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かまどの嫁  作者: 紫 はなな
こぼれ萩
14/120

四‐なつみ燗

 三日に一度のかまど休みは、はじまりから事と所、異なる。


「おはようございます、奥方様」


 曙の頃になると御用人ラクの太く力強い声が広い御寝所に轟く。そう、広い広い東の院の御寝所。面積で言うと一畳一間のかまどから三十畳の板間へ移り、米や砂糖ではなく小花柄の几帳で囲われた御帳台(みちょうだい)で、炭ではなくお香の薫りに包まれながら、土間の煤土ではなくふかふかのかい巻きを纏い、鹿の子は目を覚ます。

 

「あつい……はっ! またやぁああっ」


 初秋言うても残暑ど真ん中の寝苦しい夜。縁側にて夜衣一枚で涼んでいたはずが、朝になったらかい巻きを着て寝ている。夜な夜な幼馴染みに無防備な寝顔を晒し、尚且つ赤子みたいに抱っこで運ばれ着せられているかと思うと、顔から火吹くほど恥ずかしい。言わずもがな、かい巻きの中は蒸し風呂。寝汗に冷や汗も混じりぼとぼと。


「湯殿は整っておりますので」

「ぇえっ、ええよっ」

「お務めの前に汗をお流しください」

「お務めはなぁああああーいぃいいい」


 まずは寝起きに小荷物にされ、五人入れる広い湯殿へ放り込まれる。からすの行水で出ると、脱衣所ではなんとも艶やかな着物が棚一杯に並べられている。鹿の子はそれらを手際よく隅へ重ね、今日こそはと実家でよく着ていた着物を素早く身にまとった。

 今日こそはとは、ラクの手伝いである。

 ラクは東西南北あちこちへ用向き、朝から晩までこき使われているのに、東の院へ帰ってきても鹿の子の世話で休む暇がない。自分の世話くらい自分でしようと動くが、ラクが先々でよく気を利かすので、指の一本も出ずに鹿の子はいつの間にやら寝かされている。

 朝だって、今日こそは今日こそはと襷を掛け勢いよく出陣するも、鹿の子が湯殿に居る寸の間に掃除も洗濯もみな終わっているのだ。

 終いには喉が渇いたでしょうと、ひや水を盆で出される。


「──ぷはぁっ」

「はい、おかわり」

「ぅ」


 ラクがみなに必要とされる理由はわかる。しかし幼馴染みのラクにここまで世話されるのは、女としてどうなんやろかと茶碗を睨んだ。底に微かに沈む白砂糖──ラクが作るひや水には舌に残らない程度にほんの少し、糖堂の砂糖が溶かされている。水だけにようわかる、実家の味。

 懐かしみながらひや水を味わう鹿の子の顔を、ラクは憂いを含んだ目で見守っていた。


「今日は旦那様とお出掛けなんですから、好きな着物をお召しになったらええのに」

「うん……でも、あんな高そうな着物汚されへんし、町歩くなら動きやすい方がいいでしょう」


 東の院にある着物は多種多様。花菱に染め上げられた単衣から、季節の花があしらわれた織物、袿は金襴、銀襴。背には小御門の家紋が一紋、手縫いされている。特注品は明らかで、どれも一枚につき鹿の子の着物二十枚は買える代物だ。

 だからといって気後れしているわけではない。興味は深々、暇さえあれば丁寧に織られた衣裳を広げ、広げては畳み、ほぅと嘆声をあげている。だが先妻の東の方が着ていた着物やと思うと──未だ、袖は通せずにいた。


「そういえば、昨日の十五夜に西の院の御用人が消えたそうで」

「神隠し?」

「境内は広いんですから、独りでは出歩かんようにしてくださいよ」

「あい」


 見えなくとも仲の良い妖ししか知らない鹿の子には、とても信じられない事件であった。この世には良い妖しがいれば悪い妖しがいることくらい、なんとなくわかるが、それにしたって絵巻の中でのお噺。それもこの神聖なる境内で神隠しとは。西の御用人は使い走りに嫌気がさし、逃げ出していったんではなかろうか。

