第六話:研究レポート
2115年 6月19日
争いは何故起こる?
私はその疑問を持ち、考え、理由を探した。
戦争という形だろうと日常のいざこざという形だろうと、争いが無くなることは無い。そして、その理由を考えてみたところで、確固とした原因など見つかる事はなかった。
人間は本来邪悪なのであると言う者もいる。しかし、いつまでも赤子でいる訳ではあるまいし、本能をさらけ出して生きている人間などまず居ないと言って良いと思う。
確かに食糧や資源、つまり生存に関わる争いもあるが、その争い自体がある限り長寿も頑健な体も無益である。そして栄養状態の良い民族ほど好戦的でさえある。
これを思うと人間は、たとえ不老不死に近づいていこうとも争いをやめることは無いのだろう。
ならば我々にもう争いをやめる道など無いのだろうか?
あるいは、他人に対する憎悪、嫉妬、嫌悪、僻み等の感情が無くなりさえすれば、争いは無くなり、不幸は訪れないのだろうか?
それらの負の感情が弱いと言う人間はいないだろう。それは誰もが一度や二度経験すれば済むような感情ではないのだから。
そして、同時にその感情が全く争いに関係ないと言い切れる人間等決していないだろう。
だからもし、それらの感情から人間が解放されたのならば、我々は真に幸せをつかめるのではないだろうか?
その研究の成果が何を表すかなんてわかっている。
きっと、植物や機械と変わらない無気力な人間が出来上がるのだろう。
悪魔の研究と罵られてもかまわない。
あえて私はそれを試みる。
それらの人間が幸福でないなんて、証明できる人間等いやしないのだから。
クラウド・ゲイディッシュ博士
研究ノートの序文より
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