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終わりはね、いつか必ずやってくる

研究所への道をひた走る車が一台。

研究所は山の奥の奥にある。

かろうじてある車の道。

しかしあまり使われていないのだろう。道はガタガタだ。

普段はヘリなどで移動するらしい。

あまりに街から離れているのでその方が早いのだ。

ガタガタと車は走り続ける。

そのハンドルさばきは鮮やかで、曲がりくねった山道を難なく走っていく。

運転席には黒いスーツ、サングラスの男。

後ろの席には似たような格好をした男と、アクスが一緒に乗っていた。

ガタガタガタ

車は危なげなく山道を研究所へと向かって走る。

後数時間もすれば、素晴らしい夕日が車の中からも見えるかもしれない。

山の影に、研究所のものらしい、白い影がちらほら見え出した。

きっとあの研究所から見る夕日もとても綺麗なのだろう。


研究所に着くと、車は正面玄関前に止まった。

警備員らしき人が中を確認しに来る。

アクスは窓を下げた。

「こんにちは。おばさまに会いに来たんだ。とてもいい情報を仕入れたからね」

「予約は?」

「してないけど・・・ラスエルロスに関してって言ったらきっと会ってくれると思うよ」

少し訝しげな顔をしながらも、警備員が確認を取りにいく。

アクスは不敵な笑みを浮かべていた。

運転席の男がなにやら妙にキョロキョロしている。

警備員が戻ってきた。

「大丈夫です」

「ありがとう」

アクスが車から降りた。隣に座っていた黒服も降りた。

と、運転席にいた黒服も降りてきた。

なにやら警備員と話すと、警備員が代わりに車に乗った。

そのまま車を車庫へと入れに行った。

「なんて言ったの?」

アクスが運転していた黒服に向かっていった。

「腹が痛くてトイレに行きたいから運転代わってくれってさ」

「・・・もうちょっとうまい言い方ないの?」

軽くため息を吐くと、三人は建物の中へと入っていった。

エレベーターを降り、いくつかの扉を過ぎる頃、いつの間にかアクスと隣に座っていた黒服の二人だけになっていた。しかしそんなことなど気にせずに二人は迷うことなく歩いて行く。ただ一つの場所を目指して。

