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『山賊デモンズキング①』

「まさか、ここに来てもう剣を振るう羽目になるとはな……」


 腰に挿した鞘から剣を抜き、苦虫を噛んだような顔で、周囲の山賊達を睨むシレン。

 山賊達は皆シレンより遥かに大きながっしりとした体つきで、黄色いバンダナを着け、その腕には斧が握られている。数で圧倒している山賊達は余裕を見せ、不敵な笑みを浮かべている。


 攫われたリィナのことが気になる。一刻も早くこの場を切り抜けたい。


 突如、気配を消した一人の山賊が、シレンの背後に迫り、その斧を振り上げる――


 「悔やめ! 我ら『デモンズキング』にちょっかい出したことをッ!!」


 ――!? 回避が間に合わないっ――――



 ◆◆◆



 時は昨日まで遡る。


 《コーストリバー》もいよいよ間近に迫って来たので、ようやく一休みできると顔を綻ばせるシレンとリィナの二人。


 コーストリバーの周辺一体は森で包まれている。夜になると夜行性の魔物が多く潜むこの森は、「野宿すると死ぬ」と恐れられ、すでに日が暮れ始めている現時間帯に人気はない。無論、魔物である二人にとってはなんら関係のない話だが。


 昼間は鳥や虫の鳴き声が響いているが、今では静まりかえって何一つ音がしない。叫ぶものならどこまでも響きそうだが――



「きゃっ」


 女の声。悲鳴だ。

 突然の悲鳴に顔をしかめる二人。人工的に整備されたその歩きやすい一本道を外れ、声のした方へ走ってみる。


 茂みの中に隠れ、その様子を確認すると、どうやら複数の男たちに一人の少女が囲まれていた。

 男たちは頭に黄色いバンダナを着け、皆がたいのいいむさ苦しい男ばかりだ。5人はいる。

 一方、少女は黒髪のショートヘア、前髪にピンクのピン。それに腰に日本刀を挿している、といったところか。


 どうみてもいかがわしい光景だが、とりあえず様子を見る。


「ふふふ、可愛いねぇ、お姉ちゃん……」


 太く低い下品な声のその男は、少女の腕を強引に引っ張り、その髭面を近付ける。

 咄嗟に少女は顔を背け、手を振りほどこうと必死にもがく。


「おいおい、もしかして俺達が誰だかわかってないの~?」


 男はゲラゲラ笑いながら、頭に着けた黄色いバンダナを見せる。

 そこには大きく「D」と書かれている。


「まさか知らないわけないよね? 《デモンズキング》」


 少女は目を大きく開き、唖然とする。すると、抵抗をやめ、涙を流した。


 男たちが所属するデモンズキングとは、この辺りを縄張りをする山賊だが、近年その勢力を広げ、周辺地域の山賊達と手を組み、一つの大きな山賊となった。

 その悪事は窃盗、強盗、強姦から始まり、殺人までやってのける恐ろしい集団だ。

 無論、この街に近付くに当たってこの連中の存在を認知していない者などいない。いるとすれば、そこの茂みに身を伏せている、野次馬の二人くらいである。


「うひひひひひ……ヤるぞぉ? お前たち」


 これ程までに下劣な声は聞いたことがない。

 男たちは少女を取り囲み、服をビリビリと破き始める。

 少女は苦悶な表情を浮かべ、せせり泣く声がこちらにも聞こえる。

 

「……ペンタントぉ? まあいい、金になるかもしれないから、お前、預かっとけ。」


 俺が持って帰んのぉ?と仲間同士でペンダントを投げ合う。


 

 ――その時、茂みの中から人影が飛び出してきた


「ちょっと、やめなさいよ!!」


 それは我慢耐えかねたリィナだった。人間であろうと魔物であろうと、こんな横暴は許せない。リィナは怒りのあまり、握ったこぶしを震わせている。


 流石の男たちも驚き振り返る。まさか人がいたなんて予想だにしなかった。


「な、なんだテメェ! いつからそこにいた!」


 興奮のあまり叫ぶ男。

 その横から先程の髭面の男が静かに口を開く。


「まあ待てよ。こいつも一緒にやっちまえばいいだろ?」


 男達は顔を見合わせると、ニヤリと笑い、ゆっくり近付いてくる。



 ―――ガサッ!


