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アルバイト募集はトラブルの元?!

ヴェレット通りを少し入ると、表の華やかさとはうって変わって廃墟ビルが立ち並ぶ。

そこを少し行ったところに、珍しく赤レンガで造られた建物が見えてくる。

日に晒されて崩れ落ちた建物の並ぶ中、その建物だけが色彩を帯びていた。

主のない、灯らない看板が周囲と赤レンガの建物を不思議と調和させている。

その看板の2Fを示す辺りに、『ダド探偵事務所』と書いてあった。

そして1Fの通りに面した壁には、


『探偵助手 アルバイト募集! 体力に自身のある方急募! 住み込み可』


という紙が貼ってあった。

人の通りがあるのか疑わしいほど寂しいその通りに貼られた紙は、役目を果たすことも出来ず、風に飛ばされようとしていた。

発音が似ているからというわけではないだろうが、神は紙に味方したらしい。運よく一人の人間の目に留まった。

その人間は少し何か考えているようだったが、やがて意を決したようで、建物の中に入っていった。


「ちっきしょー!マキアのやろー!こんな時に怪我するなんて!」

叫んだのはこの事務所の社長兼課長兼部長兼係長兼平社員(とどのつまり一人しかいないのだが)のダド。

少し長めの髪を無造作に後ろで束ね、Tシャツにイージーパンツというラフな格好をしている。むき出しの腕は鍛えているらしく、少し筋肉質だ。

この事務所の内情は、こんなところに事務を構えているのだから当然、財政は赤字。

しかも先日請け負った仕事により、たった一人の社員というより、相棒のマキアが全治二ヶ月の怪我を負ってしまったのだった。

今まで二人でやっと片付けてきたこの仕事達、相棒がいないとなると頭脳プレーの苦手なダドは困ってしまう。特に目の前に積み上げられている書類の束・・・。

これに目を通し確認のサイン等々しなければならない。

これらをやらなければお金をもらえないし次の仕事にも入れない。それにマキアの入院費も払えない。

ダドは途方に暮れていた。

「あ~あ~、結局やるしかねぇんだ・・・」

ため息を深~~~く吐いて、ダドは諦めたようにペンをとった。

何枚目かの書類にだるそうにサインをしたとき、


コンコン


さほど広くない部屋にノックの音が響いた。

「は~いど~ぞ~。鍵は壊れてるから勝手に入ってきてくれ~」

やる気が底をついてほじくり返しても何も残ってないような声を出す。

ドアノブがギシギシと音を立てながら開くと、一人の少年が入ってきた。

「あの、下の貼り紙を見たんですけど・・・」

それを聞いた途端にダドはパッと顔を輝かせて、

「アルバイト希望者か?!」

と聞いた。

「あ、はい」

と少年が答えると、勢いよく机から飛び出してきた。

「そいつはま~。ささ、汚いところだけど、掛けてくれ」

ダドは嫌な仕事から離れる口実が出来たと嬉しそうだ。

結局後でやらなきゃならないくせに。

言われたとおりに小汚いソファーに二人は向かい合って座った。

少年は少し薄汚れたコートを着ていて、年のころは16、7といったところか。脇に小さなバッグを抱えている。薄茶色の髪は柔らかそうで顔立ちはなかなか可愛かった。

「最初に言っておくけど、この仕事はきっついから、ケッコー体力が要るんだ、・・・体

力に自信は?」

服の下に隠されている体の線は、どう見てもたくましいとは考えられない。

「あ、こう見えても体力は人並み以上にありますので、大丈夫です」

少年はさらりと言った。

「名前は?」

「・・・ラスです」

何故か間があったのが少し気になったが、ダドは構わず続けた。訳有りなどこの辺りでは珍しくないからだ。

「身分を証明できるものは何か持ってるか?」

「その、僕家出してる身なんで、・・・その、持ってないんですけど・・・」

もじもじと答える。

「う~ん、そうか、まぁいいや。簡単に経歴とか話してみてくれ」

その後いくつか質問をし、契約内容などを確認した後、契約書にサインをしてもらう。

「人手が足りないから今から働いてもらうぜ。本当は他にもめんどくさいことしなきゃな

んないんだけど。緊急事態ってことで省略」

マキアがいたら絶対そんなことにはならなかったろう。

「おっと、俺の自己紹介がまだだったな。俺はダド。よろしくな」

「あ、よろしくお願いします。それと、住み込み可ってあったんだけど、・・・」

「おう、この建物の五階だ。好きに使っていいぜ。案内するよ」

とその時、


バタン!


と入り口の立て付けの悪い壊れかけた扉が勢いよく開け放たれ、黒服の男が飛び込んできた!