 消えた御用人には気の毒だが、今の鹿の子は神隠しよりも、ラクのよそよそしいしゃべり方が気になる。ラクは東の院で鹿の子と二人きりになった時だけ、こうして敬語を使う。使うにしてもどちらかに統一してもらわないと、一向に慣れやしない。

 むず痒さをひや水で飲み下し、茶碗のなかに残った砂糖を家鳴りがきれいに舐めとる頃。


「あっ、久助さん!」


 東の院の門の下に美しい影が落ちた。

 ちがうちがう、と慌ててひき止めようとするラクへ茶碗を押しつけ、ぺたぺたとわらじで駆け寄る。


「おはようございます、鹿の子さん」

「おはようございます、久助さん! 昨日は手伝っていただいて、ほんまにありがとうございました」

「…………はぁ」

「夕拝の後は、旦那様といらっしゃったんですか? 久助さんのお団子、小鬼さんが食べてしまいましたよ」

「すみませんねぇ、私の配慮が足りず」

「今日帰ってきたら、何か作りますね」

「伝えておきます」

「それにしても、旦那様の用事て何でしょうね。陽が暮れる前には帰れるでしょうか」

「鹿の子さん、わざとですか?」

「久助さんも一緒やったらいいのに」

「……もう、いいです。久助で」


 鹿の子が顎を上げて喋りかけていた公達が久助ではなく旦那様御本人だと気付くのは、小御門家の外堀を抜け、橋をふたつ渡った辺りであった。




 *




「すんまへん……まさか旦那様直々に邸まで迎えに来ていただけるとは、その……思わなくて。お召し物も、いつもの礼服ではないし」


 今日というお休みは、旦那様とのお出掛け。

 家が遠退き街が近付くにつれ、肝心の旦那様が現れないことに疑念を抱いた鹿の子。隣に歩く公達をよくよく見てみれば、不機嫌を貼り付けたようなはんにゃ顔ではないか。

 たらたらと言い訳を並べても、自分が放った失礼極まりない言葉がよみがえるだけ。はんにゃ顔は治らない。このままでは旦那様のせっかくのお休みを台無しにしてしまう。鹿の子は自責に明け暮れた。

 旦那様の今日のお召し物は、久助さんがいつも着ているような染め物の小袖袴。ほんまなら西の方と歩きたいやろなぁとぼんやり、初夜にみた美女を思い浮かべる。西の方は身重のため、旦那様に従うことができない。あの御方と御一緒なら、きっと綺羅びやかな衣裳をお選びになる。平々たる鹿の子模様の絞り染などではなく──。

 

「……鹿の子?」


 月明は顔をひきつらせたまま、鹿の子へやわらかく声をかけた。


「なにも私の用事に付き合わせようと、あなたを連れ出したわけではありません。今日は鹿の子さんに風成の街をご案内しようと思いましてね」

「わたしに……?」

「街を歩くのに礼服では目立つでしょう。それにあなたこそ、小御門の衣裳を着ていないではないですか」

「そ、それは」

「まさか前妻のお下がりだとでも? 東の院にある衣裳はすべて、私があなたのために誂えたものですよ」

「そうやったんですか。わたし、てっきり……」


 東の院にある衣裳は、小さな鹿の子には一回り大きい。仕立て直せば着れないこともないが、それにしたって鹿の子には大柄である。爛漫に咲いた桔梗は、胸元まで届いてしまう。豪華な刺繍に顔が埋もれてしまいそうだ。


「まあ、そう思われても仕方ないですがね。あなたのことをよく知りもせず、選びましたから」


 ああ、やっぱり旦那様はわたしにご不満で、お怒りでいらっしゃる。鹿の子は小さい体をさらに縮めた。

 月明はといえば、何故こんなに卑屈な言葉を並び立てているのだと、自身を省みた。周りを欺いてまでとった休暇、利益がなければ主上のお守りに置いてきた、久助が憐れである。側室との時間に利益を見出だそうとするあざとさに、またうんざりとした。

