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『告げられる真実』

 事件から数週間が経ち、俺は徐々にコーストリバーでの生活に慣れ始めていた。


 魔王城が近く、大いに栄えているこの街を拠点にしている冒険者は多く、信じられないほどの量の情報が毎日行き交った。この街にはいくつかのギルドが存在し、それぞれのギルドが独自の攻略方法でダンジョンの攻略を進め、この近辺のダンジョンも徐々に攻略されつつある。秘密主義のギルドが多く、有力な情報は伏せられてしまうようだが、この街のどこかにいる『情報屋』という連中はその情報さえもなんらかの手段で入手し、高い金額で流しているようだ。情報屋から情報を買うのはもっぱら別ギルドで、我先にと攻略の手を広めるのに必死らしい。俺は持ち合わせの金はないので、ちまちま聞き込みを繰り返しているわけだが……


 食事、宿、と最低限の旅費で済ましてきたが、ここに来て節約してきた旅費は一気に消えた。原因はリィナだ。あいつは情報収集はそっちのけで、毎日のようにシリア、ニナと出かけては、夜宿に帰って来るとやたらと荷物を持っている。冷やかな目で見てやると、「ゴメン!」と謝るものの、反省の色は全くと言っていいほどうかがえない。


 金のない俺は一攫千金を狙うため、以前カインが話していた『コロシアム』で開かれる大会とやらで優勝し、一気に稼いでやろうと目論んでいた。日々聞き込みばかりであまり体を動かしていなかった俺は、ひと暴れしてやろうと疼いていた。


 大会に関してはカインが一度参加したことがあるらしく、俺はカインに聞こうと思っていた。しかし、大会を週末に控えている今にも関わらず、未だに聞けないでいる。カインはデモンズの件以来、俺との接触を避けているように思えた。身に覚えのない俺は、カインの心情は理解できない。俺が手合わせに誘おうと声を掛けた時も、「ギルドの仕事が忙しいから」と断られてしまった。カインが彼の所属するギルドで幹部の地位にいるのは以前に聞いたことがある。しかし、断られたのは一度や二度の事ではなく、現に未だ彼と手合わせをした事がない。彼の異変をシリア達も気にしていた。彼は最近シリア達との関係もぎこちなく、一人で行動することが多いらしい。俺は大会の前に、一度彼と接触しようと試みていた。



 ***



 翌日の早朝、俺は欠伸をしながら宿の外へ出ると、森へ向かう一人の影が見えた。


「……カイン?」



 俺は、一人歩いて行くカインの後をこっそり追うことにした。

 

 カインはやたらと辺りを警戒しながら歩いているため、追跡には思った以上に神経を使った。

 よほど見られたくないんだろうな。と思いつつも足は進む。


 森の奥へ行くと、ふいにカインは立ち止まった。

 草陰に隠れ、こっそり覗き込むと、どうやらカイン以外にもう一人いる。

 カインの影でよく見えなかったが、その声は確かに聞き覚えがあった。



「へえ、キミがあの本を見てしまった子かい? デモンズから本が見られた形跡があるって聞いた時は本当に驚いた。怒ってデモンズを半殺しにしちゃったよ。でも、人目を避ける為にわざわざデモンズに預けたのに、預けたその日に君に見られちゃうなんて、傑作だね! アハハッ」


「………」


 カインの無反応に、やれやれと言った感じで男は話を続けた。


「でもさあ、何でまたあの本を取りに行こうなんて思った? まあそのおかげでキミが犯人だってわかったんだけどさ」

 

「……あの本の内容が事実なら、僕にはやらなきゃならない事がある。親友のために。その為にはあの本が必要だった。もっと、真実を知る必要があったから。だから……」


「君ね、勘違いしてるよ。あの本はねえ、この世界に関わるトップシークレットなんだ。一介の人間が見てはいけない物なんだ。それを見たってことがどういう事だか理解できる? 君には死んでもらわなければならないんだよ」


「殺されようと構わない。ただ、その前に僕は彼を、シレンを止めなければならない。彼が過ちを犯してしまう前に」


 しばらく沈黙が続いた。カインと話している男は少し考えているようだ。


「なかなか面白いねえ、キミ。面白そうだから、もうちょっと生かしといてあげるよ。でも、いいかい? もし本の事を他人に話したら、その時点で君を殺す。君だけじゃない。君の仲間も殺そう」


「……わかってる。今日あなたに会って、あの本は本物であると確信した。あの本に描かれていた勇者アゼルの姿は、まさにあなたそのものだったから」


「アハハッ! これは単なるコスプレさ。アゼルと名乗ったのはキミを試したかったからだよ」


 無表情のアゼル、それを無表情で見るカイン。


「って言ったら、キミは信じるかな?」


 フッ、と笑うとカインはその場を去った。

 


 しばらく沈黙が続く。アゼルが姿を消すまで、一歩たりとも動けない。



「ねえ、そろそろ出てきてもいいんじゃない? シレン君?」


「!!」


「ボクが気づいてないとでも思ったのかい? こっちに来て話そうよ」



 カインが完全にいなくなった事を確認し、俺はゆっくり立ちあがった。


「いつから気づいてた?」


「いつから? 君がカイン君と一緒にここに来てからだよ」


 ククッと笑うアゼル。

 以前会った時から思っていた事だが、気味の悪い男だ。


「それで、今の話は……」


「話を聞いていたんだろう?」


「今の話じゃ何一つわからない」


「当たり前だろう? キミに話す事は何もない……と言いたいところだが、僕はキミに興味があるんだ。とてもね。だから、少しだけヒントをあげよう」


「……ヒント?」


「キミには三年以上前の記憶がない、違うか?」


「!! ……何故、それを?」


「教えられない。ヒントそのニ。キミはその人間の風貌を疑問に思った事はあるか?」


「人間の姿をした魔物、極少数しかいないらしいが、俺もその類なんだろ?」


「違うね。魔物が人間の風貌をして生まれてくるなんて事は、有り得ないんだ」


「……俺は、”魔物じゃない”と言いたいのか? だとしたら俺は何なんだ?」



 しばらく沈黙が続いた。



「もし、キミが魔物ではなかったとしよう。それでも、魔王クルーエルの意向に従うか?」


「……何を言いたい?」


「キミはカインを殺さずに済むなら、その道を選ぶか?」


「……そんな道があるのか?」


「キミがその道を選ぶなら、ボクについて来い。ただし、魔王クルーエルは敵になる」







「少し、考えさせてくれないか。俺はカインを殺したくない。だが、お前の言葉を素直に受け入れる事はできない」


「待つよ。いつまでも待つさ。ボクはこの時の為に、耐えてきたんだからね」



 そういうと、アゼルは姿を消した。


 俺はしばらく動けなかった。

 まだ、頭の中が混乱していた。


 そして、三年前、俺の意識が芽生えたあの時のことを思い出していた。



 


 

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