白く長い廊下が続く。時折すれ違う者もいたが、アクスを見ると軽く会釈をした。

数々の扉の向こうでは何が行われているのか、アクスも詳しくは知らない。アクスはこの場所が嫌いだったから、あまり訪れなかった。

目的の場所が近づいてきた。

一番奥の一番頑丈そうな扉の前に立つ。扉の横に設置されたナンバーキーをアクスが叩くと、重そうな音を響かせながら扉が開かれた。

異様な光景が広がる。

何人かの研究員らしき人達が慌しく動いていた。その向こうに、培養液に漬けられた女の子達が並んでいる。その一人一人の顔は皆同じ顔だった。

中央に立っている女の人が指示を出しているらしい。何か大きな声で叫んでいる。

二人は中へ入っていった。

「おば様」

アクスが指示を出している女の人に話しかけた。

呼ばれて初めて女の人は二人のことに気付いたようだ。きびきびとした所作で振り向いた。

「あら、アクス。珍しいわね。あなたがここに来るなんて。どうしたの?」

その顔はラスがあと30年くらい年を取ったらこんな感じになるだろうという顔だった。

ラスと同じ薄茶色の肩まで伸びた髪に少し白いものが見え隠れしている。

「紹介したい人がいるんだ」

そう言ってアクスは隣に立っている黒服を見た。

黒服がサングラスを外す。ラスだった。

ラスが真っ直ぐに目の前の女の瞳を見つめた。

「これはこれは、ラスエルロス。わざわざあなたから出向いてくれたとは。

手間が省けたわ。おかげで研究もはかどるわ。さ、ポッドに戻って頂戴」

「お久しぶり、マリーン。いや、エルダ」

目の前の女は少し眉をひそめるとラスを見つめ返した。

「エルダ?ああ、一番初めに作られたクローンの愛称ね。何故その名を?」

「そのままさ。あなたはマリーンではなく、一番初めに作られたクローン、エルダストクスだ」

「なんですって?」

女の顔が険しくなった。

「ラス、どういうこと?」

アクスも思わず聞き返した。

「本物のマリーンは、20年前に自殺したんだ」

アクスは驚いて目を見開き、おば様と慕っていた女性を見つめた。

「何を馬鹿なことを。私はこうして生きているし、エルダや他の6号までのクローン達は、

20年前に廃棄処分しているわ」

「それは君が作り変えた記録でしょう。僕が言ってるのは真実だよ」

ラスは遠い目をして語り始めた。

「あの日、マリーンは、増える自分クローンに恐れを抱き、

いつかオリジナルの自分にとって代わろうとするクローンが現れるかもしれない、

いつか殺されるかもしれないという被害妄想を抱き、自らの胸を貫いて果てた。

それをいいことにエルダ、あなたはマリーンにとって代わろうとして、他のクローンを皆殺しにした。

僕はその時、まだ培養液の中にいたけど、この能力のおかげで全て知っているんだよ、エルダ」

「嘘よ!私は・・・・私は・・・違う!」

突然エルダと呼ばれた女が叫んだ。

研究員達も驚いて皆振り向いた。

「あれ程にマリーンを愛していたあなたが、

・・・何故マリーンを裏切るようなことをしているの?」

「お黙り!!」

女は突然掌を掲げた。するとその掌が輝き・・・。

気付いたラスはアクスを抱えて脇に避けた。

と、背後で爆音が響き渡った。

「エネルギー弾・・・?」

アクスが背後を振り向きながら言った。

「まさか、・・・自分の体に能力を植えつけたのか?エルダ!」

「そうよ。自身を実験体にするなんてざらよ。それにあなたを捕まえる為もあるわね」

「なんて馬鹿なことを・・・!」

ラスの顔が青ざめた。

「馬鹿で結構。あなたを手中に収めれば研究もはかどるし、邪魔するものもいなくなるし。

まさに一石二鳥ね」

博士は飛び上がりつつ上方から立て続けにラスにエネルギー弾を放つ。

ラスはアクスを抱えてそれらを避けた。

驚いた研究員達が散り散りになって逃げ出す。

部屋の隅にアクスを置くと、

「アクスはここを動かないで」

とアクスの周りにバリアを張ると、博士に向かって行った。

「エルダ!僕の話を・・・」

「聞く必要はないわ。どうせあなたはすぐに私の人形になるのだから」

と、ラスに向かってエネルギー弾を打ち出す。

「くそっ」

ラスは距離を縮めようとするが、襲い来るエネルギー弾はそれを許さない。

(何故?何故エルダは・・・あんなにマリーンと親しかったのに。

あんなにマリーンを愛していたのに・・・)

エルダを止めなければならない。

(僕は・・・このために生まれたのかもしれない・・・)

ずっと生まれた意味を探していた。何の為に、誰の為に自分は在るのか・・・。

この時の為だったのだ。

ラスは奇妙な安心感を覚えていた。

「ラスーーーー!」

アクスが叫んだ。

ラスはハッとなった。考え事をしていたせいで一瞬隙が出来たのだ。

博士は見逃さなかった。


ドオオオオオオン!!!


激しい爆発音がしてラスが壁に叩きつけられた。

「ぐ・・・」

ずり落ちるラスの首を博士が掴んだ。

「私はマリーン。エルダなんかじゃない。

あなた達クローンは私の可愛いお人形。

楽になさい『ラスエルロス』。

すぐにあなたのサンプルをいっぱい生産してその不老の秘密を解き明かすから」

不敵な笑みを浮かべる博士。

「ラス・・・」

アクスはもう駄目かと思った。

その時。

「ラスを放せーーーー!!!」

誰かが叫んだ。

声の主を求めて振り返った博士の前に、何かが投げつけられた。


ドン!!!