 すっかり畏れ入り目も合わせぬ側室にあぐねた月明は、繁華街へ行き着く間ももてず、ある提案を取り上げる。


「あなたを知るためにも、少し昔話をしましょうか」


 そうして入ったのが立場茶屋(たてばちゃや)、なつみ(かん)である。



 その茶屋は小御門下と呼ばれる街道筋に建つ宿場に隣接しており、店先に並んだ箱椅子には人足が駕籠や馬を止めてまで腰を詰め合っている。みな同じように頬をふくらませながら、まるっこくて美味そうなものを、串に刺して食べて。近付いてみれば、どうやら芋の煮っ転がしのようだ。焦げる手前までよう煮詰めている、照り照りの里芋。みんなこれが目当てらしい、そこらじゅうで「いも、いも」と口を縦にして手をあげている。いい味醂を使っているのだろう、暖簾を潜る際、新米を炊いたような、まったりとした甘い風が漂った。

 よくある掛け茶屋かと思い内へ入れば畳が敷かれ、百席はあるような座敷がひろがっている。それもまだ陽は昇りきってないというのに、埋まりかけていた。

 小さい頃に旅路で何度か立場茶屋に立ち寄ったことはあるが、これほど繁盛した店に入ったのは初めてのこと、鹿の子はほぅと息をのむ。

 忙しなく駆け回る女将に、月明が軽く手を振った。人受けがよさそうな三十路ほどの、こざっぱりとした女である。


「あら……っ月明、こんな昼日中に珍し──あらあらあらあら? 今日は御一人でも馬連れでもない」

「いいから、いつもの」


 ぐいぐい寄ってくる女将を手の甲で追い払う。それでも女将は茶々をいれようとするが、他の客に袖をひかれ奥へと消えてしまった。月明もまた迷いなく角の席を選び、特等席と言わんばかりに膝を崩した。

 鹿の子は意外だった。国の頂きに居る御方が、家からたいして離れていないこの茶屋で、平民とまじり食事をするやなんて。それも常連であるようやし、あの女将だって名を呼び捨てにさせる、親しい仲であることは明らかだ。

 月明は鹿の子の心中を見透かしたように語り始めた。 


「狐の飯は味気がないと思いませんか」

「きつね?」

「お稲荷さまの御膳のことですよ」

「とんでもない。わたしには、凄く美味しく感じます」

「あなたは一日体を動かしていますからね、何でも美味しく感じるでしょう。しかしね、言うなら真心がないんですよ、まごころが」

「まごころ……」

「ここの食べたらわかります」


 そう言うてる間にも、小鉢にのったおばんざいが次々と並べられていく。きんぴら蓮根に、菊菜の煮浸し。ごまめに肥った鰯としょうが、みんなが食べている里芋の煮っ転がしは串刺しのまま大皿にのって。最後にほい、ほい、と手前に置かれたのが、つやつや若葉色のえんどう豆がたっぷり散りばめられた、ほかほかの豆ごはん。

 月明が前のめりに袖をまくる。


「これ、これ」


 右手で箸は取れたが、茶碗は女将に奪われた。


「紹介が先!」


 後ろで客が呼んでいるが、今度は女将がしっ、しっと手を振った。渋々月明が口を割る。


「こちらは鹿の子さん。東の側室です」

「まあまあまあまあまあっ! これはこれは奥方様!」

「そしてこの声が大きいひとがなつみ燗の女将、夏海(なつみ)です」

「あんたが奥方連れて外出歩くやなんて、雨でも降るん違う!」

「飯は美味いですが、酒は不味いです。だから夏でも燗酒しか出しません。だからなつみ燗」

「人聞き悪いこと言わんといてっ、まあほんまのことやけど!」


 酒代まで手が回らんねんと、隣の客の背中をばしばし叩く。その後ろ手から「不味い酒でもいいから一燗くれ」と、せがまれ女将は茶碗もったまま消えようとするものだから、月明は帯を掴んでまで茶碗もった手を引き戻した。

