第三話「あいつは恐らく、強くなる。」
第三話「あいつは恐らく、強くなる。」
「やっと戻ってきたか…!」
バルドロが大剣で敵の攻撃を受け止めていた。
「はあっ!」
グレイブが敵に攻撃する。
敵は華麗に攻撃を躱した。
「こいつは…?」
ライドが尋ねる。
「スケルトン……
しかもなかなか上級のウォーリアかな。」
スケルトン、戦死者の亡骸に寄生し、骨格だけで行動する魔物。
その中にはファイターやプリースト、メイジなどがいるが、中でも特に上級のウォーリアがここにいる。
「ぬるぁあああ!!」
大剣を振り回すバルドロ。
斬撃はスケルトンに直撃し、骨はバラバラに地面に崩れる。
「やったのか…?」
グレイブが白骨に近寄る。
「馬鹿!近づくな!!」
バルドロが叫ぶ。
しかし、遅かった。
グレイブに剣が突き刺さる。
倒したかと思われたスケルトンが、再び骨格を形作り、グレイブを狙ったのだ。
「ぐっ…」
土に倒れこむグレイブ。
それを介抱しにライドが駆け寄る。
「結構深いな…
おい素人!こいつを救急斑に渡してくる。
その間、凌いでくれ!」
「あ…ああ。」
アルフレッドは緊張気味に答える。
(…試しているのか…ライドらしい。)
バルドロは心中でそう思う。
「おい、アルフレッド。
俺があいつを撹乱する。
その隙に攻撃するんだ。」
「は、はいっ!」
バルドロが走る。
敵は剣を構える。
しかし、バルドロは敵を斬らずに地面の砂を撒きたてる。
砂煙で視界が悪くなる。
(…見えないけど…目の前にいるはず…)
アルフレッドは跳ぶ。
そして、剣を振り下ろした。
「よしっ!」
振り下ろした先に丁度スケルトンの頭蓋。
スケルトンの骨は砕け、今度こそ動かなくなった。
「良かったぞ、今の動き。
…いつスケルトンが動き始めるか分からん。
処分したい所だが…
ん…?あれは…」
バルドロの見つめる先、そこには漆黒の鎧。
「騎士さんだ!」
アルフレッドが驚く。
騎士はバルドロにお辞儀をした。
「お久しぶりです。バルドロさん。」
「よくもまあ、ここに戻ってこれたな。
俺らを舐めているのか?」
バルドロは険しい顔つきになる。
「別にそんなつもりは。
自警団としての務めをしに来ただけです。
スケルトンは私が処分します。」
「それを持って早く立ち去れ。
イワン・マクラーレン。」
イワンと呼ばれた騎士はスケルトンの骨を棺に詰め、直ぐに帰っていった。
「…気になってたんですけど…
何で騎士さんに冷たく当たるんですか?」
「…あいつは騎士なんかじゃない…
闇の力に汚染されている…暗黒騎士さ。」
「暗黒…騎士?」
「あいつは最初、凄腕の剣士としてここで働いていた。
練習試合も初戦から一度も黒星がない。
…だが、あいつは変わってしまった。
上級職昇格試験を受けて騎士になったあいつは呪術に手を出したんだ。
新たに呪術師の資格を得た彼は暗黒騎士となった。
暗黒騎士は負の力を利用するが故、負の魔力が体内に溜まってしまう。
……ここで間違えてはならなかったのが順番だ。
最初に呪術師になり、呪術の資質を身につけていれば、体内の循環で負の力を制御することが出来る。
しかし、剣士の資質で後に呪術を会得しても体はうまく負の力を使いこなせない。
だから暗黒騎士は本来呪術師になった後に剣士に転職してならなければならない。
イワンの場合、騎士になった後に呪術師に転職したから負の力を制御出来ないんだ。」
「さっきから気になってたんですけど…負の力って?」
「簡潔にいうならば、暗黒の力だ。
怒り、憎しみ、妬み、恨みを増幅させて使用する。
呪術師はそれを意識的に制御出来る。
イワンはそれが出来ないから、いつ壊れてもおかしくないんだ。
だからあいつに近づいてはいけない。
あいつといたら自分に被害が出る。」
バルドロは冷たく言い放つ。
「そんな…そんなの…おかしい…」
「今日はもう遅い。
帰ったらどうだ?」
「…はい。」
アルフレッドはその場を立ち去ろうとする。
それを、バルドロが止めた。
「あ、ちょっと待て!
今度酒場に行って他の職の奴とパーティー組んだらどうだ?
そしたらパーティーで仕事受けれるし報酬もなかなかだぞ。
少なくとも個人でここにいるよりはマシだぞ。」
「わかりました。」
アルフレッドは再び歩き出した。
その姿が見えなくなった後、一つの声がする。
「本当にあれでいいのか?」
ライド・モーグルだった。
「…ああ。
あいつは恐らく、強くなる。
…あいつにやってもらうしかないですな。
ヴェルナー・アンドロス司令。」
ライド・モーグルをその名で呼ぶ。
「ああ。三ヶ月後、決行するぞ。
スカー・オーランド大佐。」
二人の男性が、夕焼けの中に消えて行った。




