イザナイ
ゲーム開発のストーリー作りのために、暇潰し、というかプログラミング飽きたときに、イメージを膨らませるためボチボチ書きます。飽き性なんで放置する可能性大です。が、継続して読んでいただけると涙出します。もし、ゲーム完成したら遊んでやってください。
「…スー…スー…」
都内のとある高校で、秋風を受けながらある青年が机に伏せて気持ちよく寝ている。
彼の名は氷室玄理。高校三年。小柄で眼鏡をかけた理系男子である。顔は整っているが特にイケメンというわけではなく、髪型も寝癖率高めの地味の象徴。テニス部に所属しているが、運動不足を解消するためで、毎日休まず練習しているため本気でやればそこそこ上手いはずなに、遊び半分で試合もやってしまうため、試合では成果は出せていない。もちろん彼女なんているわけがなく、学校では男子と戯れている。
そんな彼はほぼ毎日寝不足。本人曰く、ゲームをやっているから。そのため、授業は寝ているのが常である。三年になってもこの調子なので、春は教師も注意していたが、一ヶ月ほどでしなくなった。彼の成績は勉強時間に依存しないと、教師の長年の経験から判断したのだろう。それほど彼は成績が良いのだ、理系科目に限るのだが…。
この高校は、いわゆる自称進学校である。夏休勉強モードに切り替わっているクラスもある。秋になった今では全部のクラスがその雰囲気を纏っている。このクラスも例外ではないが、彼だけがまったりしている。本人曰く、理系科目だけで私立は受かるから。教師も呆れていると同時に認めざるを得ないのが現状。まことに困った問題児である。ただ、その堂々とした自信過剰さからか、彼のことが気になる女子も少なからずいるらしい。
そのなかの一人、水野千代は玄理と同じクラスの口数の少ないとても小柄な少女である。気になる、と言ってもただ気になるだけで、特別な感情がある訳ではない。まぁそれは彼女に限らず、ほとんどの玄理のことが気になる女子において言えることだが。
彼女の家は剣道の名門である。祖父と父が全日本で注目を集めていたような人物で、今では大会の役員などもしている。彼女も学校では剣道部に所属していて、なんと高校の全国大会で優勝を納めた。段位はもちろんその年齢で取れる限界の三段。彼女は戦いになると性格が変わる、と部員たちは何かに怯えながら言う。
性格はとにかく真面目で、成績もかなり良い隠れ優等生。剣道を本気でやっているにも関わらず、学年一桁キープは彼女の義務であるかのように、欠かさず勉強している。私立大学なら剣道の腕で入学出来るが、進路希望は国立大学である。大学では心理学を勉強したいらしい。剣道で読み合いをすることにハマって、それから興味が湧いたと言う。
(氷室くん、なんであんなに余裕なんだろ...)
勉強しない玄理に、苛立ちを覚え始めた千代であった。
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その頃。
高校から少し離れたビルに、二十歳ほどの女性がいた。
「目標確認、現在授業中~」
その女性は耳に手を当てながら呟いた。
俗に念話と呼ばれるものだ。
『了解じゃ。様子見をしたのち、見込みがあれば捕獲を』
「手段は~?」
『はぁ、好きにせぃ』
「承知しました~」
女性は目を瞑り、わずかに口角を上げた。
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放課後。
「全員素振り始め!」
千代は学校の剣道場に部活動を覗きにきていた。
もう引退したが、少し前までは所属していた剣道部。ふと寄ってみたくなったのである。
多くの部員がいる剣道部で、彼女は部長を務めていた。毎日ほぼ同じ練習メニューを部員に指示し、指導していた。
学校の顧問はというと、剣道未経験の形だけの先生で、練習は千代に任せっきりだったのだ。
千代は家に帰ってから祖父にしごかれるので、当時の彼女はこの「緩い」部活動が心地よかった。部員達はきつい部活と口をそろえて言うのだが。
彼女が見学していると、突然、背筋を硬直させた。この感じはかつて祖父に学んだことがある。「殺気」だ。剣道で高段者の試合になると、必ず剣や技の前に、気の駆け引きが行われている。自宅の剣道場で祖父に見せられた殺気は凄まじく、対峙していた千代は腰が抜けるほどだった。しかし今のはそれの比ではない。
殺気を感じたのは一瞬だった。だが、まだ体が動かない。
千代は、目を閉じ自身を閉じ込めた。
殺気を受けたとき、対応策はいくつかある。その場から逃げる、更なる殺気で跳ね返す、自己を集中させる、気合いで無視する。その中で彼女がやっているのは、自己を集中させる、というもの。一度殺気から目を背け、自己しかいない空間に閉じこもり、自信を保つという方法である。
千代は集中し終わるとカッと目を見開き周囲を目渡すが、殺気の主は見つけられなかった。