 

「とにかく、食べてみてください」

「は、はい」


 すっかり及び腰の鹿の子。

 なにやら胸がいっぱいでお腹は空いてないけれど、芋の煮っ転がしは気になる。月明が茶碗へ箸を入れる隙に、えいっと串を拾い、まるごと口に含んだ。


「────っ!」


 なんや、これ。

 里芋違う。いや、里芋やけど里芋ではない。一度濾して、また丸めている? それほどつるんとした、舌触りだ。

 揚げているのだろう、油のうす膜を歯で破ると、とろんと里芋が舌にひろがって、甘辛いたれが絡む。食べなれているはずのこのたれがまた、違う。味醂が焦がし醤油の旨味をひきたてながら、なんとも言えない、まろみを出している。菓子で例えるなら、そう──よう炭焼きした、みたらし団子。


「おいしい────っ!」

「でしょう」


 そう短く返し、月明はまた茶碗に箸を入れる。よく見ていると、おばんざいをちょこちょこつまみながら口へ流し込んでいるのは、ほとんど豆ごはんだ。偏ったその食べ方に、鹿の子は思わずにやついてしまった。


「旦那様は、豆がお好きなんですね」

「ええ、特に青い豆がね」

「ふふっ」


 倣って口へ入れればなるほど、旬は終わりのはずやのに豆は歯に気持ちいいほどぷちぷちと弾け、さっぱりとした塩気が芋の甘味を消してくれる。これならいくらでも味濃いおかずが食べられそうだ。

 夢中になって鹿の子が口を動かしていると、月明は青い豆をねたに、淡い思い出を掘り出してきた。


「覚えていますか。あなたが初めて私に出してくれた菓子を」

「はい」

「もう……、三年経ちますか。置き忘れなどできないですよね、私は大旦那を助けられなかった」

「とんでもない……! 最期まで看取っていただいて、糖堂の人間はみな、旦那様に感謝しています」


 思い出そうとすればお薬の匂いが鼻にかすむほど、鮮烈な記憶。

 その病が流行りだしたのは、鹿の子が十五歳の冬だった。

 報せは首に咲く痣。

 花びらが散ったように赤くでるので、桜疱瘡(さくらほうそう)と呼ばれた。

 次に熱。

 病にかかった半数の年寄りは、この熱で天に昇った。

 一晩堪えても、七日続く。七日目には桜の痣を全身に散らし、その身も散らす。

 風成の陰陽師様が山を越えてやってくる頃には、村から年寄りが消え去っていた。やたら年寄りを好む病なのだ。畑を駆け回る童子には見向きもせず、病は年寄りを隔離した狭い部屋へ滑り込む。最後に残ったのが糖堂の大旦那、鹿の子のじいさまというわけである。

 

「それに旦那様はばあさまやおじさまを救ってくださった」


 この流行り病で残った年寄りはばあさま、たった一人。周りではおじさまのような五十すぎに伝染りはじめていた。それを春風にのせて吹き飛ばしてくれたのが、旦那様こと小御門月明である。

 ばあさまは月明の看病のもと、三途の川を渡ることなく目を覚ました。自分を救ってくれただけでなく、末期の夫に最期まで付き添うてくれた。ばあさまが小御門家との縁談に泣いて喜んだのは、そういった理合いがある。

 この疫病神のお祓いに月明は三月を要し、その間、小御門家に滞在していた。鹿の子が月明と行き逢わなかったのは、月明が病人を離れ邸に集め、自身もそこで寝泊まりをしていたからだ。また、治療にあたれば、何でうちの人だけつれてったんやと、恨みをもたれることもある。五人いた陰陽師は揃って顔がわからぬ様、首までこっぽりと筒状の天蓋笠を被っていた。