「・・・失礼、坊ちゃまは来てないか?」

「・・・また逃げられたんかよ。今のところ連絡も来てねぇよ」

「そうか・・・毎度すまないが、もし連絡があったら・・・」

「ああ、わ~ってる」

男はアタフタと帰っていった。

(あの扉の寿命も長くないな)

とダドは思った。

「あの、今のは・・・?」

ラスが聞いた。

「ああ、今のは―――」

とダドが答えようとしたとき、

「僕のボディーガードだよ」

どこからか幼い少年の声が降ってきた。

「この人は誰?新人さん?」

天井の蛍光灯の陰から、野球の球位の大きさの、目を模した『ラジコン目玉』(?)が飛んできて、ラスの目の前で瞬きを繰り返した。

「また変なラジコン作ったな?おい、今どこにいんだ?」

「マキアがいないね。マキアはどうしたの?」

ダドの質問には答えず少年の声が質問をぶつける。ラジコン目玉が辺りを見回した。

「マキアは怪我して入院中だ。そいつはマキアがいない間の代理、ラスだ」

「ふ~ん、こんなにやせっぽっちで平気なの?」

ラジコン目玉がラスを観察するように周りを飛び交う。

「くだらねぇ事言ってないで、早く居場所教えろ」

ダドの口調が少し強くなる。

「ふ~ん、僕を粗末に扱っていいのかな?」

「ぐ・・・」

ダドが詰まった。ラジコン目玉はダドの周りを飛び交う。

「い、居場所を教えてください・・・」

「よしよし」

ダドは思った。

(なんて生意気なガキだ!)

「僕はシェラルド通りの3-5の廃墟ビルにいるよん。早く来ないと別の場所に行っちゃ

うからね♪」

「そこでまってろ『くそがき』」

ぼそりとつぶやいたが、

「今回は報酬半分にしようか?」

「・・・そこでお待ちくださいませお坊ちゃま~♪」

なんだかんだ言いながら、この坊ちゃんの世話は払いがいいのである。

「ん、よろしい。では早く来るように」

そういうと、ラジコン目玉は窓から飛び出し飛んでいってしまった。

「ナンってくそ生意気なガキなんだ!!!」

バン!

と思いっきり机を叩いた。

「あの、今のは?」

ちょっと怯えながらラスが尋ねる。

「バンダート家のお坊ちゃまさ。ませてて口やかましいガキだよ。よくSP達の目を眩ま

せて逃げ出すんだ。その度に俺達のところに来るんだ。社会勉強とか言って、仕事の邪

魔しに来るんだもんだから・・・お、丁度いいや、初仕事にはもってこいじゃね~か。

そんでお前の実力も見せてもらうぜ」

「は、はい」

その時、机の下から先程とそっくりなラジコン目玉がゆっくりと出てきた。

「あ・・・」

「あ?・・・」

「これ、録音機能もついてるんだよね」

軽やかな少年の声が響き渡った。


シェラルド通り。

他の通りに比べるとそこはまだ居住者も多く、小さな商店などもちらほらと見える。

シェラルド通り3-5。その廃墟ビルは10階建てで、かつては色とりどりに飾られ様々な人々がここに足を踏み入れたろうが、今では風に晒され、いつ崩れてもおかしくない程の有様だ。

昔は電気も通り、エレベーターなども動いていたろうが、今はガラスも割れて壁もあちこち崩れ、配管などがむき出しになっている。

必然的にダドとラスは階段を上がっていった。

ぜいぜい言いながら屋上に辿り着く。

「遅かったじゃないか」

屋上の縁に足を投げ出し、眼下を見下ろしていた少年が振り返った。

「あのなぁ、事務所からここまでどんだけかかると思ってんだ」

ダドとラスが丁度屋上の扉から出てきたところだった。

「歩いて二十分位」

「お前の二個目の目玉が飛び出して行ってまだ二五分だぞ」

「五分オーバーか」

「たわけ!10階まで上るのきつかったんだぞ!」

まだ息が切れている。

「ふん、ま、いいか」

と少年が立ち上がると、ピョンとこちらに飛び降りた。

「さ、ダド。その新人さん、改めて紹介してよ」

「へいへい。こちらはさっき入れたばっかりの新人も超新人、のラスだ」

「どうも、よろしく」

とラスが言った。

「僕はダド探偵事務所のスポンサーのアクス・バンダート。よろしく」

「というより、毎度お騒がせ小僧・・・」

「じゃ、僕他に頼もうかしら。今までの録音全部マキアに送ってから」

と、胸元からICカードらしきものをちらりと出した。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!いまのなーーーーし!」

とダドが慌てふためく。

「ふん、相棒が入院したってのは本当だったんだな」

突然、誰もいないはずの階段の方から声が聞こえた。

とっさにダドはラスとアクスを掴んで物陰に滑り込む。


バキーン!


