が早すぎる。
ただの馬鹿じゃない。
魔王という脅威がなくなり、今はどこもお祭り騒ぎだ。その中で真っ先にオレを捕まえ、
自らの計画を始動した。
あいつからすれば、他国の国王など平和ボケした奴らくらいにしか思わないだろう。
出し抜くのは最も容易い。
「止まるわけないね。例えあんたが止めようとしたとしても止まらないね。おそらく平気であんたに手を掛けるんじゃない?」
「父上が…⁉︎」
あいつには親も子も関係ないだろう。
自分か自分以外か。
使えるか使えないかだ。
「皮肉なもんだ。世界を救ったら世界が危なくなった、オレの命まで危なくなった。しかも魔王が存在した時より酷くなりそうだしな」
「ひ、酷くなるとは?」
「今までは魔物が国や村を襲っていたのが、人が襲うようになるだけだ。対魔物が対人になる。だがそれが問題で人が人を恨み、人が人を殺す。人の恨みっていうのは中々消えない。例え争いが終わってもな…」
「そんな…私はどうすれば…」
何もできねぇさ。
出来ねぇことやるって言って、戸惑うやつに。
自分の親が何やろうとしてるか知らなかったやつに。
巻き込まれてから事の重大さに気づくやつに…
いや…待て……
こいつならいけるか?むしろソランしか…
ほぼ賭けだが、やるしかないか。
「あんた、本当に国王を止めたいのだな?」
「止められるなら!」
「そんな覚悟あるのか?」
「もう……逃げたくありません!」
良い目だ。
「なら何も言わず、聞かずに剣を持ってこい」
「…!」
すぐに地下牢をでたソラン。
オレもヤキがまわったか?
敵の息子に希望を見いだすなんてな…
「……持って…きました」
「…そうか。じゃあ、それでオレの左太腿を思い切り突き刺せ」
「なっ!?何を言って…」
「突き刺すだけだ。よほど運が悪くない限り死ぬことはない。で、刺したまま手を離せば良い」
「いや、傷付けるのはさすがに…」
「また、逃げ口上っすか?リスクを負いくないもんねぇ。で、またどうすれば良いと嘆く。で同じ繰り返し。楽だね〜王子って」
「だけどさぁ…さっきお前の言ってた覚悟は
この程度なのか!!?」
勇者の声が地下牢に響く。
まぁ、そんなもんか…
やっぱり、ヤキが…
「逃げない!」
勇者よりも大きな声をあげたソランは、
剣を抜き、腰を少し落として半身の構えをとった。
そして剣先を勇者の太腿に向ける。
「良いねぇ〜。喰らったらとっても痛そうだ」
勇者がそう言った後、叫び声が地下牢に響いた。