 鹿の子がほんの少し、月明のお傍に居れたのは垂れ桜の出居。離れ邸に病人が消え、開け放たれた出立の朝のことだ。この日お出しした菓子が鹿の子の手製、うぐいす餡を小麦粉の皮で包んだ四方焼き。美味しかったので是非礼を述べたいと席に呼ばれ、几帳ごしに顔を合わせた。そして唐突に、言われたのだ。


 ──お嫁に、いらっしゃい。


 その声はお日様にぬくもった桶の水のようにやわらかく、優しいものだった。


 

「あれから三年──、三年もあなたを待たせてしまった」


 箸を置き、謝意を表すように鹿の子をじっ、と見据える。


「ご事情は伺っておりました」


 然して月明が風成へ上りすぐに奥方を一人、失っている。

 その服喪は長く、可也のご寵愛であったのだろうと、鹿の子はとうさまから聞かされていた。東の院に調えられた調度品の数々をみてとり、その御方は東にいらっしゃったのではないかと、憶測もした。だからこそ、着ることができなかったのだ。

 鹿の子の積もった(おもんぱか)りに、月明は悲しい笑みで応えた。


「東の院に妻を迎えたのは初めてですよ。邸にあるものは全て、この三年であなたのために調えたものです」

「全て……わたしのため」

「ですので遠慮なく使っていただいたほうが、私としては嬉しいですがね。持ち腐れは困ります」


 最後は濁し、また箸をとっては豆をすくう。

 鹿の子は弊殿でのやりとりを思い返してしまい、自分がいやでいやで、涙を汲んだ。

 いままで旦那様が選んでくれた品々を放ったらかしにして、あげくに他へ譲ってはなどと口走ったやなんて。謝りたいのに、芋が喉に詰まって声にならない。憎たらしくて憎たらしくて、鹿の子は歯噛みを隠すように、頭を深く垂れた。

 まあるいおでこをつきだして、背中を丸めて、まるでだんご虫みたいだ。月明が豆を吹き出しそうになったことを、鹿の子は知らない。

 あまりにいじらしいので、月明は茶屋の席をかり、きちんと心うちを明かした。


「鹿の子さん、私はあなたの菓子を見初めた一人なんですよ。私は毎日、あなたの菓子が食べれて幸せです。かまどの嫁、結構じゃないですか」

「旦那様……」


 しかしどんなに菓子を愛されたって、東の院に住まう資格はない。 

 鹿の子は霊力なしの側室不相応。旦那様に見離された、かまどの嫁。


「ですがね、見離したつもりは毛頭ありません。私はあなたを側室として幸せにしたい。心からそう思っています」

「……え?」


 ──見離したつもりはない。

 その言葉を合図に、鹿の子は顔を表へ上げた。


「表で話せないこともあります。次のかまど休み、弊殿にて詳しくご説明しますから。まあ、今はそんなに気負わず、この芋でも食べて元気になってください」


 鹿の子へ串を渡し、自身もぱくりと口へ放り込む。はふはふと噛み砕き、名残惜しむようにゆっくりと飲み込んで、余韻を溢した。


「私はね、鹿の子さん。あなたの菓子にはこの芋以上に、真心がこもってる。そう思います。だからもっと、胸はっていいんですよ」


 言った後から、配膳でまわってきた夏海に「女を泣かすな」と小突かれた。

 今の鹿の子は誰がどうみたって涙しとど。申し訳ないのと、喜びと芋の美味さで、鹿の子自身もよくわからない複雑怪奇な涙が流れている。


「夏海のように横柄なのも、困りますがね」

「きこえてんねんっ」


 夏海がぶん投げた盆がうまいこと月明の頭に乗っかり、茶屋は外まで轟く大爆笑。

 そうしてようやく、鹿の子の顔に笑みが戻った。



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