壁が少し抉り取られた。

物陰から階段の方を覗くと、人相の悪い男達が五、六人上がってきた。

「ふん、そっちのひょろっちいのは新しい相棒か?随分と可愛い顔してるじゃねぇか」

「へん!余計なお世話だよ!」

ダドの表情が険しい。

ラスはまだ現状を理解できていなかった。

「ダド、連絡は取ったから、時間を稼いで」

アクスがひそひそと言った。どうやら何らかの手段でSPと連絡を取ったらしい。

「さあ、その坊やを渡してもらおうか。さもないとお前も、相棒と仲良く入院ってことに

なるぜ」

男が言った。

「けっ、お前は厄介ごとばかり運んでくる」

とダドが愚痴をたれると、

「仕事を持ってきてあげてるんだ」

とアクスが反論した。

ラスはようやっと事態を理解したようだ。

ようするに、このアクスをあちらの人相の悪い人達が誘拐しようとしているらしいのだ。

今までにも何度もあったらしいことは何となく会話の中から分かった。その度に邪魔されて失敗していることも。

「お前に逃げ道はないぜ。あの相棒ならともかくこのひ弱君じゃいつものコンビプレーは

できないだろうからな」

男達はにたにた笑っている。

確かにそうだ。ダドはラスを連れてきたことを少し後悔した。

あの時事務所に置いてきていれば・・・。アクスだけならば守りきる自身はあるが、さすがにラスまでも庇いきれるかどうか・・・なんでこんな時にマキアがいないんだ!とちょっとマキアを恨んだ。

ダドは迷った。このままアクスだけを連れて逃げるか、それとも二人を守りながらSPが来るまで踏ん張るか。

「ダド、アクスだけなら逃げられるよね?」

ラスが言った。

「・・・お前はどうする?」 

「僕はなんとかなるから。アクスを連れて逃げて」

真っ直ぐな瞳でダドを見つめる。

「・・・本当か?」

正直その提案は有難い。アクス一人ならなんとかなる。しかし、まだラスの実力もよく分かっていないし、奴等はそこそこ腕が立つ。残していくには不安がある。

だかしかし・・・

ラスがゆっくりとうなずく。

何故かはわからないが、ダドは大丈夫な気がした。

ラスならばなんとかなる。

不思議とそう思えた。

「・・・間違っても死ぬなよ」

二人は同時に動いた。

ダドはアクスを連れて右へ!

そのまま屋上から飛んだ!

ラスは左へ転がり出て、男達を混乱させる。

一瞬のことで男達の反応は遅れ、見事にダドとアクスのダイブは成功した!

見えなくなった屋上から銃声が響いた。

ダドは必死でワイヤーを投げた。

うまい具合にむき出しの配管に引っかかった。

そのまま勢いを付けて6階に突っ込む。


どんがらがっしゃん!


稚拙な表現かもしれないが、これほどしっくりくる擬音語はないほどに音が響き渡る。

「う、おい、無事か?」

「かすり傷一つなさそうだよ」

仲良く起き上がる。

何気に仲のいい二人である。

「僕は平気だよ、ダド。だから」

「俺は上に行って来る。お前は?」

「ここで見つからないよう隠れてる」

「よくできました。かくれんぼは得意だもんな」

「まかしといて」

ダドは走り出し、アクスは物陰に体を滑り込ませる。

足音をなるべく立てないようにダドは急いだ。

懐から銃を取り出す。

階段には誰もいない。どうやら皆屋上に上がっているらしい。

用心しながらも屋上へと急ぐ。

しかし、

(音がしない?)

あれだけ聞こえていた銃声が、いつの間にかぱったりと聞こえなくなっている。

(くそ!)

ラスは何も武器を持っていないはずである。それが聞こえなくなったということは・・・。

ダドは急ぐ。

しかし、おかしな事に誰も階段を下りてこない。

もしラスがやられたとしたら、今度は自分達を追いかけてくるはずである。

しかし、誰も降りてくる気配はない。

不思議に思いながらもダドは屋上に辿り着いた。

呼吸を落ち着かせ、用心しながら扉の陰から屋上を覗く。

信じられない光景が広がっていた。

男達は床に伏し、その真ん中にラスが立っていたのだ。

驚きつつも、屋上へと足を踏み出す。

「ラス・・・?」

声を掛けるとラスが振り向いた。

「ダド。無事だったんだ」

ラスは安心したようで、ほっと息をついた。

「え?・・・これ、ラス一人でか?」

「あ、うん。その、えっと、多少武術の心得があって・・・」

見事に全員のびていた。

「ハァ~~~~~、なぁ、ラス」

「え?」

「お前、正式にうちで働かねぇ?」

「え・・・?」

ラスはまさかこんな所で勧誘されるとは思ってもみなかった。



この光景にあっけにとられてダドは見落としていた。

男達のやられ方が、武術によるものではないということを・・・。


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