第八話「こりゃあいい剣だ。」
第八話「こりゃあいい剣だ。」
「あのパーティはどうなっている?」
青コートの男が話す。
襟には四つの線、そしてその上に一つの丸印。
この男は大佐の様だった。
「確実に力をつけています。
しかし、一名だけ初級職の者がおります。」
襟章の線が一つ少ない軍人が話す。
「そうか…
イワンの正体を知り、そして魔王に一番近い一般人が彼らだ。
彼らには沢山働いて貰わなければならない。
特に、魔王戦ではな…」
「国軍依頼ぃ?」
「直々に俺たちに仕事が来るとか…
どういうことだ?」
ガイとアルフレッドは疑問がる。
「依頼内容は…
武器を持ち帰る…?」
シンシアは依頼要項を見て驚く。
更に先を読み進める。
「細い片刃の剣を持ち帰る。
しかも国外…」
この世界には職業で生活を成り立たせるこの国だけではなく、他の国も勿論存在する。
しかし、あまり交友が無いために文化や物品が出回ることは無い。
「パシリに使おうってのか…」
「直々に私達を選んでるんだから、ちゃんとしようよ。」
ミーナがガイに言う。
そして、シンシアが報酬額をガイに見せつける。
「来る仕事拒まずだ。
よし!その国に行ってみるか!」
ガイが乗り気になった。
目的の国はこの国の東にある。
森が国境となっているため、徒歩で行くのは不可能ではないが、あまりに時間がかかる。
アルフレッド達は馬を借りて行くことにした。
四頭の馬が森を駆ける。
数時間後、見知らぬ風景が広がって来た。
煉瓦で舗装された道路などない。
家の作りも簡素で、石ではなく木や藁で作られている。
人々の服装も地味なものである。
人々の注目から逃れるために、一先ず宿を探すことにした。
道ゆく人に話しかける。
「すいません。この近くに宿は無いですか?」
「宿ならこの通りをずっと進んで行ったところにあるよ。
……それよりさ、君達は西の国から来たの?
その服装、ここじゃ目だつから服でも買って行ったらどうだい?
僕はここで店を開いてるんだ。
安くしてあげるよ。」
その者の言葉に従って、一行は服を買う。
女性等が買った服は、東国の伝統装束、『浴衣』である。
二人は一番人気であるという、藍色の絞り浴衣を選んだみたいだ。
絞り浴衣は、体温が籠りにくくサラサラした触り心地で涼しく感じ、西国よりも気温の高いこの国では比較的過ごしやすいらしい。
しかも、藍色というだけで何処か上品なイメージを漂わせるので、女性には嬉しい衣服だ。
一方男性二人は羽織袴と呼ばれる服を買っていた。
羽織は黒羽二重、五つ紋で、紋は染め抜きである。
袴は黒地、縞模様の絹織物である。
鎧兜などを身につける者達は文化の違いに驚いていた。
衣服が薄すぎて、敵に斬られると死は免れない。
敵の攻撃の防ぎ方等を商人に聞く。
しかし、帰ってくる言葉は他人事なものだった。
「そういうことは鍛冶屋に聞いた方がいいよ。
宿の隣にあるからさ。」
アルフレッド達はその言葉の通りに鍛冶屋まで聞きに行く。
「…暑い。」
鉄を熱しているのだろうか、店内に熱気が籠っている。
店の奥で鉄を打つ音が聞こえる。
「すいませーん!」
ミーナが叫ぶ。
しかし、鍛冶屋は気付いて無いみたいだ。
「仕方ない。武器でも見ておこうぜ。」
展示棚を覗く。
「これは…っ!?」
細長い片刃の剣。
それらがそこには数多く並んでいた。
「…刀?」
商品名を見ると、刀と分類されていた。
「これを持ち帰れば、依頼は完了だよな?」
「よっしゃ!買おうぜ!」
