表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/15

第十話「俺は強くなる。」

第十話「俺は強くなる。」


東国魔王眷属討伐作戦報告


参加兵 5000


参加パーティ 1


死傷者 3587


指揮者 西国軍少尉兼東国軍中将 故カゲツ・カザハナ


討伐数 1


討伐対象 魔王眷属 羅刹




「何だこのザマは…


東国全ての軍を出陣させながら半数が壊滅。


しかもトドメをさしたのは例の西国のパーティらしいじゃねえか。


少尉も死ぬし、こんなんで魔王に勝てると思ってるのかねぇ。」


「そろそろあのパーティも国軍に呼び込んだ方がいいかもしれませんね。


それぞれが力を付けて来たみたいですし。」


「幸運にも魔王はまだ本格的には進行していない。


動き始める前に、準備は終わらせようぜ。」


「仰せのままに。指令。」




羅刹を倒した一行は、武器屋に戻っていた。


「そうか…カゲツの奴が…」


ゲンが言う。


この場にアルフレッドはいない。


カゲツが死んだこと、そして何よりも自分はもう騎士にはなれないという現実に耐え切れなかった。


「ゲンさんは、カゲツとはどういう関係だったんですか?」


ガイが尋ねる。


「儂の名前はゲンドウ・カザハナ。


カゲツの祖父で、国軍付きの鍛冶屋だよ。」


一同が驚く。ゲンは続ける。


「カゲツは若くして西国軍上官に赴任した。


しかしある時に東国軍で二番目に偉い中将として帰って来た。


儂は理由を問いた。


しかし、答えてはくれなかった。


きっと、こうなることがわかってたんだろうな。」


長い沈黙。


チャキ


ゲンがある刀を取り出す。


「これは我がカザハナ家に代々伝わる刀、『正宗』。


悪しき力を断ち切る最強の刀だ。


アルフレッド君にやってくれ。」


「そんなもの貰えないですよ!」


「いいんだ。


本当はカゲツにやるつもりだったんだ。


アルフレッド君ならカゲツの意思を継いでくれるだろう。」


「ありがとう、ごさいます…」


武器屋を後にした三人はアルフレッドの元へ戻った。


未だに立ち直ることができないアルフレッド。


初めてみせたアルフレッドの態度に、三人は対応に困る。


「カゲツはさ、殉死したんだよ!


名誉の死って奴?」


ガイが必死に言う。


「そんなの分かってるさ。


…でも、カゲツさんのせいで俺はもう騎士にはなれない。


あの人は、命と引き換えに俺の夢まで奪っていきやがった…!!」


「……っざけんな!!」


ガイがアルフレッドの胸ぐらを掴む。


「てめえ本気でそれ言ってんのか!?


カゲツがどんな思いで、お前に力を託したか分かってるのか!?


てめえの思い通りに全てがうまくいくはずが無いじゃないか!


侍だろうが騎士だろうが関係ねえ!


やるべきことはひとつじゃねえか!!」


「……理不尽だよ。」


アルフレッドが荷物をまとめる。


「どうしたのよ、急に。」


シンシアがアルフレッドの意向を尋ねる。


「俺はパーティを抜ける。


これからは三人で頑張ってくれ。」


「待てよ!アルフレッド!!」


アルフレッドは振り向かずに宿を立ち去った。


「あの馬鹿…!


これからどうするつもりよ!」


「……多分、アルフレッドは自分と戦っているの。


アルフレッドが腹を括って帰ってくるまで、待っていてあげましょう。」


「俺らも西国に戻るぞ。


国軍依頼の奴、多分この刀だろ。


アルフレッドが帰ってくるまでに終わらせとこうぜ。」


三人も西国へと帰還する。


そして、生涯この地を訪れることは二度と無かった。




「んでさ、この刀ってどこに納品すればいいんだよ?」


西国に帰って来たガイは尋ねる。


「それは、やはりクライアントの元へ納品するのが妥当だと思いますが…


何せ国軍様ですからね…」


受付人が言う。


「此方から連絡を取ってみます。」


受付人が電話を掛ける。


「連絡が付きました。


国軍本部へ来るように、とのことです。」


「ありがとうございました。」


依頼所を後にする三人。


向かう先は、国内最高組織、西国軍本部。




「上級職になったらもう前の職には戻れないのか…」


アルフレッドは図書館で本を読み漁る。


上級職になっても、全く系統の違う他の職に就くことは出来る。


しかし、一度就いてしまってその上の中級職や、上級職に就いた場合はその下位の職に戻ることは出来ない。


つまり、アルフレッドは剣士に戻ることは出来ない。


「くそ!やっぱり探しても見つからない…


やっぱり、俺はもう侍として生きていくしか…」


「何をそんなに落ち込んでるんだ。」


アルフレッドが振り向く。


そこには見覚えのある顔。


「ライド・モーグル…」


「いつものお前らしくないじゃないか。」


「お前に何が分かるんだよ…」


「お前の功績はいつも聞いてるぞ。


イワンの時も立ち向かって、この前の羅刹もお前がトドメをさしたらしいじゃないか。」


「何でそれを知って…」


ライド、もといヴェルナー・アンドロスが何かを取り出す。


国軍配属証明書。


そこにはヴェルナーの顔、本名、そして国軍階級が示されていた。


「……っ!?


ライドじゃない…?


しかも司令って…」


「俺はライド・モーグルなんかじゃない。


見ての通り西国軍最高司令、ヴェルナー・アンドロスだ。


お前を連れに来た。」


「…どういうことなんだよ…!!」


「おっと、その前に言いたいことがあったんだった。


お前の事、パーティの皆が心配してるぞ。」


「……俺は…まだ行くことが出来ない。


俺は騎士を目指してた。


でも、理不尽にも侍になってしまった。


自分が納得いくまで、ここを離れられない。


そして、皆に会うのはそれからだ。


俺は強くなる。


強くなった俺を皆に認めてもらいたい。」


「何だ、ちゃんと出来てるじゃないか。」


「えっ?」


「ほらよ。」


ヴェルナーが何かを投げる。


「これは…」


アルフレッドの手が捕らえた物、それは刀だった。


「東方土産の『正宗』だ。


じいさんに感謝しとけよ。」


「ゲンさんが…」


アルフレッドの目に涙が浮かぶ。


「俺はもう行くぜ。」


ヴェルナーがその場を立ち去る。


「ありがとう…っ、ございました…!!」


そして、アルフレッドも何処かに向かって歩き出した。


彼は騎士としてではなく、侍として生きることを決意した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