「きゃああああ!」

それは小型の爆弾だった。

「ダド!」

アクスが歓喜の声を上げる。

「遅くなったな!」

黒服の男が今はサングラスを外していた。運転手の正体はダドだったのだ。

「爆弾は全部取り付けてきたぜ!」

いつの間にかいなくなったのは、ひそかに研究所の至る所に爆弾を取り付けに行っていたからだったのだ。

突然の爆撃に驚いた博士は思わずラスから手を放した。

その一瞬を見逃さず、ラスは博士の頭を掴んだ。

「何を・・・」

「エルダ!思い出して!」

ラスの手が光りだす。力が集まっているのだ。

ラスとエルダは共鳴し始めた。元々同じものだ。共鳴し始めるのに時間は要らなかった。

ラスはエルダの記憶の奥に封印された記憶を呼び起こし始める。

それは小さな幸せを感じていた頃の心穏やかな記憶・・・。

「ぎゃあああああああ!」

博士があまりの苦しさに悲鳴を上げた。

最初の記憶。マリーンと初めて会った時のこと。二人で遊んだこと。髪を結ったこと・・・。

陽のあたる庭でマリーンが話したこと。

「命は一つよ。皆一生懸命生きているのよ・・・。弄ぶなんて許されないわ」

そう言ったときのマリ-ンの悲しい顔・・・。

全てを思い出した。

ラスの手の光が静かにおさまっっていく。

博士は力なく崩れ、床に倒れ込んだ。

ラスもあまりの力の消費に意識が遠くなるのを堪えながら床に立っていた。

「ラス!」

「ラス!!」

バリアを解かれたアクスとダドがラスに走り寄る。

「大丈夫?」

「無事か?」

「平気だよ」

支えようとする二人の手を払い、ラスは博士、いや、エルダに歩み寄った。

「エルダ・・・」

エルダはうっすらと目を開け、ラスを見た。

「ラスエルロス・・・」

ラスは膝をついた。

「エルダ・・・」

「思い出したわラス。私はね、マリーンになりたかったんじゃないのよ。

マリーンはこの世にただ一人。私はマリーンを蘇らせたかったの・・・」

博士、いや、エルダストクスは息と共に吐くかのように静かに語り始めた。

「マリーンが死んでいるのを見た時、ショックだった。

私の愛するマリーンがどうして死んだんだって・・・。

マリーンが死んだのにクローンの私達が生きてるなんておかしいって、それで皆を殺したの。

私も死のうとした時、鏡が見えてね。

そこでまたマリーンが胸を突いて死のうとしてたの。

・・・だから私止めたわ。そしてね、マリーンに約束したの。

必ず蘇らせてあげるって。

でもいくらクローンを作っても、どれもマリーンじゃなかった。

・・・そのうちに・・・いつの間にか自分のことを忘れてしまっていたのね・・・。

ごめんなさい、ラスエルロス・・・。ありがとう」

エルダはそういうと目を閉じた。

「エルダ・・・?」

その時、上のほうで爆発音が聞こえてきた。

「何だ?まだボタン押してねぇぞ!」

ダドが慌てふためく。するとエルダが言った。

「私が爆発させたわ。ここはあってはならない場所。

マリーンもそう望んでいた。

ここはもうじき崩壊するわ。早くお逃げなさい」

「おば様・・・おば様はどうするの?」

アクスが不安げにたずねた。

「アクス、このごに及んでまだおば様って呼んでくれるのね。

私は元からいない存在。この場所と一緒に消えるわ」

「そんな、そんなこと・・・」

ラスがエルダの手を優しく握り締めた。

「エルダ。大丈夫。僕も残るよ」

「ラス?!何を?!」

ダドが青ざめる。

「僕も元々あってはならない存在なんだ。ここで消えるよ」

それを聞いて、ダドが切れた。

「だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっくそ!

何ごちゃごちゃ訳わっかんねぇこと言ってんだ!

あるとかないとか、とにかくここは危険だから皆で逃げんぞ!」

と、問答無用でラスを担ぎ上げる。

「ダ、ダド!ダメだよ降ろして!」

「誰が降ろすか!今お前にいなくなられたら俺が困んだよ!ホレ、おばさんも行くぞ」

と抱き上げようとしたが、

「ラスエルロス、あなたはまだ必要としてくれる人がいるみたいね」

「え?」

「ラスを頼んだわよ」

ダドを見てそういうと、突然、ダドとアクスとラスは、見えない力によって入り口まで吹き飛ばされた!

「エルダ!!」

急いでエルダの元へラスが駆け寄ろうとしたが、入り口の扉は吹飛ばされたと同時に、既に固く閉ざされていた。

「エルダ!!エルダ!だめだ!僕も一緒に行くよ!エルダ!」

ラスが思いっきり扉を叩くがびくともしない。

その時また、上の方から爆発音が聞こえてきた。

「ラス!もう駄目だ!行くぞ!」

「嫌だ!僕も死ぬんだ!皆死んで僕だけ生きてるなんて!

そんなのダメだ!エルダ!僕も一緒に死・・・」

ラスの鳩尾にダドの拳がめり込んだ。

「許せ、ラス」

ダドの呟きがアクスにははっきりと聞こえた。今まで聴いたことのない哀しい声。

「行くぞ!ガキ!」

いつもの調子でダドがアクスに怒鳴った。

「酷い言い方」

内心ニヤリとしながら、アクスは扉に振り向きながら呟いた。

「さよなら、おば様。でも僕、おば様の事は好きだった・・・」

こんな風になるなんて思ってもみなかった。誰も傷ついて欲しくなかったのに・・・。

「クソガキ!逃げないんなら置いてくぞ!」

「きゃー!酷い!依頼主を置いてくなんて!」

苦い想いを残しつつ、アクスは急いでエレベータに飛び乗った。



少し離れた丘の上から、研究所が崩れ落ちるのをたくさんの研究員達が見つめていた。

ダドとアクスも飛んでくる破片から身を守るために、木立の中へ身を隠していた。

「う、うう・・・」

ラスが気付いた。

「ラス・・・」

「ラス、気付いたか?」

アクスとダドがラスの顔を覗き込む。

二人の顔を見て、ラスが悲しそうに呟いた。

「僕、生きてるんだね・・・」

「当たり前だろ!」

ダドが言った。

「あのおばさんにも頼まれたし、お前はうちの社員(予定)だし、それに、

・・・俺には、お前が必要だからな」

ラスは目を見張った。

今までも多くの人たちに自分は必要とされてきた。だが、それは研究対象としてだ。

だが、目の前の鼻の頭をかいているこの青年は、自分を人として必要としてくれている。その事実がとてつもなく嬉しかった。

「僕を・・・必要として・・くれる・・・の?」

「当たり前だろ」

ダドは少し照れたように空を見上げた。

ラスは泣きそうな顔をすると、ダドに飛びついた。

「ダド!」

「どわっ!」

二人は勢い余って倒れこんだ。

「ラ、ラス!なにすんだ!」

ダドの顔が気のせいか、少し赤くなっているような・・・。

「ダド・・・ダド・・・!僕!」

ラスはダドの胸に顔を埋め、肩を震わせた。

「ラヴシーンは他でやってよね」

アクスが呆れながら肩をすくめた。


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