男二人が騒ぐ中、店にある男が入って来た。
「ゲンさん!刀鍛え直してくれよ!」
鋭い、真っ直ぐな声が、鍛冶屋に向かって放たれる。
「おお!カゲツか!」
一行では呼べなかった鍛冶屋を、一発で呼び出した。
「また派手にやったなあ…
こりゃ大物とやりあったな?」
ゲンと呼ばれていた老人が剣を見つめて言う。
「妖退治が大変なんだよ。
妖の主も侵攻しているらしいし。
どうしたらいいものか。」
カゲツという男が呟く。
「すいません…ちょっといいですか?」
アルフレッドが間に入る。
「ありゃ、客がおったか。
刀を買いたいのか?」
アルフレッドは頷く。
「展示棚のは模造刀だから、打ち終わるまで待っとれ。」
そう言い、ゲンは店の奥へ消えて行った。
「ねえ、君。」
すぐさま、カゲツが話しかけてきた。
「俺はカゲツ。君は?」
「アルフレッド・ガルシアだけど…」
「へぇ、外国から来たんだ。
…ねえ、左手を見せてくれない?」
アルフレッドはカゲツに左手を見せる。
「その親指と人差し指の間の傷…
剣を抜く時のものだね。
外国人が、居合抜きなんて何処で習った?」
「居合抜き?」
カゲツが掴みかかる。
「しらばっくれるな!
東国の侍独自の技、居合抜きが他国に漏れるなんてあり得ない!
貴様、この国の逃亡者か!?」
「ちょっと待てよ!本当に何も知らないから!」
アルフレッドは突き飛ばされた。
「問答無用!!」
カゲツは刀の鞘に手を置く。
「東国風花流抜刀術!『壱の太刀』!」
刀が目にも留まらぬ速さで抜かれる。
「くっ!」
アルフレッドはそれを抜刀して弾き返した。
「貴様…中々の実力だな…」
「ちょっと待ったぁあ!」
叫び声。
その主はガイだった。
「こいつはな、逃亡とか、そんなことできる様な奴じゃない!
パーティが皆上級職の中、こいつ一人だけ初級職なんだよ!
そんな奴が、居合抜きだか知らねえが、そんな技使えると思うか!?」
シンシアも加わる。
「アルフレッドはパーティじゃ一番弱いのよ。
そんな子が、国から逃亡するなんて度胸があるとは思えないの。」
続いてミーナが喋る。
「アルフレッドはね、弱くて、ヘタレで、臆病だけど、真面目で正直な所もあるの。
お願い。信じて。」
カゲツは刀を鞘に納める。
そして、地べたに正座し、頭を地面に付けた。
「すまないっ!私としたことが勘違いをしていた様だ!
まさかアルフレッド君はそんなに弱かっただなんて…
この通りだ!許してくれ!!」
「お前らの言動が一番無礼だよ。」
数時間後、ゲンが戻ってきた。
「カゲツ、村雨を鍛え直したぞ。
お客さんもほれ。
刀は手入れが大切だからな。
こまめにきちんとするんだぞ。」
「ありがとう。ゲンさん。」
「ありがとうございます!」
アルフレッドは刀を手に取り、刀身を無言で見つめる。
そして、構えて振ってみる。
「こりゃあいい剣だ。」
「なあ、アルフレッド君。」
カゲツが話しかける。
「何ですか?」
「やっぱり君には才能があるよ。
なあ、俺に稽古をつけさせてくれないか?」
「え……
はい!お願いします!!」
アルフレッドは一瞬考え、そしてすぐに承諾した。
「ちょっと!依頼中でしょ!
早く国に帰るわよ!」
シンシアが反対する。
「お願いします!
一週間だけなので!」
カゲツが土下座する。
「あ…頭を上げて。
そこまで言うなら…」
「ありがとう!
……それじゃ、明日の朝、ここに来てくれ。」
「分かりました。」
それから一行は宿を取って一晩を過ごした。