 茂みに隠れていたシレンもようやく姿を現す。


「おいおい待てよ。俺も混ぜてくれない?」


 しかし目は笑っておらず、その手は腰に挿された刀を握っている。


「……チィ、仲間がいたのか。仕方ない、二人まとめてぶっ潰せ!!」


 髭面の男の叫びとともに、山賊達が駆け寄ってくる。


 リィナはシレンに「こいつらは私に任せて、アンタはあの子を」そう言うと、シレンは黙って頷き、リィナと山賊達の視線が行きかう直線上を避け、迂回するように少女の元へ走った。


 リィナはバックステップし、山賊達と距離を置くと、何やらぼそぼそ呟き始める。

 「うおおおお」という雄たけびを上げながらリィナ目掛けて猛ダッシュする山賊達。

 そんなに離れていたわけではなく、みるみる距離は縮められ、一人の山賊はリィナの目の前に到達、その右手に握られた斧を振り上げ、リィナ目掛けて振り降ろそうとした、

 その時――


 

 ゴォォォォォ――――


 突如吹き上げた突風。地面からだ。その木を倒すような勢いのものすごい突風は、リィナに接近していた山賊達をジェットブーストの如く宙へとのし上げる。


 な、な、なんだあ!!!?と数十メートル宙へ飛ばされた山賊は、何が起きたのかさっぱり。そのまま宙でピタリと止まり。今度は猛スピードで落下した。


 

 ドシンッ――――


 すごい高さから落とされた山賊達はそのまま伸びてしまった。



 間に合って良かった…とホッとするリィナ。今のはリィナの繰り出した風属性の上級魔法。本来ならもっと詠唱に時間のかかる魔法だが、レベルの高いリィナは簡略化された詠唱で魔法を発動させることができる。



「ひ、ひええええ」

 

 それを見た一人の山賊は、あわてて逃げだす。

 

「チィ、いくじなしが……」


 残された髭面の山賊は、逃げ去る山賊をチラリと見る。

 が、その間少女に接近してきたシレンと対峙しているその髭面はすぐに向き直る。


「さあ、どうする? アンタも逃げるか?」


 不敵に笑みを浮かべるシレン。


「ふざけんなあああ!!」


 髭面が斧で振りかかってくる。

 しかしその動きはシレンにとっては遅すぎた。シレンは右肩辺りに振り降ろされたその斧を、少しの動作で軽々かわすとそのまま男の腹に一発パンチを食らわせた。


「……ガハァッ!」


 馬鹿な…パンチ一発で、こんな…

 髭面の山賊はそのまま意識を失った。


 シレンの体の作りは人間とは違う。その肉体的能力は、人間のそれを遥かに上回り、パンチ一発でも簡単に骨を砕いてしまうほどだ。もちろん全ての魔物がそういうわけではない。シレンの力は大型の魔物に匹敵し、その力を小柄である人間体に納めているのだから、恐るべきものだ。


 シレンはすぐに少女を抱き起した。しかし、どうやら気を失っているようで起きる気配はない。

 上半身が肌蹴ていることに気づくと、あわてて少女から視界をそらす。


「そっちも終わったみたいね」


 少し疲れた顔をしたリィナがゆっくり近付いてくる。


「あぁ、なんとかな。……この子、どうするんだ?」


 リィナの顔を見上げる。


「どうするって……、まぁ飛び出したのは私だし、私がなんとかしないとね」


 辺りはすっかり暗くなってしまっている。魔物達の呻き声が聞こえ、魔物達の時間が訪れたようだ。


「まあ、ここに長居は無用だな。コーストリバーももうすぐそこだし、先を急ごう」


 そう言うと、シレンは少女を抱きかかえ、立ちあがる。


「そうね、その子については街についてから考えましょう」


 

 シレンとリィナは駆け足気味にコーストリバーを目指した。

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